小橋 昭彦 2005年5月19日

 地元集落の隣接地に自動車解体工場が建設されることになり、ごたごたしていたのだった。リサイクル法によって地域への配慮がなされるようになっているとはいえ、何も里山の地にわざわざという思いがある、一方で住民自身、車がないとやっていけない日常を送っている。いわゆるNIMBY問題である。
 ニンビー。Not In My Back Yardの略。ゴミ処理場など、地域住民にとって望ましいと思えない公共施設をどう設置するか、という問題だ。NIMBY症候群という呼び方もあり、一時は地域エゴといった否定的なニュアンスを含んでいたようだ。でも、必要性はわかるけどウチの庭にはやめてよ、という感覚は、誰もが共有できるものを持っている。
 ではそれをどう解決するのか。地域に負担だけおしつけて自分たちは受益のみを享受する、いわゆるフリーライダーを防ぐことはもちろん重要なポイントのひとつ。もうひとつ重要だと思ったのは、地域内での合意形成のあり方への着目だ。補償金などで地域の願いを汲み取るというだけではなく、そうした意思決定の過程そのものに地域住民の参加を得る。結果より過程の重視。
 思い出したのは、ブータンでは国民総生産ではなく、国民総幸福の増大を掲げているという話。同国での指標作りはこれからだけれど、幸福に関する研究をこのところよく目にする。幸福感を生むには、ある程度までの金銭的余裕は必要だが、一定水準を超えると富の増大とは相関しない。選択肢が増えるとむしろ幸福感が減衰するという事実は以前コラムでもとりあげた。政治面からは、ブルーノ・S・フライらが『幸福の政治経済学』で、政治への参加の権利が保証されていることが、幸福感につながっていると指摘している。
 思えばごく身近な日常でも、もっとも辛いと感じるのは、自分の声がどこにも届かない、届かせる場さえないというときではなかったか。そこに聞く人がいるということは、それだけで幸福なことなのだ。

7 thoughts on “NIMBYと幸福感

  1. NIMBY ー 米国における公共施設の立地問題」「NIMBYから地域コミュニケーションへ」の論考がよくまとまっています。

    幸福のフィールドワーク研究会の「News Letter No.5 」もご参照ください。

    で、『幸福の政治経済学』。内容は専門的ですが、この方面に興味のある方にとっては、さまざまな調査結果がまとめられてもおり、よい本となっています。幸福研究については、かつてのコラム「しあわせですか [2004.06.24]」もご参照ください。このコラムで取り上げたシュワルツ博士の著書がその後発売されました。『なぜ選ぶたびに後悔するのか』です。そちらも参考になります。

    ブータンの国民総幸福については「Gross National Happiness」などご参照ください。

  2. どうすれば情熱を持って仕事が出来るか?
    について考えていました。
    幸福を対価とする「国民総幸福」ですか。誰もが幸福とは何かと真面目に考えなくてはなりませんから
    大変ですが、とても素敵な事ですね。
    幸福先進国ブータンに我々も続きたいです。
    貴重なアドバイスを頂きました。
    ありがとうございます。

  3. 直接の関係はありませんが・・・。
    戸建て住宅の 直ぐソバに巨大マンションが建設される。地域住民は ノボリを立てて猛反対。しかし 考えてみると・・・。
    1.人口増加
    2.税収アップ
    3.インフラの整備
    4・地域の価値が上がり 反対していた戸建て住宅(地価など)の価値が上がる。

    戸建て住宅のオーナーは 労せず所有物件の価値が上がる訳です。 反撃がないと知っているので 反対はかなり手厳しいモノの様です。 (4の様な)遠回りの利益も 建設反対による補償など直接の利益も 両方欲している様に感じます。
    大切な事なのだろうが 権利主張ばかりが 際立つ気がします。

  4. 公共施設の設置で重要なのはFairであることだと思います。人間は誰でも公平に扱われたいと思っているものですから、設置場所の根拠、理由(何故この場所なのか)が合理的である事が最も重要だと思います。
    ごみ処理場や、米軍基地もそうですが、その施設が本当に必要である事が確認された上で自分のところに設置されるのを反対する人は、代替地を具体的に挙げて、その理由を合理的に説明する必要が有ると思います。
    又、個々の事例に関係なく、設置する場所の条件などを予め決めておく事によって、総論賛成各論反対という状況を未然に防ぐ事も出来ると思います。

    数値で表せるGDPと違い、『幸福感』というのは明確な基準が示せないので、必ず誰かの主観が入ります。『主観』が入ります。『主観』が入るとそこに『裁量』の余地が生まれます。『裁量』の余地が生まれると、そこは『腐敗』の温床になります。最近、日本の官僚の腐敗に対する批判が多いですが、その背景には、官僚に柔軟な対応を求めすぎる日本人の国民感情が有るのではないかと思います。

    しゃあさん>地価が上がると固定資産税が上がるので、ずっと住み続けようと思っている人には却って迷惑だと思います。

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