小橋 昭彦 2002年9月30日

 宇宙飛行士への質問としてよくあるもののひとつは「トイレはどうするんですか」だという。サック状のものを局部にあて、出たものは宇宙空間に排出する。尿がきらきらと宇宙船の周りを漂うのはなにより美しいそうだ。アポロ宇宙船の記録を読むと、大のほうは、手袋付のポリ袋でかきだすそうで、不快この上ない。だからもっともよい対策は、便秘になること。
 とはいえ、尿の排出を失敗したり、吐いたり、下痢したりということもある。そうなると悲惨。ミッションの間は入浴もできない。アポロのカプセルが洋上に着水、ハッチを開けて出てくる飛行士を迎える映像を見るが、救援隊員はあのとき、独特の「宇宙の臭気」をかいだと回想している。さすがに最近の宇宙船では、トイレも着座式になるなど改善されてきているようだけれど。
 そうしたなかで対策が遅れている分野が、騒音だ。ファンやモーター、ポンプ、ギア。宇宙船内は音の発生源に満ちている。騒音問題についても予想されてはいたが、手が回らなかったのが実情らしい。
 月に立った最後の宇宙飛行士ジーン・サーナンの回想録に、月着陸船内で眠りつつ、外に広がる月面の静寂に思いをはせるシーンがある。アポロ宇宙船の騒音は、慣れることができる程度だったのかもしれない。進行中の国際宇宙ステーションの場合、さまざまな実験装置がつまれるため、深刻度が増してきたという事情もある。乗組員の報告によると、主作業区画で75dB。一般の掃除機並みの騒音だ。乗組員同士で、常に声をはりあげて意思疎通しなくてはいけない状況。
 騒音対策はようやくはじまったところで、まだ数年はこうした状況が続きそう。星見の対象ともなっている国際宇宙ステーション。もしその光をつかまえられたら、中で「何て言った?」と叫びあっているかもしれないと想像してみよう。星の世界が、ちょっと身近になる。

2 thoughts on “宇宙での暮らし

  1. アポロ関連の書籍としては『人類、月に立つ(上)』『人類、月に立つ(下)』が総合的かつ踏み込んだ内容でおすすめ。連続ドラマ『人類、月に立つ』としてDVDでも出ています。宇宙飛行士の視点から、ジーン・サーナンの『月面に立った男』、ひとつのミッションに関連して『アポロ13号 奇跡の生還』あたりをあわせて読むと理解が深まります。最近の宇宙でのトイレ関連事情は「宇宙での生活(2)洗顔・入浴」「宇宙での生活(3)トイレ」でどうぞ。国際宇宙ステーションの騒音については、「1999年のミッション」でも対策がとられていますが、近年の課題のひとつのようです。一般の騒音レベルについては、「目黒区」「騒音測定器」「騒音を伴う家庭内作業時の音の聞きとり」などを参考にしました。掃除機、最近は消音型が多く出ていますね。「掃除機」に一覧がありますが、70dBもないものが多くなっています。

  2. 先日NASDAの「宇宙へ好奇心!」というイベントを担当させていただいた中学校の教員です。国際宇宙ステーションと生徒がリアルタイムで交信を行っている瞬間を目の当たりにして、とても感動しました。
    ちょうど地球の裏側にきているときに、交信を行っていたのですが、画像もとても鮮明で音声の後れもほとんどなく、科学の進歩につくづく感心しています。
    宇宙への夢がまた一歩、近づいた事を実感したひとときでした。この感動を、多くの生徒に伝えたいです。

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