クローンという言葉を、ぼくたちはそっくりという日常語としてしばしば使う。でも、たとえば猫のクローンは親と同じ模様になるわけではない。生命は、設計図である「遺伝子」だけでは決まらないのだ。遺伝子とは、狭義には、DNAのうち、たんぱく質のアミノ酸配列情報を記したものを指す。ところが、ヒトの染色体DNAの98%以上は、たんぱく質情報を持たない、ジャンクDNAが占めている。
生命を設計しないからくずと呼ばれてきたわけだけれど、同じ遺伝子の猫の模様が違うなら、これらジャンクとされてきた部分にも、たいせつな情報があるのではないか。そんなことが最近わかってきて、遺伝子外のという意味の「エピジェネティック」な要素が注目されてきているという。たとえばシロイヌナズナの葉の形は、マイクロRNAの作用を妨害するだけで、違う形になる。
ただ、遺伝子を受け継いだ子孫が、おおむね似てくるのは事実。その理由を説明するのに、英国の遺伝学者が「エピジェネティック・ランドスケープ」という概念を提唱していて、おもしろい。谷間を転がるボールを思い描いてほしい。谷間を右へ、左へ揺れるけれど、おおむね谷に沿って転がり落ちていく。ところが、ある地点でたまたま尾根の分かれ目があると、それまでの揺れに応じて左右どちらかに分かれ、それ以降はまったく違う谷間を転がることになる。そのようにして、ふだんは遺伝子情報に添っておおむね同じ形をとりながら、あるとききっぱり分かれてしまう、それがエピジェネティックの特徴だと。
この概念は、生物の表現型の変化が不連続で、中間的なものがないこととも符合している。多少のことでは変わらないこれど、変わるときには大きく変わってしまう。ふと、それって人間関係でもいえるなあ、と思う。ふだんはジャンク程度の揺れと無視しているのに、あるとき気づいたら、まったく違う二人がいる。ほんの小さな出来事でも、振り返れば大きな意味があって。
猫の模様についてはかつてのコラム「動物の模様」のコメントにつけている参照先をご覧ください。エピジェネティックについては、「エピジェネティック・がん研究の必要性」などを参照すれば論文数がまとめられていますが、いま、注目度が高まっているって感じですね。
はじめまして。つい先日登録して、初めてメールを送っていただきました。
「エピジェネティック・ランドスケープ」と言う言葉は初めて聞きましたが、高校の化学の授業で似たような話を聞いた気がします。
化学反応が始まるには山を越えるエネルギーが必要で、頂上を過ぎるとエネルギーを放出しながら反応が進む、みたいな。あれ、書いてみるとちょっと違いますね。
これってとっても現実との対応が良い説明ですけど、「なんでそうなの?」と考えてみると、良く分からなくなりますね。山とか谷って本当は何なの?とか。
でも、おかげでお昼休みにのんびりと考えを巡らすことが出来ました。これからの配信も楽しみです。ありがとうございました。
cozyさん、ありがとうございます。
今日のはちょっと難しい内容だろうなあ、と思いつつ書いていました。今後ともよろしくお願いします。
マイクロRNAって何ですか?
初めて聞く言葉なので分りませんでした。
ケノさん、ごめんなさい、説明するとますますややこしくなるので、コラムでは削りました。DNAではない要素と書こうとも思ったのですが、妙なところで正確性にこだわってしまって。
たとえば下記などの説明では「マイクロRNA(miRNA)は約22塩基からなる制御性RNAで、植物や動物において豊富に認められる。」とあります。
http://medical.tanabe.co.jp/public/science/2004_1_2/sci_jsumm.shtml
DNAではなく(それを転写するだけの役割と思われていた)RNAだけで成り立つ世界というのはいま注目されていて、その発見者はノーベル賞確実とも言われているとか。
初めまして・・このサイトは、はじめはタイピングの
練習に使わせて貰っていました。雑学の配送してもらいイロイロなことを知る機会に恵まれ、大きな海に
乗り出した気分です。今回のDNAの知識も私の脳に刺激を、与えてくれました。知ると識るでは大違いですね
判らない言葉が沢山あって言葉と格闘するのも楽しくなりました。