小橋 昭彦 2003年2月6日

 鳥の鋭い眼光やうろこのような模様をした脚が苦手という人もいると聞いて、なるほどなあとひとり感じ入っていた。進化系統図をたどれば、始祖鳥の分岐からほど近いところで、肉食恐竜ティラノサウルスへの分岐がある。鳥の脚から無意識にティラノサウルスの足音を連想したとしても不思議ではない。
 このほど中国の1億3000万年前の地層から見つかったミクロラプトルの化石は、鳥にもっとも近い恐竜として注目されている。全長約77センチ、前脚だけでなく後脚にまで羽がある。羽ばたくまではもう少しで、樹上から滑空して飛んでいたらしい。
 恐竜がどのようにして飛ぶに至ったのかはまだわかっていない。地面を走って飛び上がることから進化したという「疾走離陸説」が有力になりつつあったところに、今回の発見は「樹上降下説」を復活させることになる。始祖鳥にしても現在の鳥類の直接の祖先ではない。羽ばたきながら飛び上がったり、樹上から滑空したり、さまざまな試行のなかから、現在の鳥類につながる進化が生まれたか。
 空を飛ぶのは鳥類だけではない。昆虫にも翅のあるものは多い。進化生物学のマイケル・ホワイティング博士らは、ナナフシのDNAを調べた結果、一度飛翔能力を失ったものの、ふたたび翅を得たものがあると発表した。複雑な進化が繰り返すなんてこれまで考えられていなかっただけに、理論を見直すきっかけになるとされる。
 空への挑戦。スペースシャトル・チャレンジャー号の事故のとき、今は作家として活躍する友人が、その残骸がそれでも上昇を続けようとしているのを、なおも宇宙へ向かおうとする宇宙飛行士の願いを見るようだと形容していた。あの惨事から17年。立ち上がったぼくたちを襲った、再びの悲報。
 ナナフシのなかには、飛翔能力を失って5000万年後になって、翅を再進化させたものもあるという。ぼくたちの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

4 thoughts on “そらへ向かう

  1. Michael Whiting博士の研究は「Sharing fame with an insect」を参考に。論文掲載はNature 421 264-267「Ups and downs of evolution: Insects that lost their wings ? but flew again」、日本語で要約を読むなら「進化:ナナフシ類に起こった翅の消失と復活」へどうぞ。また、中国で見つかった恐竜については「Four-winged dinosaurs from China」で発表されました。ちなみに、コラムで触れた友人の作家というのは「星野亮」氏です。

  2. ちょうどミロクラプトルの化石発見ニュースを見た前後にイギリスのBBC、アメリカのディスカバリーチャンネル共同制作のデビッドアッテンボローの「哺乳類の生活?LifeOfMammals」でモモンガの滑空の様子を見ました。ですから、そうか地面からではなく地上から飛行は始まったんだと勝手に思い込みましたが・・・未知の世界への憧れ、探訪とその危険。永遠のパラドックス。なくなった宇宙飛行士の笑顔はいつも純粋に美しく、私はまだ正視できません。

  3. いつも有難うございます.

    進化や再進化は今でも,おこなわれているのでしょうか.

  4. 中野さん、ありがとうございます。

    再進化については、これから検証ということかと思います。鯨は将来また足を持って地上に上がってくるのか、なんて想像すると楽しいですね。

    進化は、常に行われています。ただ、個体ではなく、集団でとらえるものなので、ある個体の特定部分を取り上げて「ここが進化中」とは言いにくいですが。

Leave a comment.

Your email address will not be published. Required fields are marked*