小橋 昭彦 2002年3月20日

 健康に関する記事はよく見かけるもののひとつ。最近研究が進んでいるのは「フレンチ・パラドックス」。脂肪の多い料理をとるフランス人が心臓病にかかりにくいのはなぜか。適量の赤ワインが心臓病を防ぐ機構が、遺伝子レベルで解明されたりしている。
 悪役になることの多いタバコは、厚生労働省の研究班がたばこを吸わなければ男性死亡の5人に1人は防げたと発表したり、化粧品会社がたばこの煙に触れているとシミができやすくなると研究結果を発表したりして、ますます肩身が狭い。
 睡眠に関しては、8時間睡眠が理想という従来の考え方が揺らぎ始めている。米国で約110万人を対象に調査したところ、死亡率がもっとも低いのは1日に6時間から7時間眠る人だったそうだ。食習慣や運動なども考慮したうえの数字。
 こうした、いわば病気の至近的な要因を探る研究に対して、進化医学という視点を提供しておもしろかったのが『病気はなぜ、あるのか』という書籍だった。たとえば虫垂炎の至近要因は細菌感染だけれど、進化医学的には、退化していいはずの虫垂が無くならないのは、小さくなると感染で虫垂が破裂する可能性が高まり、これ以上の退化が阻止されているためと説明される。
 あるいは、ヒトが高カロリーの食べ物を好むのは、アフリカのサバンナではめったに手に入らない貴重な栄養源だったからで、その名残だとも。進化医学的に見ると、ヒトはアフリカでのサバンナ時代にとどまっているのだそうで。
 そもそも、ヒトは生まれたと同時に避けられない「病」にかかる。老化だ。老いると生存競争上不利になるのに、なぜ淘汰されなかったのか。答えとして、老化に関係する遺伝子が、若いうちは生体に有利に働くと提示される。若さの活力ゆえに、老いる。
 もし老化がなく、18歳レベルの死亡率が続いたなら、人口の半分が700歳近くまで生き、1割以上が2000歳まで生きるという。さて、そこまで生きて何しよう。そう考えて、かえってこの瞬間の生のありがたさを思う。老いることゆえの、いのちの輝き。

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2 thoughts on “進化医学

  1. 進化医学については、『病気はなぜ、あるのか』をお読みください。睡眠時間と寿命の研究は、「Mortality Associated With Sleep Duration and Insomnia」、赤ワインの遺伝子レベルの効能は「Endothelin-1 synthesis reduced by red wine」(Nature 414 863 – 864)の、それぞれの論文をご参照ください。喫煙とがんについては「喫煙とがん」、肌のシミについては「たばこの煙が、シミの一因」をどうぞ。

  2. そうだ、今回紹介している化粧品会社のたばこの煙と肌のシミの研究ですが、正しいかどうかは分かりませんので、あえて化粧品を進めるものではないです。念のため。サイトでの発表もちょっと弱いですよね。

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