小橋 昭彦 2002年4月8日

 この世には動物と植物がいる。そう信じられていたのは、もう昔の話。ダーウィンの進化論を受けて生物の系統樹を構想したドイツの動物学者ヘッケルが先鞭をつけたのが植物・動物の二界説だけど、この二つの王国は1969年に崩壊する。
 その年、生物を動物界、植物界、菌界、原生生物界、モネラ界の五つに分けたのがホイタッカー。以後、広く受け入れられるようになった。この五界説を補強したのがマーガリスで、『五つの王国』という書籍にまとめている。
 マーガリスが提唱する共生説は、真核生物の起源が共生だったとする、素人が聞くとSFのような話なんだけど、有力な説なのだとか。つまり、モネラ界に属する、はっきりした核をもたない原核生物がまず地球に生まれ、これらが共生することで真核生物が誕生し原生生物界を形作る。原生生物界が多様化することで、菌界、植物界、動物界が生まれる。こうして現在の五つの王国が生まれたと説明する。
 地球上にはさまざまな生命がいる。ひと昔前までは生物なんていないとされていた地下にも、生物がいることがいまでは常識。太陽光も酸素も無い、だからこれらの生物は硝酸や硫酸などを酸化に利用してエネルギーを得る。いわば硝酸呼吸や硫酸呼吸をしているわけ。地下数百メートルから見つかった細菌が、採取されたあと、2億5000万年の眠りから覚めたなんて報告もある。ほんの少し前までは誰も信じていなかった、マントル生物圏の可能性さえ、指摘され始めている。生物圏はいったいどこまで広がるのか。
 マーガリスは、最近では古細菌を分離し、六つめの王国としている。またウィルスは、生物としての分類におさまらない、しかし生物的な存在として五界とは別に位置づけている。広大ないのちの王国のなかでは、ヒトなんて動物界脊索動物門、哺乳綱獣亜綱、さらには霊長目ヒト科云々に属する小さな存在だ。知識を求め、人を愛し、自らの存在意義を問う、小さな奇跡ではあるにしても。

4 thoughts on “いのちの王国

  1. Lynn Margulisの日本語表記はコラムで用いたマーガリスのほかに、マルグリス、マーギュリースなどもあり、定まりません。ともあれ、『五つの王国』をご参照ください。生物の分類については、「生物の大分類の歴史的変遷」がわかりやすいです。「生物の進化と多様性」もご参照ください。読み物としては「掌のような世界:五界説と共生説」がおもしろいです。「原生生物図鑑」や「地球資源論研究室」など、この分野の有益なデータベースは多いですね。

  2. 今日の雑学を楽しみにするようになってからもう、かなり立つと思います。なんだか、殺伐としているというか、自分に自身があるように振舞うことにちょっとつかれているというか、そんなときに、ふっと肩の力を抜いて素の自分で楽しめるような気がします。なんだかうまくいえませんが、ほほが知らぬ間に緩むような、そんなほんわかした雰囲気のなかに、子供のころに感じていた大切なことを思い出せる、とても感謝しています。これからも、楽しみにしています。

  3. 今日は朝からなんとなく「仕事ってなんだろー」モードです。
    でも、今日の「今日の雑学」を読んでいたら、そんな悩みなんてきっと、どうでもいいことなんだよなぁと思えてきました。
    小さな奇跡のごく一部のわたし。でもその奇跡は小さくても私のものでしかない。
    そんな元気をもらいました。投稿するのは初めてですが、今日もありがとうございます。

  4. maggieさん、春の憂鬱さん、ありがとうございます。そのように読み取っていただけることが、作者としても無上の喜びです。これからもよろしくお願いいたします。

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