小橋 昭彦 2001年6月4日

 病で亡くなった会社時代の若い先輩を夢に見て、夜明けに目覚める。先日通知を受け取ったときには思い出せなかった、表情の細部。ひきづられるようにして、先年亡くなった上司や、事故死した同期の顔が浮かんでくる。どこか砂の中に埋まっていた記憶が、掘り出されるように。記憶は、埋もれていくものなのか。
 遺跡の多くは土の中にある。なぜ埋まっているのかは、現地説明会でもよく出る質問だという。自分の手で埋めたなんていうのは論外として、地球が太っているわけでもあるまいに、ときには何メートルもの地中から掘り出される。
 そこに魔法があるわけではない。日々風で運ばれる砂に埋もれたり、河川のはんらんで土砂が積もったり、火山の噴火で埋まるなど、自然のはたらきが、遺跡を地中深く隠していく。
 部屋の片隅のテーブルを指でなぞってみるといい、日常生活でさえ、チリはつもる。毎年数ミリ積もるだけで、単純計算で千年もたてば数十センチになる計算。もちろん、中には大阪城の例が知られているように、人為的に埋めたものもある。
 ところで、あなたの家の庭を掘っていて土器などが出てきたらどうすればいいのだろう。本来的には落し物として警察の管轄だけれど、落とし主が現れるはずもないので、その必要はない。教育委員会の考古学担当の人に連絡するとよい。
 遺跡の保存方法は、土に埋め戻すのがいちばんともいう。遺跡は土に、思い出は、心の砂浜に。

8 thoughts on “埋もれていく

  1. 今日の没ネタ。メソポタミアの大湿地昨年までの9年で9割消失(朝日5月19日)。ポケモンはキャラクターが進化論に基づくとして湾岸イスラム諸国で禁止(朝日5月8日)。

  2. 小橋様、毎日楽しみに拝読させて頂いております。

    思い出は心の砂浜に・・・・・
    確かにそうですね、いろいろな思いが積み重なって、ある日ひょんなことから鮮やかにその当時のことが、鈍い心の痛みや、若やいだときめきとなって蘇る。
    多分記憶も変質し、美化したり、誇張されてはいるのであろうし、もう誰にも確認をしようがない「遠い日」の心の奥底のざわめき・・・・
    あなたを含み、文才のある方が羨ましい。
    自分が生きた証を残したい、人生の黄昏に向かって、落日を押し戻そうとする虚しい努力、あがきにも何か意味があるのだろうかとちょっぴり自省の一時でした。
    有難うございます。

  3. いつも楽しませていただいています。
    いろんなことを知ることができて勉強になります。

    お願いしたいことなんですけど、聴覚障害者についてのなにか情報があったら読んでみたいです・・・。

  4. 見つけた土器をどうするかですが、少々補足させていただきます。

    教育委員会に届けるというのは、「文化財保護法」第57条の5によっています。条文によれば文化庁長官に「届け出なければならない」ということになっています。

    文化財保護法は「改正文化財保護法の全文」で目を通すことができます。この文書を提供している「日本の考古学リソースのデジタル化」もいいサイトですね。なぜ教育委員会になのかは、「埋蔵文化財の鑑査等の事務の委任について」あたりが参考になりそうです。ちなみに、この文書を提供している「縄文学研究室」も良いサイトです。

    で、警察に届ける必要がないという部分は、「歴史博士の考古学なんでも質問箱」を参考にして記述しましたが、やはり落し物は落し物なので、届け出たほうがいいとは思います。この部分、訂正させていただきます。

  5. ということで、該当段落、
    「 ところで、あなたの家の庭を掘っていて土器などが出てきたらどうすればいいのだろう。本来的には落し物として警察の管轄だけれど、落とし主が現れるはずもない。まずは地元の教育委員会に連絡しよう。」
    と訂正させていただきます。

  6. >本来的には落し物として警察の管轄だけれど、落とし主>が現れるはずもない。

     とすると、半年経てばジブンのもの?

  7. >とすると、半年経てばジブンのもの?

    はい、基本的にはそのようです。ただし、遺失物法と、上記した文化財保護法との関係で、どちらが優先するかなどいろいろ定められています。国庫に帰属する場合もあります。そのときは報奨金が出るようですが。詳細は文化財保護法60条以降に触れられています。

    実際の運用上どのようになされているかは、いま手元に情報がないので不明です。ごめんなさい。

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