小橋 昭彦 2001年11月27日

 星の並びに神々の姿を見たり、火星に運河を見たり、ときには鯉の模様に人の顔を見たり。人は自然に作られたパターンに意味を見出しがちなもの。
 たいていは勘違いで終わってしまうのだけれど、案外、そのうちいくつかはほんとうにそうとしか受けとれない模様になっていたりする。ポーランド科学アカデミーのカチンスキー、レガウィックというふたりの研究者が、実験によって、こうした自然のいたずらが実在することを確認した。
 これは化学物質の混合物を利用して行ったもの。反応拡散系といって、皿の中に入れたゲル中を、異なる速度で拡散しつつ化学反応をおこす現象を利用した。皿の寸法を変えたり、特定の化学物質を加えたりしてさまざまに実験したところ、AからZまですべての文字ができたという。発表論文のスケッチを見ると、確かに、アルファベットにしか見えない文字が並ぶ。GやQのようなつきぬけるところがないのは愛敬だが、それも書体デザインの範囲内。新しいフォントとして提供してもいいんじゃないか。
 もちろん、この実験がそのまま人面魚を説明するものではないけれど、自然はいたずらをするということが確かめられたのではある。世の中には、蝶の羽模様で数字やアルファベットすべて集めることも可能だそうで、宮古島の蝶園などで見かけることができる。
 子どものころ、風邪をひいて寝込んだ午後、天井の木目にヒーローの顔を見たり動物の姿をたどったりしたものだった。団地の白い天井にそれは無い。実験レポートに目を通しつつ、子どもは天然木の天井の下で寝かせたいと、そんなことを思ったのだった。

1 thought on “自然のいたずら

Leave a comment.

Your email address will not be published. Required fields are marked*