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小さな人

2005年3月24日 【コラム
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 インドネシア・フローレス島で発掘され、ホモ・フロレシエンシスと名づけられた小さな原人が、人類進化の定説を覆そうとしている。少なくとも1万3000年前まで生存しており、ホモ・サピエンスはおよそ2万5000年前から唯一の人類として生き残ってきたという定説が書き換えられることになる。
 加えて、約1メートルというその身長。島嶼化といって、小さな島ではウサギより大きな哺乳類が小型化する傾向は知られている。食料が限られているから、捕食動物がいなければ、小さい方が生き残りに有利なのだ。一方でウサギより小さな動物は大きくなる。エネルギー効率がいいのだ。しかしこれまで、人類に島嶼化をあてはめた例はなかった。文化によって淘汰圧を乗り越えるとされてきたのだ。ホモ・フロレシエンシスは、人類もまた、他の動物と同じ進化の道をたどる可能性を示している。
 そして、脳。ごく初期のヒトと同じくらいの大きさしかないのに、一緒に見つかっている石器類は高度な技術に支えられている。独創性に関する部分は大柄な原人より発達していたようだけれど、脳が大きくなったことで能力も高まったという人類進化の通説もまた、揺らいでいる。
 もっとも印象的だったのは、フローレス島に伝わるエブ・ゴゴ伝説との類似だった。この島には、直立歩行をする小さな動物がいたと語り伝えられている。歩き方は上手じゃなく、食欲旺盛でつぶやくように話す。「なんでも食べるおばあさん」という意味をこめてエブ・ゴゴと呼ばれた。
 ホモ・フロレシエンシスこそエブ・ゴゴだったのだろうか。伝説は、自分たちがエブ・ゴゴを火山洞窟に追い込んで滅ぼしたと語っているという。確かに、ホモ・フロレシエンシスは噴火がきっかけで滅亡したとも考えられている。彼らを救えなかったという心の痛みが、伝説を生んだのか。小さな原人は、ファンタジーとリアルの境界も揺るがしている。

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4 comments to...
“小さな人”
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小橋昭彦

英語の情報源が中心になりますが、ホモ・フロレシエンシスについては、まずNatureの「FLORES MAN」特集をどうぞ。発掘した人たちによる「Homo floresiensis」サイトと、発見の「プレスリリース」もどうぞ。

指環物語(ロード・オブ・ザ・リング)のホビット族を思い出した人も多かったでしょう。NationalGeographicの記事「Hobbit-Like Human Ancestor Found in Asia」「“Hobbit” Brains Were Small but Smart Study Says」などもご参考にどうぞ。ところで、各地に小人伝説が残っているということは、あまりホモ・フロレシエンシスをエブ・ゴゴと結びつけすぎると、そうした伝説との共通性を見失ってしまうかもしれないので、注意が必要ですね。

そのエブ・ゴゴについてですが、とりあえずWikipediaの「Ebu Gogo」あたりが基本情報をまとめています。伝説の内容を詳しく書いた情報を探したのですが、ちょっと見つからず。とりあえず「Indonesian ” hobbit” legends may be factual」を参考にしました。


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みうらん

エブ・ゴゴについては、最近の『日経サイエンス』も取り上げていました。とても興味深いですね。我々の直接の先祖は、エブ・ゴゴやネアンデルタール人をどのような存在として認識していたのでしょうね。


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しゃあ 

何万年か後 現在の人類が滅んで 遺跡として発見される。なんて事もあるんでしょうか。
どう評価されるんだろう。


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bubu

手塚治虫のブラックジャックに、体が小さくなって死亡する奇病の話がありました。人口が増えすぎた為に食糧が不足する未来を予見した種が、体を小さくすることで食糧不足を解消しようとしているのでは…?みたいな話だったような気がする。話の中では、結局ブラックジャックが治療しちゃうんだけども。




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 奇跡の年から100年になる。1905年、アインシュタインはその後に大きな影響を与える3本の論文を発表した。ひとつは特殊相対性理論。ひとつは光が粒子の性質を持つとする光電効果についての理論。彼はこの研究でノーベル賞を受賞した。そして最後の一本はブラウン運動の理論。粒子の動きについて述べたもので、「ゆらぎ」研究の嚆矢といえる。 水が氷になるように、物質が急激に変化する現象を相転移現象という。水から氷は不連続な変化だけれど、豆腐のように、流体のゾルから固体のゲルに相転移するときは、エネルギーの出入りがない、連続した転移になる。このとき、相転移点付近では、分子レベルのミクロなスケールから目に見えるマクロなスケールまで、似たような現象が起こっているという。豆腐の場合、分子レベルでランダムな結合が起こっているのだけれど、実際の豆腐にも、それを反映したランダムな凹凸を見つけることができる。 これはつまり、ミクロなゆらぎの結果がマクロなスケールまで連鎖的につながっているということだ。この臨界ゆらぎは、いろいろなところに見られる。人間の心拍数も、そのひとつ。おおむね0.5から1.1秒程度でゆらいでいる。心拍だけではなく、脳波やニューロンの発火間隔、歩行間隔に至るまで、生体はいろいろゆらいでいるらしい。 生理学的にはホメオスタシスといって、生体は恒常性を保つしくみがあるという考え方が定番だった。正常範囲からずれると負のフィードバックによって調節されるとするわけで、体温なら何度、心拍数なら何回と、正常範囲が決まっていることが前提になる。 でも、正常範囲なんてどうして決まるのだろう。これは説明するのが難しい。むしろ生体は環境の中でゆらぎつつ適応してきたっていう方が、納得できるかもしれない。正常範囲を書き換えるなんて大作業じゃなく、ゆらぎつつ適応する。人はそうして自然と会話しつつ生きているんだって考えると、少し、気分が大きくなる。

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 ヒトを含む多くの生物は、真核生物といって、核を持つ細胞からなっている。それに対して、細菌などは核を持たず、原核生物と呼ばれている。では核は原核生物が適応する中で徐々に形成されたのだろうか。この疑問にたいして、原核生物の中に原核生物が共生し、それが核になったという細胞内共生説を唱えたのがリン・マーグリスだった。 核の起源はウィルスとする説もある。原核生物のDNAはほとんど裸の状態で細胞内にあるけれど、真核生物のDNAはタンパク質でくるまれている。これはウィルスに共通する特徴だ。原核生物がウィルスに感染し、真核生物となったのかもしれない。 ウィルスというとインフルエンザウィルスなど悪役のイメージだけれど、どうやら進化の過程で大きな役割を果たしてきたらしい。インフルエンザウィルスに関する報道でも触れられるように、ウィルスは絶えず複製し変異を起こしている。多様な遺伝子を生んでいるわけだ。そしてウィルスは宿主を渡り歩く。インフルエンザウィルスならトリやブタやヒトと種を超えて。このとき、有益な遺伝子は宿主のゲノムに取り込まれることがある。生物の変化のゆったりしたことを思えば、ウィルスが進化に及ぼした影響はあなどれない。 ウィルスは生命ではないとされる。タンパク質を合成するなど増殖に必要な過程をすべて宿主に頼っていることなどが理由だ。これまでその存在は、生命とは何かという議論を活発化させてきた。生命を定義するなら、誕生から死亡までの期間とするのがまずは無難で、つまり死があるからこそ生きているという、ある種の哲学論になってしまう。 そして今、ウィルスは進化とは何かと問いかけている。生物の進化が、ウィルスという非生物に多く拠っていたという考え方は刺激的だ。同じ構造を文明にあてはめるなら、文明を進化させてきたのは果たして人類という主体だけであったかという問いにもなる。

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