ハインラインに『夏への扉』という作品がある。恋人も仕事も失い、失意の中で冷凍睡眠によって未来に目覚めた主人公。甘くせつない物語で、今もSFのオールタイムベストに必ず入る。ここで登場する冷凍睡眠は、名前の通りコールド・スリープ。人間を冷凍して未来に蘇生させる。
冷凍冷蔵庫が普及したこともあって、多くの人の脳裏にある人工冬眠のイメージはこれに近いのではないだろうか。しかし、精子の冷凍保存こそ実現しているけれど、人間の身体を冷凍保存することは、現在の技術ではできない。冷やすと細胞の中の水まで凍り、膨張して細胞膜を破るのが一番の問題。精子冷凍の場合は、グリセリンを不凍液として利用しているのだが、人間の身体のような複雑な細胞集団になるとそうはいかない。
映画『2001年宇宙の旅』には、乗組員たちがカプセルに入って目的地まで眠るシーンがる。あれはコールドスリープではなく、ハイバーネーションと表現されている。冬眠だ。心拍も呼吸も、ゆっくりとではあれ続いていた。確かに人工冬眠なら、まだしも可能性がある。シマリスの冬眠に関係している遺伝子と似た塩基配列が、人間にもあることが発見されてもいるから。
人工冬眠の研究は、NASAが興味を持っているように、長期の宇宙旅行に備えて、という側面もあるが、より短期的には、手術への応用が期待されている。外科手術でも患者が冬眠状態ならダメージが抑えられる。あるいは、心臓移植のために心臓を運ぶとき、冬眠状態にできれば長時間の輸送が可能になる。
いずれにせよ、道は遠い。そんな現状にあって、世の中には超低温で肉体を保存するサービスを行う会社がすでに存在して、それなりの契約を得てもいる。人間って、夏への扉を探さないではいられない生き物なのだろう。
書籍は『夏への扉』です。映画『2001年宇宙の旅』はDVDで。人工冬眠については、鹿野さんのコラム「人工冬眠の秘密」がわかりやすいです。精子の冷凍については「豚凍結精液の実用化へ前進」の説明がわかりやすいです。また、超低温で保存するサービスを行っている会社としては、たとえば「Cryonics Institute」「ALCOR」など。なお、人工冬眠の研究としては、冬眠でとりあげた近藤さんが取り組まれていて、「宇宙利用を目指した哺乳類の人工冬眠制御システムの研究」「人間は冬眠できるようになるのか!?」などをご参考に。
小橋さん、ご無沙汰しております。
覚えていらっしゃらないかもしれませんけど・・・。
いつも楽しく拝読しております。
ところで、ハヤカワノベルズファンとお見受けしまし
た。
SF作家って未来予想に長けていますよね。背景なども
しっかりと考察してあって。
10020年くらい前の作品を読んでいると、まさに今そ
れが実現しつつある、っていう事柄が多くあります。
「エンダーのゲーム」という本の中に「ネットワーク
で世の中を思想的に支配する子供」が描かれています
が、こういうシーンもまさに今、それに近いかな?っ
ておもうケースが見られますよね。
SFからヒントを得ることって実は意外と多かったりし
ます。
北村さん、ありがとうございます。
はい、ハヤカワをはじめとするSFにはずいぶんお世話になりました。『夏への扉』に描かれた1970年という「未来」世界の文化女中器が、いま自動掃除機としてようやく実現しつつあるのは感慨深いです。
わ!小橋さん、こんにちは。
バイヤード・ガール・・・ですね。
実は、自動掃除機、真剣に購入しようかどうか迷い中
だったりします。
せめて10万円位まで値段が下がってくれれば良いので
すけれど。
ではでは、レスありがとうございました。
今頃の投稿、すみません。
15年ほど前、おそらく朝日新聞の日曜版で、50年ぶりに冷凍状態から目覚めた人の話が載っていたような気がします。確か国はアメリカで、今はもう自分より年老いた息子と再会したというようなことが書かれていたような気がします。母と、「50年前にそんな技術があったことにびっくりするね。」と話していたのを覚えています。あれは、冬眠状態だったのでしょうか? それとも、私が冬眠して夢見てたのでしょうか??
それと、2年ほど前、どこかのホテルに泊まったときのことです。夜中に外を見ていて、室内プールの中で何かが動いていることに気づきました。見ているとその小さな機械は、壁にぶつかると方向を変えて、行ったり来たりしています。そう、プールの掃除をしていたのです!自動掃除機は、こんなとこでも活躍していたのですね。