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ちょっと知的な雑学&トリビア

アリと渋滞と

2004年4月29日 【コラム
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 ありさんとありさんがごっつんこしたのは、お買い物に出かけたときだったか。えさ場までアリが行列している光景はしばしば見かける。えさ場を見つけたアリがフェロモンで巣までしるしをつけたのを仲間がたどる。障害物が少なく道幅が広い場合はいいけれど、狭い場合はごっつんこだろうか。フランスの科学者が並行するルートを作って観察したところ、道幅が広く混雑していないときは1本だけを用いていたけれど、道幅が狭く混雑するときは、2本を均等に用いたという。アリだって、混雑にあわせてバイパスを通るわけだ。
 ロンドンで行われるノッティングヒル・カーニバルのパレードの道筋を決めるにあたっての、こんな話がある。見物客の流れをもっともスムーズにするため、循環状にパレードしていたのをL字形に近くなるように工夫した。この案のもとになったのがコンピュータ・シミュレーションで、案を出した学者らは、群集の動きは昆虫がえさ場に引き寄せられる行動と同類と述べている。
 群れとしてみればヒトもアリもないのだ。群れは、個々の意思と関係なく、全体として流体の動きと見なすことができる。高速道路での車の動きもそうで、工事や車線の減少もないのに渋滞するいわゆる自然渋滞も、ニュートン力学と関係ないにも関わらず、パイプを流れる粉末の動きに似る。
 交通渋滞による日本全国での年間損失は、時間にして38億時間、費用にして12兆円。ITSを研究するグループによると、10台から20台に1台が5秒分の車間距離をとっていれば、車の減速が車列全体に及ぶことを避けて滑らかさを保てるとか。ただ、5秒といえば時速60キロの場合で83メートルあまり。少し広めで、後続車の理解を得づらい。こうして結局、今日もまた日本各地で渋滞、そして渋滞。巻き込まれたときは、ひとまず「おつかいありさん」を口ずさみ、自分もまた川の流れと同じく自然の摂理のなかにいると考え、気持ちを落ち着けるほかない。

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One comment to...
“アリと渋滞と”
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小橋昭彦

アリによる道の選択実験は「Optimal traffic organization in ants under crowded conditions(Nature 428(04 March 2004))」です。ノッティングヒルのパレードについては「ヒトもアリも群れれば同じ」に解説があります。流体としての交通流については、日本流体力学会の機関誌「ながれ 22巻 第2号」の特集が詳しいです。また、渋滞の解消法は「産業技術総合研究所 ITS研究グループ」によるものです。渋滞関連情報は「国土交通省 道路局」で。ことに「渋滞データの概要」をコラムではとりあげました。




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 この百年でもっとも偉大な科学者を尋ねたら、多くの人がアインシュタインの名を出すだろう。彼の唱えた相対性理論は、それほどこの宇宙を説明するのに成功した。身近なところでは、カーナビが正しく位置を返すのも相対性理論あってこそ。 カーナビは、複数の人工衛星から受信した時刻の差から位置を求める。人工衛星は秒速およそ4キロメートルで移動しているうえ、重力の影響が地上より弱い。そうした環境では時計の進みが遅くなる。相対性理論に基づいた補正をしなければ、1日で距離にして11キロメートルもの誤差になるという。 こうして日常でも利用されている相対性理論だけれど、今も反論はある。NASAが一般相対性理論が予言する「時空のゆがみ」を検証する実験衛星を打ち上げたのも、それゆえだろう。真空中を進む光速は不変であるという相対論の基礎原理から導かれる、時間や空間が変化するという予測。 光速度不変の原理に対しても、反旗をひるがえす科学者がいる。VSLと名づけたその理論を紹介するマケイジョの『光速より速い光』は、科学者の日常が生き生きと描かれていて楽しい。なかに、印象的なエピソードがあった。VSL理論でも光速が速度の上限ではあるけれど、その光速が変化する。特に空間を構成する宇宙ひものすぐ近くではひじょうに大きくなり、これをたどっていけば、時間の遅れ効果を受けず、かつ一般の光速よりはるかに速く宇宙を旅することができるというのだ。いわば宇宙の「高速車線」。 現在の宇宙論としては、ひも理論ないしループ量子重力理論などが有力で、VSL理論が少数派であることは事実。でも、この「高速車線」のために、ぼくはVSLを信じてみたいと思った。光速旅行に伴う、年をとらず時代から取り残されるウラシマ効果を覚悟したり、ワープなどの無茶をしなくていいのだ。高速車線を行く「マケイジョ号」が登場した日には、真っ先に乗ってみたい。

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