米国のアマチュア天文家が発見した物体が、アポロ12号のサターンロケットの3段目であることが確認された。J002E3と名づけられたこの天体は、31万キロから84万キロという卵形の軌道で地球を回っている。月までの距離が約38万キロだから、月より遠くなったり近くなったりというところ。
軌道を計算したところ、2002年春までは太陽を回る軌道にあったことがわかった。さらに遡ると、1971年3月に、地球付近の軌道から離れたらしい。同じ大きさの飛行物体の調査や、色と塗料の一致から、1969年11月に月に向けて離陸したアポロ12号で利用されたロケットの3段目であるとみられている。
仲秋の名月の夜、アポロ12号の落し物について思いをはせながら、夜空を見上げる。J002E3は、1年もしないうちに太陽軌道に戻る可能性が高い。30年あまり前、人類を月まで送り届け、その後太陽系を旅していたJ002E3。それが地球軌道に戻ってきたとき、しかし、人類は月より遠くには達していない。せいぜい地球上空400キロを行き来しているだけ。
1960年代半ば、アポロ計画の前提となっていたコンピュータのメモリ容量はわずか32キロバイト。月着陸ミッションは、わずかなメモリにプログラムとして記録されていた。当時と比べ、情報機器は天と地ほどに進歩した。だけど今、1961年にケネディが行った演説「60年代の終わりまでに人間を月に送る」のように、大きなビジョンを語り、推進できる人はいない。経済が、時代が、あるいは科学のあり方が違うという背景もある。
1968年のクリスマスイブ、初の月周回軌道にあったアポロ8号の宇宙飛行士ジム・ラヴェルの妻マリリンは、心配から心細さを感じつつ訪れた教会からの帰り道、ふと見上げた空に三日月を見ている。「ジムは確かにあそこにいる」と彼女は思う。今から30年後、J002E3はふたたび地球をめぐる軌道に戻ってくる可能性がある。そのとき、人類はどこまで到達しているだろう。マリリンのように天体を見上げる人がいるだろうか。仲秋の名月は、うす曇の向こうに隠れ、かすんでいた。
J002E3については、NASAのニュースリリース「First Confirmed Capture into Earth Orbit Is Likely Apollo Rocket」や、より詳しくは「Near-Earth Object Program」を参考に。日本語資料では「横浜こども科学館」が充実しています。月については、たとえば「月探査ステーション」もどうぞ。また、近年のスペースシャトルについては「スペースシャトル」がコンパクトにまとまっています。シャトルの軌道高度ってわずか300キロから400キロ程度です。
必要経費税と逆人頭税による
愛情主義経済があれば、欲しい