人間の眼が、明暗に比べて色合いにおおざっぱなのは、それぞれを担当する視細胞の違いによる。色を見分ける錐体細胞は網膜上に650万個、輝度を担う桿体細胞は1億2000万個。数だけでもこれだけ違ううえに、錐体細胞は明るいときを中心に働くようにできている。
配置にも違いがあって、錐体細胞は網膜の中心部に集中しているのに対して、桿体細胞は周辺部にも手厚い。考えてみれば、敵にしろ獲物にしろ、見分けるために必要なのは迫りくる陰といった情報なわけで、色はその次でいい。野生の名残といえるだろうか。
敵や獲物といえば、たとえ視野の周辺でも、動いていると気になるのも、これに関係がある。動くものは敵あるいは獲物の可能性があるわけで、だからこそ敏感。考えごとをしているときに目の端でちらちら動くものがあって気が散る、あれは知的活動と野生がたたかっているのか、なんて考えると楽しい。
夜によく見えないのが鳥目。確かめると、フクロウのような夜行性の鳥は別にして、昼行性の鳥には錐体細胞しか持たない種が多い。暗がりに弱いのも道理。それではと魚を調べる。こちらはどちらの細胞も持っている。腹が白い理由も明暗で説明されていて納得。太陽がさして腹側が暗がりになったとき、その反対の側である背が影のように黒ければ、全体が平板に見え敵に目立たない。カウンター・シェーディングといわれる方法。明暗を利用して身を守っているわけだ。
ここで再びヒトに戻る。ヨーロッパの人々の眼が青いのは虹彩という部分にメラニン色素が少ないため。日本人に比べて眼そのもののサングラス効果がなく、まぶしさに弱い。ひるがえって日本人は、まぶしさに強い眼ゆえか、夜に明るさを求め、色合いにこだわる。『陰翳礼讃』は谷崎潤一郎、漱石にも『明暗』と題した未完成作品があった。いまのぼくたちはどうだろう。心のヒダってのは、明暗でつかむもののような気がするけれど。
いまさら紹介するまでもありませんが、『陰翳礼讃』そして『明暗』。
いつも興味深く拝読し、よく勉強しておられることに深く感心しています。今日のテーマの視細胞に関して自衛隊に奉職していた昔習ったことがあります。曰く、「桿体細胞は白黒しか判らない代わりに感度は良い。夜間、暗がりの中で物を探すときは“周辺視”で行え。」実際の体験でも初期発見は周辺視、識別は凝視、というパターンが多かったように思います。
今後ともご活躍を祈念致しております。沖津辺 舟帆
ふと疑問に思ったのですが
カラーの印刷物を白黒コピーすると、それなりに陰影が出て気持ちよくとれたりするものと、真っ黒になって読めないものとあるじゃないですか。
コピー機の目の色と輝度を感知するセンサーはどっちが重きを置かれているんですかね。そもそも構造や原理は?
その「桿体細胞」が、遺伝子のトラブルがもとで非常に傷つき易くなる「網膜色素変性症」という疾患があります。
これはまだ、その発生のメカニズムもはきりせず、効果的な治療方法もなく、厚生労働省により難病指定されています。
4000人に一人の割合で発生するとされていますが、主な症状は視野狭窄と、夜盲です。私もその一人なんですが、現在、視野は10度鵲、暗い所は、ほとんど見えません。
正確な表現ではないのですが、トイレットペーパーの芯を二つに切り、小さな双眼鏡のように両目に当て眺めたようなもので、夜はさらにそれに濃いサングラスをかけたようなものと書けば概ね想像がつくでしょうか?
コラムに書かれてあるように、網膜細胞の大部分であり、明暗を守備範囲とする「桿体細胞」が壊れてしまう訳ですから、視野が狭くなり、鳥目になっても不思議はないですよね。
もしご希望でしたら、判り易く書かれたテキストデータをお送りしますので、ご連絡ください。
有さん、ありがとうございます。お恥ずかしいことに、存じ上げませんでした。いろいろな意味で、勉強になりました。
送信のお手数をおかけしてもいけないと思い、調べてみました。「日本網膜色素変性症協会」というのもあるのですね。
眼の話、視点を変えてもう少し突っ込んでみます。
いえいえ、知名度の低い疾患ですから、ご存知でないのは、当然かもしれません。現に私も含めての網膜色素変性症患者の殆どが初めて病名を告げられた時「え?何それ・・・」といった状況なのですから。
ところで、これは蛇足になるのかもしれませんが、小橋 さんに探して頂いた団体の活動以外にも、それなりに障害者同士の交流もあり、それぞれに生活をし、仕事をこなし、明るく暮らしています。
「どーなっつ屋さん」
ここなどが良い例だと思います。できましたら、一度覗いて頂いて、そういう人達の生の声も観察して頂ければ、この機会にと、投稿させてもらった甲斐があったというものかもしれません。
どーなつ屋さん、とても参考になりました。掲示板を拝見していて、健常者であるぼく自身が勇気付けられるようなところがあって、不思議ですね。