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ちょっと知的な雑学&トリビア

浮力と対流

2004年3月18日 【コラム
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 ペットボトルを風呂場に持ち込んだ長男が、蓋をして湯船に押し込む。手を離すと一気に水面上へ。「ロケットみたい、なんで」尋ねるので、中に空気が入っているからと答える。しかしそれは、誤解を招く表現かもしれない。空気に上に向かう力があるわけではない。
 浮力は重力があってこそ成り立つ。無重力の宇宙船内でヘリウムガス風船を作っても浮かばない。1リットルのペットボトルを水に入れると、1リットル分の水が押しのけられる。水は1リットルで1キログラムなので、ペットボトル全体の重さが1キロより重ければ沈むし、軽ければ浮かぶ。それだけのこと。水面上に飛び出たペットボトルは、1リットル分の空気を押しのける、その体積分の空気よりペットボトルは重いので、それ以上は浮かばない。魚が浮き袋を膨らませると浮くのは、膨らむことで体積を増やし、結果的に体積あたりの重さを水より軽くしているわけだ。
 さて、浮力は対流を生む。温められた水が上昇し、代わって冷たい水が底に沈むことで、風呂釜に渦をつくる。風呂だけじゃなく湯呑みから大気まで、対流は地球上のさまざまな場面にみられる。宇宙船内では対流が起こらないので、ろうそくの炎は上に伸びず消える。
 脳の形を作ったのも熱の対流だという説がある。脳科学の中田力博士がコンピュータで対流をシミュレーションしたところ、実際の脳の形とほとんど同じになったという。宇宙船で生まれた子に脳が形作られないことはたぶんないだろうけれど、進化と形について考えさせられる理論だ。
 アルキメデスの原理を学んだのは中学生時代だった。なのに日常では、浮力とは浮かぶ力を内在しているように感じていたことにあらためて気づく。ぼくが地上に立っているのも、自分が体積分押しのけた空気より重いからに過ぎない。そうやって、まわりとの関係の中で自然に、地上にある。そのことを、あらためて見つめなおしている。

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5 comments to...
“浮力と対流”
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小橋昭彦

数式で追うなら、「浮力について」をご参考に。対流といえば「マントル」から「鍋の中」まで。宇宙船でろうそくをつけたい場合は、「宇宙でろうそくを燃やす方法!?」を参考にしてください。「新潟大学脳研究所」の中田博士の著書は『いち・たす・いち 脳の方程式』などをどうぞ。


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大川耕平

「浮力と対流」を読んで、、、。

子どもの素朴な質問に正確に答えられないことの多い
ぼくです(笑)

本日のコラムにもハッとさせられました。

先日、「燃焼」の研究者の方に炎が燃えているところ
を高速度カメラで撮影したものを見せてもらいまし
た。北半球にある日本では炎も右回りとのことでし
た。事実右回りでした。


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kiyoto

相変わらず深いなー・・。
最近のよくあるパターンは;
1.子供の素朴な疑問や行動

2.科学的な解析

3.結果を自身や社会に投影した考察

って、感じですね。

3番目のステップの「深さ」で読者にある感動や感慨を
振りまく小橋ワールド。
おそるべし!


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小橋昭彦

大川さん、炎も右回りという話、とても興味深く思いました。確かに、台風も炎も、空気の流れである以上、同じ力を受けるわけですね。

kiyotoさん、ありがとうございます。ご指摘どおり、できるだけ身近なところでつなぎ、その奥へ向かっていきたいと考えています。まだまだワールドとまでおっしゃっていただくほどのものではありませんが、意図的なマンネリ(?)におつき合いいただき、感謝です!


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木内 実

中学のとき居残りでアルキメデスの原理を教えてくれた教諭の顔を思い出しました 氷山が何で浮いていて海面に隠れているのが大きい理由を教えてくれました 残念ながら最後まで理解できずに理科系をあきらめる原点だったかもしれません




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 地下鉄の線路は駅を出発すると下りになり、次の駅の手前ではのぼりになる。出発時は坂を転がる要領で加速し、到着時は逆に坂を利用して減速する。電力の節約になるわけだ。そんなことを聞いたのは、国立科学博物館の体験展示室。とすれば地下鉄は、ある種の振り子の原理を利用しているということか。 ある地点から別の地点まで玉を転がすとき、もっとも早く着くのは直線距離を転がした場合ではない。地下鉄に適用するなら、駅間をサイクロイド曲線と呼ばれる曲線にそってつなぐとよい。ジェットコースターが落ちるときのような曲線で、より具体的には、自転車のスポークの端につけた反射板が、進行とともに描く曲線がそれだ。仮にサイクロイド曲線で地下鉄を掘り、東京と大阪をつなぐなら、約十分で到達するという。重力だけのクリーンエネルギー。サイクロイド振り子は、振幅によらず周期が一定という特徴もあるから、東京・大阪間の中央地点まで5分かかるとすれば、静岡から転がり始めてもやはり5分ということになる。 振り子にもさまざまある。ほうきを掌に立ててバランスをとる、あれも一種の振り子で、倒立振り子と呼ばれている。ばねの下におもりを吊るして鉛直方向に振動させるのも振り子だ。思い起こせばあの日、ぼくは博物館の入り口でフーコーの振り子に出会ってもいたのだった。天井から吊るされた大きな振り子。地球の自転の影響で、振動面が移動する。極なら一日で一周するけれど、東京では41時間。南へ行くほど一周に要する時間は長くなる。 大阪市立科学館の調べによると、日本には50を優に超えるフーコーの振り子があるという。春を待つ日、子どもとブランコを揺らしながら、子どもたちに宇宙の中の地球を感じさせる振り子が日本各地で揺れている様を思い描いていた。それはなんだかちょっと、すてきな光景だった。

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 クローンという言葉を、ぼくたちはそっくりという日常語としてしばしば使う。でも、たとえば猫のクローンは親と同じ模様になるわけではない。生命は、設計図である「遺伝子」だけでは決まらないのだ。遺伝子とは、狭義には、DNAのうち、たんぱく質のアミノ酸配列情報を記したものを指す。ところが、ヒトの染色体DNAの98%以上は、たんぱく質情報を持たない、ジャンクDNAが占めている。 生命を設計しないからくずと呼ばれてきたわけだけれど、同じ遺伝子の猫の模様が違うなら、これらジャンクとされてきた部分にも、たいせつな情報があるのではないか。そんなことが最近わかってきて、遺伝子外のという意味の「エピジェネティック」な要素が注目されてきているという。たとえばシロイヌナズナの葉の形は、マイクロRNAの作用を妨害するだけで、違う形になる。 ただ、遺伝子を受け継いだ子孫が、おおむね似てくるのは事実。その理由を説明するのに、英国の遺伝学者が「エピジェネティック・ランドスケープ」という概念を提唱していて、おもしろい。谷間を転がるボールを思い描いてほしい。谷間を右へ、左へ揺れるけれど、おおむね谷に沿って転がり落ちていく。ところが、ある地点でたまたま尾根の分かれ目があると、それまでの揺れに応じて左右どちらかに分かれ、それ以降はまったく違う谷間を転がることになる。そのようにして、ふだんは遺伝子情報に添っておおむね同じ形をとりながら、あるとききっぱり分かれてしまう、それがエピジェネティックの特徴だと。 この概念は、生物の表現型の変化が不連続で、中間的なものがないこととも符合している。多少のことでは変わらないこれど、変わるときには大きく変わってしまう。ふと、それって人間関係でもいえるなあ、と思う。ふだんはジャンク程度の揺れと無視しているのに、あるとき気づいたら、まったく違う二人がいる。ほんの小さな出来事でも、振り返れば大きな意味があって。

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