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ちょっと知的な雑学&トリビア

夢の色

2003年2月17日 【コラム

 米国の哲学研究家エリック・シュワイツァベル博士が、昔は夢も白黒だったという論文を発表している。1951年の調査ではカラーで夢を見た人は3人に1人もいなかったのに、現代では大半の人がカラーで見た経験を持っている。テレビや映画のように夢見の技術が発達したわけではもちろんない。なぜ変化したのか。
 テレビや映画の影響だ、というのが博士の指摘。白黒かカラーかという問い自体、映像技術が開発されたからこそ成り立つ。それ以前ならスケッチか彩色かという質問がありえたかもしれないが、夢と絵は違いすぎる。白黒映画、白黒テレビが登場して、人は夢を白黒で見るようになった。
 いや、白黒で思い出すようになった、と言ったほうがいいかもしれない。見る夢は同じでも、思い出すときに、日常見ている映像の影響を受けて白黒になったりカラーになったりする。白黒のはずのテレビ番組を「真っ赤なブーツを履いていたね」なんて記憶していることもある。夢を思い出すという解釈行為の中に、色を決める過程があるとすればどうだろう。香りや触覚を届けるテレビが登場すれば、夢で手触り感などを覚えることが増えるのではないか、とも博士は予想している。
 かつて人は、夢は会いたい人に会える場所であり、生き方を教えるお告げと考えていた。時代がくだって合理主義が芽生え、夢と現実は分離される。もっともそのために「夢みたいなことばかり言って」なんてぎすぎすした表現が融通するようにもなった。寝て見る夢が幻想になり、将来の夢までリアリティを失ったか。これはちょっとわかりにくい表現かもしれないけれど、夢そのものを信じるのではなく、夢を解釈する自分、夢に向かう自分を信じる。そんなつきあいかたを、ぼくは心がけている。夢に色をつけ、リアリティを与えるのは、この現実を生きるぼくたちのいとなみなのだ。


7 comments to...
“夢の色”
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小橋昭彦

Eric Schwitzgebel助教授」のサイトから論文がダウンロードできます。「The Association for the Study of Dreams」も参考に。今回のコラムは、前回の「なぜ夢を」の続編的内容でした。


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まる

余り詳しくないのですが、夢には内容によって「夢占い」というものが存在しますよね?

余りよくない夢でも「逆意」でよいことの暗示だったり
(両親の死は、近未来起こる幸福の暗示だとか・・・)
夢の色の次は、夢の内容で何か面白い話しをまたお聞かせいただけると楽しいです!

私は、意味不明な夢やストーリー的に無理のある夢。常識では考えられないようなファンタジーな夢など、とにかく色々な夢を見ます
そして、朝起きてクビをかしげています

あと、正夢
私は以前、立て続けに夢が正夢になったことがあります
調子に乗って宝くじを始めて買ったら、3000円当たりました
(夢は3億円でしたけども) <笑

いつも楽しく読ませて頂いています
これからも楽しい雑学。お待ちしております!


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小橋昭彦

まるさん、ありがとうございます。

そうですね、フロイト的な夢判断とか、○○は★★のシンボルだ、みたいな話はあるのですが、ぼくはあまり重視してないのです。夢を解釈するのは、あくまでも夢を見た本人なので、同じ内容の夢でも、人によって解釈の仕方が違ってくる。だから、コラムで一様な解釈は届けられない。

とすると、夢の内容に関してというと、どんな料理方法が可能かな。民俗的な方向かな。うん、考えておきますね。


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匿名

うーん、テレビの影響というのは実感湧かないなぁ・・
テレビ放送が始まって50年とのことですが、では、それ以前は?
白黒放送が始まると夢も白黒になり、カラー放送が始まると夢もカラーに?
では、放送開始以前はどうだったのかな・・


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小橋昭彦

映画も含めるとここ1世紀というスパンになりますが、いずれにせよ、それ以前は「カラーか白黒か」なんて質問自体、成り立たなかったのは事実でしょうね。


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don

先日スタートレックで、夢の中で敵と戦うというストーリーを見てて思ったことです。
副長が艦長に言った台詞がとても印象的でした。
古代のアボリジニは夢を現実のものと認識していたと。
それだけリアルなものを昔の人間も見ることができたのなら、
色がついてたり、動画であったのではないでしょうか。確かに
空を飛んでみたり、高いところから下を見下ろすなど、TVや映画から貰う「映像」はあります。でも高い山から鳥の視界を想像したりすることで昔の人も夢の中で飛べたのではないかと、
一人勝手に思ったのですが・・・。
白黒説というのは、白黒テレビ時代の人たちだけ、逆にテレビのない時代の人々の方が、もっと現実に近い夢を見ていたのかな。

ついでに私はいっぱい夢を見ます。夢占いにはまった頃もありました。夢の中で考えてたり、シリーズ物だったり、ドラマや映画、漫画など寝る前に受けた印象から見てしまうなど、いろいろです。だからTVから受ける影響は大いにあると思います。


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ごんたぬき

夢の色を読ませていただいてから、自分なりに夢の色について考えました。毎日夢の色を考えながら寝ましたが、どうもほとんどが白黒であったようです。しかし一回だけ鮮明に色づきの夢を覚えています。駅で列車を待っていて、ホームに列車が入ってきたとき、その列車は綺麗なブルーの車体でした。この場面は今でも思い出します。起きてから夢もカラーの時があるのだなと言う感じになりました。




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Your Comment:

 夢を見た。もうすぐ1歳になる次男がとつぜん歩き始め、上がりがまちから跳び下りまでしている。きっかけは起きてすぐ気づいた。伝い歩きが上手になった彼の話をしていたところに、昨夜は長男と『となりのトトロ』を観た。何度も観た映画だが、今回は次女のメイが両手に物を持って階段を降りるシーンが印象的で、あんなにしっかり歩けるなんて何歳だろう、と話していた。 ほかの人の場合は知らないけれど、ぼくの場合は、ほとんどの夢はこうして見たきっかけを探ることができる。フロイトやユングは夢を探ることで精神分析に入っていたのだったか。そんなことを思い出し、最近は夢についてどんな科学的アプローチがとられているのかと気にかかる。 ネットで調べてみると、2002年に心理学者のマーク・ブラッグローベル教授が行った調査に出会う。全英の図書館に調査票を配布、読書と夢の関係を探ったもの。それによると、フィクションをよく読む人ほど、非現実的な夢を見る傾向が報告されている。子どもの場合は、怖い本を読んだ子は読まない子の3倍も悪夢を見ているともある。調査では、ほぼ半数の人が夢は日中の出来事に影響されると答えている。やはりそういうものか。 夢を見る理由としては多くの仮説がある。重要な記憶を固定するために編集しているときに見るという「覚えるため」説があれば、「忘れるため」に消去しようとした素材が夢になるという逆学習説もある。印象的なのは、進化の視点を交えたシミュレーション説。何かの危機に対し、夢で体験していれば実際に起こったときすばやく対処できる。その結果、夢を見る生物が生き残ってきたのだと。動物も夢を見ると示唆する現象も観察されている。夢見の力が、生存競争を勝ち残らせてきたという想像は楽しい。武器を磨くより夢を見よ、か。

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 水中では視界がききにくい。あれは極度の遠視状態になっているからだと、視覚生理学の村上元彦教授の著書で知った。ヒトはものを見るとき、光を屈折させて網膜に焦点をあわせる。水晶体がレンズの働きをしていると説明されるけれど、じつはヒトの眼でおこなわれる光の屈折の、ほぼ3分の2は空気と角膜との境界面で起こる。水と角膜では屈折率がほぼ同じなため、水中ではこの屈折が起こらない。そこでゴーグルをかけて、水と角膜の間に空気の層を作る必要がでてくるのだ。 村上教授の書籍を手にしたのは、夢の色について調べていて、ふと実際にこの世界がフルカラーで見える仕組みはどうだったか気にかかったからだった。答えは錐体という視細胞にあって、これが三原色を感じてフルカラーにする。もっとも、人間にとって色成分はそれほど細かいところまでは必要なく、かなり大雑把。その点は、視覚のもうひとつの要素である輝度の場合が、星明りから真夏の海岸まで100万倍以上もの違いに対応するのとは対照的だ。 村上教授は、著書で赤・緑の色覚異常であることを明かしている。異常という表現にためらいもあるが、教授の表記に従う。そのことを自己紹介すると、赤い紙を見せて「何色に見えますか」と尋ねる人がいるという。そんなの英語ならredだし、ぼくたちは緑色でも信号を「青」という。ただ色を尋ねることはむなしい。 色覚検査には、石原式と呼ばれる検査表がよく使われる。日常ではありえない、鋭敏すぎる検査。列に並んで待つとき、淡い色並びで描かれた文字を答えられるか、ぼくでさえどきどきしたものだった。読めない人の心の傷はどうであったか。比率からいえば、色覚異常者はクラスに2、3人はいる計算になる。あるチョーク会社は、村上教授の指摘ではじめて黒板に赤いチョークで書いた文字が見えにくいことを知り、朱色のチョークを開発した。そう、ぼくたちはむしろ、自らの心の盲点に自覚的であらねばならない。

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