小橋 昭彦 2002年12月26日

 高知の桂浜には何度か訪れたが、闘犬は見る機会のないままでいる。なんでも土佐闘犬は幕末に在来の四国犬と外来種をかけあわせてできたものという。日本の犬は、ことに明治以降、このように外来種と交配されたものが多く、純粋の日本犬は、四国犬のほか柴、北海道、紀州、秋田など数少なく、これらは天然記念物に指定されている。
 日本人と犬は縄文時代からの付き合いで、ずいぶん古い。動物学者のローレンツは、人とイヌの共同生活は5万年前からと述べているが、少なくとも旧石器時代から親しい仲にあることは間違いない。最近のDNA研究によれば、イヌが家畜化されたのはおよそ1万5000年前の東アジアでのことだという。起源はオオカミだ。
 化石からは、その後数千年という短い間に、世界の各地にイヌが広まったことがわかっている。中東やエジプト、ヨーロッパ。ベーリング海峡を横切ってアメリカ大陸にも渡っている。それだけイヌが重宝されたわけだが、番犬や荷役、狩猟と、活躍する場面は確かに多い。
 ちなみに、高知県仁淀村の民家にニホンオオカミのものとして伝わる骨から採取したDNAを、帯広畜産大の石黒直隆助教授らが調べたところ、在来のイヌとも大陸系のオオカミとも違う、固有の遺伝子配列だったという。オオカミとイヌは交配が可能だが、ニホンオオカミはいったいどういう経緯で誕生し、そして絶滅への道を歩んだのか。
 オオカミとイヌは、頭骨の形が違う。額から鼻にかけてのラインが、オオカミはなだらかなのに対して、イヌではくぼんでいるのだ。前頭葉が発達したためと考えられている。ヒトに気をつかってのことなのかどうか。花咲か爺さんのイヌと赤ずきんちゃんのオオカミの役割の差を思えば、1万5000年前の分岐がどんなに大きな分岐だったかと感慨深く、これほどの関係をヒトとイヌが築けたことの奇跡を感じもするのである。

4 thoughts on “イヌ、1万5000年

  1. 土佐闘犬センター」、こんどは一度行ってみようかなあ。犬については「わんにゃんカレッジ:犬学部」でお勉強ください。古代DNAの研究については、日本でも「DNA考古学研究会」が立ち上がったところですが、「古代DNAデータベース」などどうぞ。イヌの起源についての研究は、米Science誌298号の「A Shaggy Dog History」をどうぞ。また、「ニホンオオカミは固有の遺伝子配列 骨をDNA鑑定」もご参考に。

  2. 大台ケ原の開山者、古川嵩(かさめ)に関する本を読みますと開山当時、狼夫婦と暮らしていたとあります。その後日本狼は絶滅、日本一の降雨量を誇る大台ケ原の気象観測にも貢献し、その情報をすぐに知らせる電話線も設置させたとのこと。

  3. コバシさん初めまして。
    いつも楽しみに読んでおります。

    「土佐闘犬センター」ですが、私も3年前くらいに行きました。

    ・・・行かない方がいいと思われます(笑)

    本当の闘犬はすごいかもしれませんが、あそこで見ることができるのは「観光客用」でしたよ。
    よく考えれば一日に何回も本気で戦ったら犬も足りないですよね。
    血が飛び散るような激しいものを想像していたのですが、片方の犬が、パクッと相手の腹に噛みついて(それで勝負アリ)、でも時間がもったいないからかそのまま試合は時間切れまで続行・・・という内容でした。 

    年に何回か「横綱決定戦」のようなものがあるようで、その日に見ればいいのかもしれませんが。

    一応西武の松坂投手も訪れた事があるようで、壁に彼が闘犬を見物している写真が飾ってありました。

    コバシさんがネタ用にどうしても!というのなら止めません。 まあ人間、最終的には人に語れる経験があるかどうかですから(笑)

    それではまた。

  4.  ジャック・ロンドンの「白い牙(ホワイト・ファング)」「野生の呼び声」という小説で、
    人間に服従したオオカミと、野生に戻った犬の話がありました。
    私自身は子供の頃に読んだのですが、最初はエサに釣られて人間に近寄ったオオカミが
    服従することに喜びを感じるようになるくだり、印象的でした。

    ただしオオカミといっても純正種ではなく、ちょっとだけ犬の血も混じっている・・という設定だったと思います。

    例えば鳥でも、オカメインコは人慣れします、とか、スズメは飼っても野生が抜けない、とか、
    いろいろ言いますよね? あれって本能でしょうか?
    たまに犬のように尻尾を振っているネコを見ると、「お前は自分のこと犬だと思ってるだろ?」とか聞きたくなります(笑)。

    PS.私も闘犬センターには行ったことがあります。
    噛まれた傷だらけの、最初から服従を表している闘犬が、同じところをまた噛まれてました。
    kbhakt さんと同じで私もあまりお勧めはしません・・・。

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