小橋 昭彦 2001年5月22日

 ホタルの季節が近づいてきた。闇に浮かぶちいさな光を求めて、野草をかきわけた幼い日。
 ホタルの光は、ルシフェリンという発光物質が、ルシフェラーゼと名づけられた酵素のはたらきで酸化することによっている。つまり燃焼作用なのだけれど、一般の火と違ってホタルのそれは熱くならない。酸化で発生するエネルギーのほとんどを光とし、熱として放出しないからだ。光への変換効率は90%以上だとか。冷たい火と呼ばれるゆえん。
 発光原理は違うけれど、同じくエネルギーから光をつくりだす蛍光灯では、変換効率はせいぜい20%というところ。ホタルの光がいかに効率いいかがわかる。照明器具会社のなかには、ホタルの仕組みをいかした光源開発に取り組んでいるところもある。
 夏の虫といえばハエもそうだけれど、これまた驚異のメカニズムを持つ。視覚だ。8つの視細胞からなる個眼を約6000持ち、ほぼ360度の視野を確保する。その情報処理方法を知ることで人工視覚の開発につなげようという研究もまた、進んでいる。
 身近な、小さな生命にも、学ぶべきところがまだ多く残されている。ホタルの光、トンボの複眼、あるいはカブトムシの力。少年の日追い求めた世の中の驚きたち。いや、見方さえ間違わなければ、ぼくたちはまだ、それを見つけることができる。

2 thoughts on “冷たい火、六千の眼

  1. 今日の没ネタ。鳥取の名産二十世紀ナシは1904年に原木から苗木を移植したのがはじめ(朝日4月17日)。過ぎ越しの祭りの間、酵母を発酵させたパンを食べないユダヤ教、レストランに罰金(朝日4月14日)。大手コンピュータ会社の子会社が製造したパンチカード機がナチスドイツで使われたのではと論争(朝日4月17日)。弥生人の頭骨から脳組織(日経4月16日)。

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