ビールがおいしい季節。白い泡が浮かんだ生ビールを傾ける至福のひととき。考えてみれば、ビールに限らず、ぼくらの日常で泡に出会わないことはまずない。パン、清涼飲料、石鹸から発泡スチロールまで。
物理学者のドナルド・グレイザーがノーベル賞を得た素粒子の振る舞いを記録する「泡箱」は、ビールの泡を見て思いついたという逸話も残る。日常生活から科学の最先端まで、泡の謎はつきない。
この宇宙も、直径1億光年あまりの泡がたくさんくっつき、その表面に銀河が集中し、内部には少ないといった様子だという。泡宇宙ともいわれる構造。
泡が球形になるのは、それがもっとも表面積が小さく、エネルギーが小さくてすむからだ。ビールに割り箸を入れるとそのまわりに泡ができるのも、割り箸のくぼみに接していれば泡の界面が少なくてすみ、エネルギーが小さくていいからできやすいことによっている。
そういえば、辛いことが少なくなかった若いころ、部屋の片隅で身体を丸めて耐えた日もあったっけ。あれは、自分の身体を泡のようにして、世の中との接点を小さくしようという努力だったのかも、と空想する。あのとき、そんな泡が世の中にはたくさんあって、この宇宙もまた泡のつらなりと知っていれば、少しは自分を救えたろうか。
ベランダで遊ぶ子どものシャボン玉が風に流されて部屋に入ってきた。梅雨のあいまの、晴れた一日。しばし、この虹色の泡と風を感じていよう。
ビールの泡については「ビールの泡を科学する」がおもしろいです。また、泡については、新刊『泡のサイエンス』がおすすめ。
メール配信時、「この宇宙もまた銀河の泡のつらなり」としていましたが、「この宇宙もまた泡のつらなり」と訂正します。その方が文意が伝わりやすかったですね。また、「ベランダで遊ぶ」の「で」が抜けていました。反省。
ところで、読者の方から、一昔前までは技術的にいかに泡をなくすかが課題だったけれど、最近ではビジネス上いかに利用するか、という視点が出てきておもしろい、とメールいただきました。たとえばインクジェット等の原理を応用し、「薄く均一に塗工」したり「光通信等に使用する光スイッチに応用」したり。なるほど、確かにそうですね。ありがとうございました。
最近は泡を含んだエーロゲルという素材も開発され、火星探索機で利用されるなど、応用分野が広がっているようです。