小橋 昭彦 2002年3月10日

 日没後の西の空に、新しく発見された池谷・張彗星が輝いている。発見されたといっても、どうやらこれまで何度か地球を訪れていたらしい。軌道計算からは、この前訪れたのが1661年と推測されている。だとすれば、341年ぶりのこと。かつてこれほど長い周期で彗星の回帰が確認された例はない。
 1661年。イギリスではニュートンがケンブリッジ大学に入学し、パリでオペラ座バレエ団が結成され、日本は江戸初期、はじめての藩札が発行されている。さらに軌道を計算すると、877年に見られた彗星と同一ではないかともされる。日本では「元慶元年正月25日(877年2月11日)、酉刻客星壁ニ見ハル」との記録が残っているとか。
 ぼくたち生命は、彗星が運んできたのかもしれないという説がある。自然界のアミノ酸には右型も左型もあるけれど、生物のアミノ酸には左型しかない。これは宇宙で中性子星の出す円偏向という特殊な光を浴びて左型が多数派になった結果ではないかというのだ。提唱者は米国のウィリアム・ボナー博士ら。
 約46億年前の太陽系誕生の頃できたといわれ、1969年にオーストラリアへ落ちたマーチソン隕石に含まれるアミノ酸の研究では、確かに左型が多いと報告されている。宇宙で左型優勢となったアミノ酸が、彗星などで地球に運ばれて生命の素となったのか。
 池谷・張彗星は今後アンドロメダ座からカシオペア座の方向へ北上しつつ、4等級くらいの明るさになるそうだ。西空を眺め、877年の平安貴族を思う。後に大宰府に流された菅原道真が、頭角を現し始めた頃。そして、ぼくたちが左型の生命として銀河の片隅にいるのは、小さな偶然かと問う。宇宙のどこかに、右型の世界があるのだろうか。ぼくたちは、遠く流されてきただけだったのか。
 東風(こち)吹かば匂ひおこせよ梅の花 あるじなしとて春な忘れそ。北野天満宮の梅は、もう散り始めているだろうか。

3 thoughts on “彗星との出会い

  1. 池谷・張彗星については「池谷・張彗星観測ガイド」がおすすめ。アミノ酸の偏りについては、神戸大学の「中川和道教授」そして大阪大学の「井上佳久教授」(「井上光不斉反応プロジェクト」も)らの研究が進められています。生命起源については、NHKの「宇宙」で放映されて話題になりましたね。「中性子星が生物のアミノ酸を左手系にしたのか?」もご参照に。「生命の左利きの謎」のコラムも参考になります。不斉反応といえば、野依良治名古屋大学教授を思い出しますが、「2001年度ノーベル化学賞/不斉触媒合成」がていねいです。なお、北野天満宮は、「北野天満宮 梅ニュース」をどうぞ。

  2. 菅原公が大宰府に流されたとき、嫡子「右少弁高視朝巨(たかみあそん)」も、土佐権守として土佐国潮江に左遷せられたんですね。

    妻の実家が高知なのですが、3月24日から30日まで潮江天満宮で1100年祭が行われるのだとか。

  3. > ご飯のとき、くだものから先に食べるくせをなおしている。
    食事の悪い癖を直すのは、本当に小さいときにやらないと
    大変ですよ。
    本人にはつらいかもしれませんが、将来のためです。
    がんばってください。

Leave a comment.

Your email address will not be published. Required fields are marked*