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人類の母

2002年6月17日 【コラム
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 イヴの七人の娘たち。英オクスフォード大学ブライアン・サイクス教授の命名だ。ミトコンドリアDNAをたどることで、現代ヨーロッパの人々が、わずか7人の女性から分かれた子孫ばかりであることを明らかにした。
 教授は、この7人に名前をつけている。4万5000万年前のギリシャに住んでいたアースラ。2万5000年前、マンモスとともに暮らしていたジニア。2万年前の地中海で暮らしていたヘレナ。1万7000年前のヴェルダとタラ。1万5000年前のカトリン、1万年前の終わりのジャスミン。もちろん、それぞれの時代に、彼女たちしか生きていなかったわけではない。ただ、なんらかの理由で他の女性の系列は途絶え、彼女たちの遺伝子だけが現代まで伝えられることになった。彼女たちがことさら特別だったわけではない。ただ、そうなった。
 それは、人類の共通の母、ミトコンドリア・イヴについても同じこと。彼女がアフリカでひとりあったわけではなく、おそらくは1000人か2000人という人口のなかで生きていて、ただたまたま、彼女の子孫だけが、現在の60億という人類につながったということ。
 それにもちろん、彼女から人類が始まったわけではない。彼女にも母はあり、その母にも母がある。ミトコンドリア・イヴとは、2人以上に共通のミトコンドリアDNAをだどったら、最初にたどりついた共通のルーツということだ。分岐の原点を探すわけだから、逆に言うと、ミトコンドリア・イヴには2人の娘が最低必要になる。
 だから、あなたが女性で、ふたりの娘がいるなら、あなたが新しいアースラやジニアになる可能性は、ある。これから何万年かあとに、ほかの系列はとぎれ、あなたの持つ遺伝子だけが人類に広がったとしたら。
 この時代を生きる中で、だれか特別なひとりなんて結局はいないのだし、それゆえに、一方では、あなたこそが特別なひとりになる可能性もあるのだ。

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4 comments to...
“人類の母”
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小橋昭彦

ブライアン・サイクス教授の研究については「Oxford Ancestors」をご参照ください。DNAタイプ診断も受け付けています。また、詳しくは著書『イヴの七人の娘たち』をどうぞ。


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Nobu

うーん、これは。
何か書きたいのだけれど、難しい… コラムの短い文章の中に厚い情報が凝縮していてとても深遠です。上等な考えるきっかけをありがとう。


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KAIKO

いつもメルマガを楽しく読ませていただいてます。
4/21にディスカバリーチャンネルで「イブの遺伝子」という番組が放映されました。(番組を見た感想を個人サイトの雑記帳(5/9の「世界は一つ人類は」)に書いてます)

番組もとても興味深かったですが、今回のメルマガの内容も壮大で深みがあり楽しめました。これからも配信を楽しみにしています。


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小橋昭彦

Nobuさん、KAIKOさん、ありがとうございます。かなりややこしい話だったので、読みにくかったかと思います。それでも、こうして読み取っていただき、感謝しています。




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 恐竜絶滅と隕石衝突の関連がこれほど注目を集めているのは、恐竜というたぐいまれな存在があってこそだろう。実際のところ、それに匹敵する、あるいは上回る絶滅なら、これまで何度か地球に訪れている。 その中で最大のものは、2億5000万年前、当時の生物種の90%が死に絶えたペルム期末の大量絶滅。これを地球上にもたらしたのも、隕石の衝突ではなかったかという説がこのところ熱い論争を呼んでいる。証拠のひとつが隣町・兵庫県篠山市で発見されたこともあって、論争の行方がずっと気になっていた。仮に隕石衝突が原因とすれば、そのために地球の生態系が変わり、恐竜の登場につながったわけで、恐竜は幕開きも終幕も、隕石とともにあったことになる。もっとも、この時代には超大陸パンゲアの形成と分裂という一大イベントもあった。絶滅の原因は、地球内部の変化にあるとする学者も多い。 それにしても、直径5キロメートル以上の隕石に絞っても、過去6億年間で約60個が地球に衝突しているという。5回の大量絶滅はすべて隕石に関係している、とする説さえある。ファンタスティックなのは、なぜこのように定期的に隕石が落ちてくるのか、という理由をさぐるところだ。恐竜時代へ、さらに過去へむかっていた思考は、ここで一気に宇宙に広がる。 ぼくたちの太陽系は、銀河系の端に位置し、銀河とともにゆっくり回転している。回転しつつ、銀河面をおよそ6000万年周期で上へ、下へ往復しているのだという。隕石が多くなるのは、この銀河面を横切ることが影響しているのではないか、という説。あるいは、ネメシスと仮称する、遠く離れた太陽の伴星があって、その軌道との関連を指摘する説。 定まった説はない。ともあれ、われわれは銀河の片隅の、小さな生命に満ちた星で暮らし、そしてまたいつか、隕石でか、あるいはほかの理由でか、絶滅する運命にある。何百年か、何千年か、あるいは何億年か先。それゆえに、今日という日は、はかなく、しかし慈しい。

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 残念、日本代表。それはともかく、スタジアムを埋め尽くした青のTシャツを見て、あの中に放り込まれたら、たとえ熱心なサッカーファンでなくても熱狂的なサポーターに変わったろうと想像した。それでふと、悪気はないのだけれど「監獄実験」のことを思い出したのだった。 社会心理学を学んだ方なら、ご存知だろう。実話をもとに『エス』というタイトルで映画化されて公開予定なので、これから耳にする機会が増えるかもしれない。「役割」が人格に与える影響を調べることを目的にした、1971年、スタンフォード大学のジンバルド教授による実験である。 実験に参加した被験者はボランティアに応募した24人。参加者は無作為に看守役と囚人役に分けられ、研究室を改造した監獄で、それぞれの役割を演じさせられた。実験期間は2週間。ところが、予想を超える規模で看守役の攻撃性がエスカレートし、囚人役は精神的な不安に襲われるようになった。実験は1週間で中止。 囚人役は番号で呼ばれ、裸の上に囚人服を着せられる。看守はカーキ色の制服に警棒。両者の役割はコイントスで決められたにすぎない。ごく普通の被験者が、制服を着て役割をこなす中で、人格を変えていく。 極限状態だったからというわけでもない。ぼくたちの日常でも警官の姿に権威を感じたりするが、一般には個人ではなく制服に権威を感じているだけだ。逆に、警官の服を着ただけで、中身と関係なく権威をかさにきる可能性もある。 もちろん制服には、業務上の動きやすさを保ったり、仲間意識を芽生えさせるなどの利点もある。青いTシャツが生んだ感動だってそうだ。ただ、制服に手を通す前に、裸の人間としての自分を振り返ってみることは有益だろう。議員バッジや流行のファッションのように、それと気づきにくい「制服」だってある。そんなもので自分を失ってたまるものか、だよね。

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