小橋 昭彦 2002年11月7日

 法事に来てもらった和尚さんから、数珠は計算機だと聞く。珠は煩悩の数である108つ。念仏を唱えるとき、ひとつづつ繰りながら唱える。ひとまわりすれば、二連になったもうひとつの輪の珠をひとつ繰る。こうして1万回唱えるときも、数を間違えなくて済む。
 小学館の百科事典にあたってみると、数珠の原語はサンスクリット語「ジャパ・マーラ」で、念じる輪の意味。後に「ジャパ」が「ジャパー」と誤って伝えられ、これがサンスクリット語でバラを意味することから、西洋で直訳されてバラの輪、つまりロザリオとなったともいう。確かに形が似ているが、ラテン語でバラの花冠を意味するロザリウムが原語だとする異論もある。
 数と起源つながりで、漢数字のルーツを調べる。なんと殷の甲骨文字。一は一だし、二は二。以下、現代の漢数字にとても似ている。3000年以上昔の文字をいまも使っているわけだ。ただし、読みはもう少し新しい。ひとつ、ふたつという和の読み方は別にして、いち、に、は呉の時代の読み方が入ってきたもの。
 おもしろいのは、兆(ちょう)から上は韓式の読み方であること。中国の国が代わったとき、読みを新しい国に合わせようとして、ふだん使う桁は定着しなかったけれど、大きな桁は漢式にできたともいう。ただ、ややこしいけれど、桓河沙(ごうがしゃ)から上、より大きな数はまた呉音。これはサンスクリット語がルーツで、とすると仏教で用いられていたことから変えるにしのびなかったということだろうか。
 ところで、現代の医学専門誌5誌を調べたところ、絶対的なリスクが4%から1%に減ったという事実を、「相対的なリスク軽減率75%」と説明するなど、強い印象を与える数字の使い方をしている論文が大半だったという。数字は、客観的に見えつつ、使い方によって読み手の心を左右する。操作されないためにも、数珠の珠でも数えて心を澄ませるか。

5 thoughts on “数を数える

  1. 数珠については「数珠は計算機?」、ロザリオについては「バラの名前・ロザリオの名前」、甲骨文字の数字については「殷の数字」がわかりやすく説明されています。また、医学論文での数字の魔術についてはJournal of the American Medical Association 2002年6月5日号の「Reporting Number Needed to Treat and Absolute Risk Reduction in Randomized Controlled Trials」をどうぞ。

  2. まるで関係はないんですが、私は法事で数珠を持つと必ず眠くなります。お坊様のお経の声、線香の香り、畳の床、い、いかん考えただけで眠く・・・・・。
    条件付けにしては気持ちよすぎる。なんなんでしょうね?

  3. 最近「数珠みたいなアクセサリ」をつけた若い方がいますね。
    それもピンクとか優しい色というより、茶色や黒っぽい色だったりして、
    こちらがどきっとしています。

    アジアブームのひとつ?かとも取れますが、
    ちゃんとした数珠はもたないけど数百円の数珠アクセサリはおしゃれ、という
    あの感覚、ちょっと私にはわかりません。

    ところで数を数えるわけではないんですが、
    確かに数珠みたいな玉が連なったものを手にとると、まさぐってしまいます。
    電話のコードもしかり。
    人間はあの手の規則性に惹かれるようにできている??

  4. 私は反対に歴史を意識しているのはアメリカでは
    ないかとおもいます。アメリカにはわずかな歴史しか
    ありません
    そのため、伝統(トラディッショナル)が大好きで
    す。伝統を
    大事にすることにより自分が歴史に参加しているとい
    う意識に
    浸る事が出来るのです。今回のイラクについても自分
    たちが
    民主主義の新しい歴史を、文明の発祥の地のひとつに
    持ち込み
    民族を解放するのだと興奮しているのではないので
    しょうか。
    私がこの事を学んだのは、江藤淳の『批評家の気儘な
    散歩』新
    潮選書からでした。絶版になっていますが、大変平易
    で分かり
    やすい人間の意識の歴史です。

    ひとつの例証になるかと思いますが、マッキントッ
    シュが傾いた
    とき、一番説得を持っていたのは、マックはアメリカ
    が発祥の
    ものだから絶対に潰れない、アメリカの伝統(心)を
    持っている
    からだというものでした。誰かが手をさしのべる。そ
    のとうり、
    マイクロソフトのゲイツが援助しました。名前を残し
    たいと言う
    のがその理由です。

    青臭い正義感が国を動かす、本当に怖いおもいがしま
    す。

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