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ちょっと知的な雑学&トリビア

一夫一妻

2002年12月16日 【コラム
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 足利義輝を描いた時代小説を読んでいて、側室の描写に手をとめた。並行して読んでいた鳥類についての書籍に、一夫一妻制が普通と書かれていたためだ。
 百科事典にあたってみると、なるほど、現生鳥類の92%が一夫一妻制とある。続いて驚いたのは、哺乳類では一夫一妻制が少なく、全体の3%以下という記述だった。考えてみれば、雌が子育てに拘束される哺乳類において、暇になった雄が他の雌も追って遺伝子を多く残そうとするのは自然ではある。
 鳥類の一夫一妻に対し、ヒトの側室制度にひっかかったのは、一夫一妻制がもっとも進んだ制度で、一夫多妻や一妻多夫、あるいは乱婚制は劣っている、そして鳥類より人類を含む哺乳類の方が上だという先入観があったからだろう。予断は恐ろしい。
 一夫一妻制が多い鳥類にも例外はある。たとえばオオヨシキリ。雄はなわばりを確保するとギョシギョシ、ケケスケケスと鳴いて雌を誘惑する。ことに及んで彼女が産卵、抱卵しはじめると、雄は暇になる。そこでこんどは縄張りの反対の端で、カシカシ、カカスカカスと違う鳴き声で別の雌を誘惑しはじめるという。なかなか戦略家である。
 一方、哺乳類にも例外はあって、ヒトのほかには、プレーリーハタネズミが一夫一妻制で知られる。これは格好の研究材料で、なにゆえ特定のパートナーに尽くすのか調べが進んでいる。わかってきたのは、オキシトシンとバソプレッシンというホルモンが大脳で働くところが、他の種と違うということ。
 ヒトにも同様のホルモンはあるので、これらの働きを高めれば浮気も不倫もせず、家族を愛する可能性が、とそう簡単にはいかないようだ。いや、それ以前に世の男性には、ハタネズミの研究よりオオヨシキリの鳴き分けを学びたいと願う輩が多いかもしれない。ちょっとおかしくも悲しくなった。

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19 comments to...
“一夫一妻”
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小橋昭彦

足利義輝を描いた時代小説というのは、『剣豪将軍 義輝(上)』『剣豪将軍 義輝(中)』『剣豪将軍 義輝(下)』ですが、いやあ、みごとな青春小説、一気に読みました。鳥類については『カラスの早起き、スズメの寝坊』がおもしろかったです。これ、近々単独でコラムに取り上げてみたいですね。プレーリーハタネズミの研究、鳥の鳴き声研究で有名な岡ノ谷一夫助教授も関わられていたんですね。「生命科学のフロンティア????その19」で知りました。


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小橋昭彦

ろくろを使って木を加工し食器などを作る木地師(日経7月6日)。2億年前、鳥に似た小型恐竜(朝日6月27日)。1億3000万年前、始祖鳥後なのに尾は恐竜の化石(朝日7月25日)。和紙の由来をあてる探偵(朝日6月22日)。ココアを飲むのは紀元前600年から(日経7月18日)。極低音で巨大原子誕生(日経5月26日)。竹の可能性さまざま(日経6月2日)。電磁波で賞に白血病増加(朝日8月24日)。脳梗塞後のネズミに学習機能(朝日8月23日)。クラゲ大漁で漁船転覆(朝日8月24日)。ビル解体で近所のネズミ被害増加(日経8月25日)。ルーマニアの吸血鬼パーク構想立ち往生(朝日8月29日)。抗うつ薬、気分高揚薬として米国では気軽に(朝日9月4日)。いちごのショートケーキ、日本が発祥(日経5月11日)。


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Kiyoshi Imai

鳥類に一夫一妻制が多いのは、雌雄力を合わせなければ生きていけないから。ほ乳類に一夫多妻制が多いのは、雌独自で子供を守っていけるから。と考えると、現代の強くなった女性には一夫一妻制は必要ないのかも。


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Toro

>>現代の強くなった女性には一夫一妻制は必要ないのかも。
そうなると、近年立場が危うくなりつつある男性はますます死活問題ですな(^^;


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Hayano Kazuhiko

 始めまして、いつも楽しく拝見しています。
 鳥に一夫一婦が多いとは以外でした。
 哺乳類に少ないのは何となく納得出来ますが。
 鳥も子作りシーズンだけつがいで、後は単独
と言う種も結構いたと思うのですが。それに確か
ツバメのメスは優秀な子孫を残すために、つがい
のオス以外の子供を生んで、オスにも育てさせる
そうで、結構やり手ですよ。
 現代の人間のオスも同じ目に会っているかも。


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松本 一明

何時、開いて見させていただいても面白く、楽しいです。時には、笑い転げるときもありますが、仕事(電気設備工事)の陣頭指揮等で、疲れ戻ってきた時にはほっとする安らぎがあります。時には、雑学でなく心を引き締めて聞く時があります。今後とものご活躍を記念いたします。
当方、1938年生まれのまだまだ駆け出しです。


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SoLong

エンゲルスが「家族・私有財産・国家の起源」のなかで、「一夫一婦制は女性の熱望で形成された」と言っていたのを思い出しました。当時はなるほどと納得していましたが、オキシトシンとバソプレッシンというホルモンは女性の方が強いのかなと思ってしまいました。


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momoko

鳥に一夫一婦が多いというのは本当ですか?

以前テレビか何かで「鳥の一夫一婦説は間違いで、男性学者の願望や予断によって作られたものである。本当は子育て中のメスはオスの留守の間に、他のオスを受け入れる姿が頻繁に観察される。」と解説があり、実際に他の複数のオスが巣へ立ち寄る様子を映していました。

オオヨシキリのオスの浮気を一夫多妻説とするならば、他種類のメスの浮気は「鳥の一夫多妻説」を裏付けることになりませんか?


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momoko

↑他種類のメスの浮気を加えると「乱婚制」、でした。


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momoko

ついでに書き加えると、その番組では「オスは本当は自分の子どもではないのに一生懸命子育てに協力しているのだ。」とも。自分の子どもでない割合も解説していましたが数字は忘れました。


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小橋昭彦

momokoさん、ありがとうございます。鳥の種類にもよりますので、鳥=一夫一妻ではありません。たとえば、オシドリは、名前に反して、案外浮気者だといいます。テレビでどの種類のことを報じていたかによるのではないでしょうか。

あと、念のためですが、一夫一妻制は、生涯つれそうという意味では、ありません。子育てが済めば別の雄ないし雌と寄り添っても、一夫一妻です。


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やまちゃん

私もTVでみた覚えがあります
検索したところ関連した記事がありましたので参照ください

http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/details/science/jamjam/Bio/9809/25.html


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yokogumo

いつも思うことですが、該博な知識に加え、話題の選定がうまいですね。読み手にはげしい知的な刺激をもたらしてくださいます。
今回の話題も、ありもしない薀蓄を傾けてたっぷり数時間しゃべらせるくらいの話題性があります。
日本のここ数十年の一夫一妻制は女性に有利に働いたに違いなく、もはや経済的に独立しはじめた近年の女性にとってはうっとうしい制度になりつつある、というのがぼくの意見。
鳥たちも、雌雄を問わず「保険をかける」ことに余念がないな、と見てしまいます。
偏見かな?


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つづき

義輝が主人公の小説ってありそうで無かったですね。
謙信や信長に謁見し、また剣豪としてその壮烈な最期
は有名でしたけどね。
松永久秀との絡みなんか面白そうですね。
是非とも出張の帰りとかに読んで見ようっと。


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momoko

ちょっと混乱しています。

オオヨシキリやルリツグミのように、子育て中に夫妻のどちらかが浮気して他の異性の子どもを生んでいても、社会的には(?)(見た目には?)一夫一夫制ということなのでしょうか。

人間社会では、そういうことですよね?


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momoko

↑また間違えちゃいました>「一夫一妻制」

スイマセン。一夫一妻制等の定義がちょっとわからなくなってしまいました。


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momoko

自分なりに考えてみました。

「一緒にいる時間が長い」「エサを運んだり抱卵したり子育てを行う」ことが夫婦の条件であって、「自分の生活圏(オスはなわばり、メスは自分の巣)でその異性の子を生み(生ませ)育てる」だけでは夫婦とはいえない、ってことになるのかな。


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dotao

 人間の場合の一夫一妻制は、極端な未熟児を押し付けられて、自分の生活も支えられなくなった、メスがオスに強制するもので、家族の食料を持って帰るために、二足歩行になって腕を開放したとのことのようです。オスの本能はやはり昔のママでしょう、ただし子供に世話が掛からなくなってから浮気をはじめるのは両方のようです。


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小橋昭彦

momokoさん、確かに、考え始めるとややこしくなりますね。やまちゃんさん(ありがとうございます!)が教えていただいた情報源にも、「一夫一婦制をとる約180種の鳥のうち、交尾が夫婦間に限られる種はわずか10%に過ぎない」とあり、一夫一妻ではあるものの、浮気をするという表現に見えます。

一般状況と例外をごっちゃにしているのかもしれません。つまり、一般的に鳥類の9割は一夫一妻制だが、そのほとんどで例外的に浮気をするカップルがいる、ということかも。この機会に、より深く調べてみたいと思います。




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 ハインラインに『夏への扉』という作品がある。恋人も仕事も失い、失意の中で冷凍睡眠によって未来に目覚めた主人公。甘くせつない物語で、今もSFのオールタイムベストに必ず入る。ここで登場する冷凍睡眠は、名前の通りコールド・スリープ。人間を冷凍して未来に蘇生させる。 冷凍冷蔵庫が普及したこともあって、多くの人の脳裏にある人工冬眠のイメージはこれに近いのではないだろうか。しかし、精子の冷凍保存こそ実現しているけれど、人間の身体を冷凍保存することは、現在の技術ではできない。冷やすと細胞の中の水まで凍り、膨張して細胞膜を破るのが一番の問題。精子冷凍の場合は、グリセリンを不凍液として利用しているのだが、人間の身体のような複雑な細胞集団になるとそうはいかない。 映画『2001年宇宙の旅』には、乗組員たちがカプセルに入って目的地まで眠るシーンがる。あれはコールドスリープではなく、ハイバーネーションと表現されている。冬眠だ。心拍も呼吸も、ゆっくりとではあれ続いていた。確かに人工冬眠なら、まだしも可能性がある。シマリスの冬眠に関係している遺伝子と似た塩基配列が、人間にもあることが発見されてもいるから。 人工冬眠の研究は、NASAが興味を持っているように、長期の宇宙旅行に備えて、という側面もあるが、より短期的には、手術への応用が期待されている。外科手術でも患者が冬眠状態ならダメージが抑えられる。あるいは、心臓移植のために心臓を運ぶとき、冬眠状態にできれば長時間の輸送が可能になる。 いずれにせよ、道は遠い。そんな現状にあって、世の中には超低温で肉体を保存するサービスを行う会社がすでに存在して、それなりの契約を得てもいる。人間って、夏への扉を探さないではいられない生き物なのだろう。

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 一夫一妻制とは何と尋ねられて、あらためて悩む。一匹の雄と一匹の雌が一定の期間つがいでいることと定義はできるが、どのくらいの期間かというと明確な規定は見つからず、では夫なり妻なりが浮気した夫婦は一夫一妻かと問われると、言葉につまる。 そもそもオスとメスがあるから、惚れた振られたくっついたまたかけたとややこしい。なぜ単性の細胞分裂で繁殖しないのか。仮にオトコとオンナ以外にオントという性があって、三者が揃わないと子孫を残せないと想像すればわかるように、遺伝子を残すためには性はむしろやっかいで効率が悪い。ひとりだけでできる細胞分裂が確実だ。 それなのにオスとメスがあって、両者の遺伝子を交わらせるメリットは何か。このところ評判の高いのが「赤の女王仮説」だ。オスとメスの遺伝子を混ぜ合わせることによって、遺伝子の構成を変え続けていくことが本質だという説。われわれは原虫類や病原菌、ウィルスなど、多くの寄生者に取り囲まれて生きている。それら寄生者は常に進化し、新しいタイプが生まれている。それぞれごとに対策を立てても間に合わないので、われわれとしてできることは、たえず自らの構造を変化させ、寄生種が進化したときにも耐えうる可能性を残すことしかない。 赤の女王というのは、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に登場する走り続けるキャラクター。なぜ走るのと尋ねられ、「同じ場所に留まるためには、力の限り走らなければならない」と答えている。われわれがわれわれであり続けるために、オスとメスがあり、交わることで新しい可能性を生み出し続けるというわけだ。 せわしない年の瀬にこんな話を思い出すと、なんだか体の隅々までよけいにせわしなさを感じて、ふとアリスと同じセリフを返したくもなる。「そんなに走りたいとは思いません」と。それでもやはり、明日には向かわないとね。

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