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ちょっと知的な雑学&トリビア

ぼくたちを貫くトンネルの旅

2002年6月03日 【コラム
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 映画『A.I.』に登場する歓楽の都ルージュシティの入口は、大きく開いた女性の口だった。今日はぼくたちもトンネルに入り、喉を滑り降りていこう。ただしこちらはリアルな人体の。
 最初に到達するのは、もちろん胃袋。順天堂大学の坂井建雄教授の著書に、胃の役割は消化ではないとあって、長年の勘違いを正された。それじゃあ胃液の役割はなんだというと、殺菌と消毒。体温の37度という快適な環境のなかで細菌が増殖して腐敗が進まないようにしているのだ。胃を切除した人でも栄養の吸収に問題は無いわけで、つまるところ胃袋の役割は貯蔵所なのだという。
 人間の場合、貯蔵所はひとつだ。いや、甘いもの用にもうひとつ持っているという人もいるだろう。好物を見ると脳の視床下部が刺激され、胃が収縮し腸に食べたものを送り出し、胃の上部に空間ができる。これがその「もうひとつ」の正体だ。牛じゃあるまいし、4つも胃袋があったりはしない。
 送り出された食べ物と一緒に小腸に行ってみよう。ここは長い。およそ6メートル。小学生のころ読んだ科学書で「ぼくたちの身長よりずっと長い」とイラストがあって、こんなものが身体の中に納まっているのかとびっくりした。本当にびっくりした。だから、30年経った今になっても覚えている。どうやって納まっているかというと、ウェストを締めれば移動するように、あんがい適当なのだけれど、隙間なくみごとに納まっている。
 小腸の次はおよそ1.5メートルの大腸。大腸には1日1.5リットルほどの水が流れ込むというけれど、これを吸収して形のあるウンコを作る。で、肛門から出て水洗で流されたり、最近は珍しいけど肥つぼに落ちてはね返りをお尻にかけたりする。
 それはともかく、あなた自身が、トンネルを抜けてどこへ行くかは自由。このところ科学というと少し息づまりなニュアンスがあり、そうじゃなくあの、子どもの頃の「本当にびっくりした」感覚を思い出したいと、今日はトンネルの旅に出てみたのでした。

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6 comments to...
“ぼくたちを貫くトンネルの旅”
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小橋昭彦

コラムで触れた坂井教授の近著では『血液6000キロの旅』がおすすめ。


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konet

素敵な旅でした。
今日のコラムはなんていいますか、ポップな感じですね。面白かったです。
そういえば今日はまだオツウジが…。


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小橋昭彦

ありがとうございます。ふだんどうしても何というかまじめに書いちゃうので、たまに遊びたくなります。でも、遊びきれません。性格なのでしょうね。


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ハマ

このまえ穴の話がありました。単なる穴ではなく、
生命を維持するエネルギー、栄養の補給のシステマティックな通路、
血液6000km、神経繊維や脳の指令のネットワークシステムは何km?などと思ったりしました。
30年以上前、愛知県春日井市のニュータウンに住んでいた頃、金魚の水を夜に、そこを流れている愛知用水路まで汲みに行って足を滑らし、水路に落っこちたことがあります。
幸い橋げたに取りついて助かりましたが、トンネルの水路に流されていたら大変でした。余計なことを書いてすみません。


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たけお@沖縄

人体のお話、かなり興味深く読ませてもらいました。
面白かったです。
むかし、SF映画がありましたね。
「ミクロの決死圏」。
病気になった人を治療するため、ミクロサイズに小さくなった人間が人体へと送り込まれて治療をほどこす、といったプロットだったと記憶してます。小型潜水艦のような乗り物に乗って、血液中を移動してました。
あの映画も今回のコラム同様、子供だった私にはかなり衝撃でした。
体内はあんな風になっているのか、なんて。
特に赤血球か白血球かが、その潜水艦を外敵とみなして攻撃してくる下りは、人間の体の免疫力を「あたまで理解する」レベルじゃなくて「身をもって知った」感があります。

お医者から「人間の発熱は、体が頑張って戦っているから」との説明をしっかりビジュアル化できるんです。
ですから、あの映画がDVD化されているかどうかしりませんが、子供向けの教育素材としてはかなり良いかも、と思っています。


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小橋昭彦

ハマさん、そうです、今回のテーマは前回「穴考」の続編的な感じとなりました。

たけおさん、沖縄からありがとうございます。『ミクロの決死圏』DVD化されています。いま2500円と値下がっており、ずっと前から買おうか買うまいか悩んでいたのです。




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 背中のしま模様からタイガーと呼ばれるけれど、姿は犬のようでフクロオオカミとも。有袋類、カンガルーのようにお腹にポケットがついている。タスマニア島に住んでいたが、19世紀以降、入植してきた白人が続々と殺害。最後に捕獲されたのは1933年、すでに絶滅したと考えられている。 このタスマニアタイガーのDNA複製に成功したと、シドニーのオーストラリア博物館が発表した。遺伝子技術を用いれば、10年ほどで復活が可能ではないかという。高いハードルが残るにせよ、人類は、自分の手で滅ぼした生命を再生することができるようになるのかもしれない。 とはいえ、たとえ再生してもそれはすでに野生のタスマニアタイガーではなく、いわば恐竜公園、ジュラシックパークの住民ではあろう。そんなことを考え、ふと、テングシデについての話を思い出す。 テングシデは、広島県大朝町にある国指定の天然記念物。幹や枝がくねくねと蛇のように曲がっている。地元には、木を傷つけると天狗にさらわれるなどの言い伝えがある。テングシデをくねらせる正体は、突然変異。ねじれる形質を持つ遺伝子が代々伝わったものという。ただ、こうした遺伝子は本来、劣勢で競争力が弱い。それが生き残ってきたのは、地元の人々がねじれた木を恐れてまっすぐの木ばかりを切り倒した結果だとされている。 人が自然を変える。そんな共通性からタスマニアタイガーの再生とテングシデを連想したものの、両者は大きく違う。テングシデを生んだのは伝説であり、自然に対する人のおそれだ。タスマニアタイガーを生もうとしているのは、自然への敬意か、あるいは技術的な挑戦心か。ふたつの間の違いを見つめ、われわれ自身が天狗にならないようにしなければと思ったことだった。

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