小橋 昭彦 2002年5月30日

 背中のしま模様からタイガーと呼ばれるけれど、姿は犬のようでフクロオオカミとも。有袋類、カンガルーのようにお腹にポケットがついている。タスマニア島に住んでいたが、19世紀以降、入植してきた白人が続々と殺害。最後に捕獲されたのは1933年、すでに絶滅したと考えられている。
 このタスマニアタイガーのDNA複製に成功したと、シドニーのオーストラリア博物館が発表した。遺伝子技術を用いれば、10年ほどで復活が可能ではないかという。高いハードルが残るにせよ、人類は、自分の手で滅ぼした生命を再生することができるようになるのかもしれない。
 とはいえ、たとえ再生してもそれはすでに野生のタスマニアタイガーではなく、いわば恐竜公園、ジュラシックパークの住民ではあろう。そんなことを考え、ふと、テングシデについての話を思い出す。
 テングシデは、広島県大朝町にある国指定の天然記念物。幹や枝がくねくねと蛇のように曲がっている。地元には、木を傷つけると天狗にさらわれるなどの言い伝えがある。テングシデをくねらせる正体は、突然変異。ねじれる形質を持つ遺伝子が代々伝わったものという。ただ、こうした遺伝子は本来、劣勢で競争力が弱い。それが生き残ってきたのは、地元の人々がねじれた木を恐れてまっすぐの木ばかりを切り倒した結果だとされている。
 人が自然を変える。そんな共通性からタスマニアタイガーの再生とテングシデを連想したものの、両者は大きく違う。テングシデを生んだのは伝説であり、自然に対する人のおそれだ。タスマニアタイガーを生もうとしているのは、自然への敬意か、あるいは技術的な挑戦心か。ふたつの間の違いを見つめ、われわれ自身が天狗にならないようにしなければと思ったことだった。

5 thoughts on “タスマニアタイガーとテングシデ

  1. 昨日5/29NHK午後3時のTV番組で、柳生博さんと横浜の動物園園長さんの話の中で豊岡町のコウノトリの復活に50年前から取り組んで、やっと100羽目の雛が誕生したそうですが、まだゲージの中での飼育とのこと
    将来の目標は、昔のように田植え時などにはすぐ近くで人と共存していたようにしたいとのこと
    そのためには農薬を使わない、カルガモを利用して除草するとか、昔の環境を復活させなければできないようです。
    昔から目出度いとされている鶴とはコウノトリを指しているそうです。

  2. 人の存在形態が遺伝情報の一つだとすれば、テングシデは賢いですね、でも偶然とは簡単に決められないことが生命の不思議だと思いいますね。
    遼太郎君も元気ですか。
    ・・・
    ひろたん。

  3. テングシデのお話を見て平家ガニのことを想いました.
    自然の一部であるはずの人間が故意ではないにせよありのままのものを枉げる、ということはとても興味深いです.

  4. そうそう、平家ガニ。ぼくも思い出し、一稿目では触れていたのですが、人間がどの程度関係したかの資料が見つからず、確証がなかったので、コラムからは削りました。

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