小橋 昭彦 2003年3月6日

人類の起源について書こうとすると、落ち着かない気分になる。それというのも、今も新発見が続いている分野で、日々見直しが重ねられているから。おまけにぼくたちには、ヒトは一直線に進化したという誤った思いがある。たぶん、四足の猿が歩くたびだんだん背を伸ばし現代人に至る、しばしば見かけるイラストが原因だろう。場合によっては、その下に猿人から始まってネアンデルタール、クロマニョン、現代人などと解説が振ってあったりして、そうなるとやはりちょっと違う。

ぼくたちホモ・サピエンスは、ホモ属のサピエンス種に属する。ホモ属というのがいわゆるヒトだが、クロマニョン人が含まれるいわゆる新人、サピエンス種以外に、旧人に分類されるネアンデルターレンシスや原人と分類されるハビリス、エレクトスなどが含まれる。ぼくたちはその一種にすぎない。さらに言えば、ホモ属以外にも、人類には猿人に分類されるアウストラロピテクス属があり、アフリカヌスやアファレンシスといった種が知られている。21世紀に入ってさらにケニアントロプス属なども発見されており、人類を構成する種の数は、20種はくだらないと言われるようになった。

それらのなかでぼくたちサピエンス種だけが生き残ったのは、おそらくはほんの偶然。ニューヨーク州立大のズブロウ博士は、大災害や明らかな優劣に理由を求めなくても、死亡率がわずか2%違うだけで、一千年後に一方の種は繁栄し一方の種は絶滅すると指摘している。

人類学者のタッターソルは、約180万年前のケニア北部では、4種類の人類が共存していたと指摘している。交流はあったろうか。あったとすればどんなだったろう。ネアンデルタールが生き残っていれば、ぼくたちは生物の頂点に立っているなんて思いあがらずに済んだろうか。ホモ・サピエンス同士で争うことの愚かさにも、気づいたろうか。現生人類の孤独を思う。

1 thought on “孤独なホモ・サピエンス

  1. 書籍としては手ごろなところで『ネアンデルタールと現代人』をお薦めします。さて、サイトではまず「日本人・はるかなる旅展」の第1章を参照ください。それから「人類博物館」もまとまっています。こういうインパク関連、存続続けられるとよいのですが。手軽な解説としては「人類の起源と系譜」を。「最後のネアンデルタール 訳者あとがき」も参考になります。ケニアントロプスについてはナショナル・ジオグラフィックの「人類の進化の謎を解明する化石、ケニアで発見」を参照のほど。ちなみにトゥーマイについて「本当に最古の人類化石なのか?」という説も。

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