小橋 昭彦 2002年4月25日

 わきがや人糞などの匂いを研究して、もっとも悪臭と思われるものを爆弾として利用しようという「悪臭爆弾」構想。冗談かと思ったら、米モネル化学感覚センターの研究者たちが国防総省の助成金を受けて進めてきた研究の成果というから、まじめな話らしい。
 ジェイ・イングラムの著した『天に梯子を架ける方法』には、これと似たような、ウソのようなまじめな話が多く紹介されている。100人分のオーダーを覚えられるウェイトレスの脳の研究、蛾が光に向かって飛ぶ理由、精神病院に正気の人を送り込んだとき医者は見破れるかなどなど。難しい顔をした科学がふと見せる、いたずらな笑み。
 もっとも、ときには科学の顔をしたとんでもない話が生まれるのも人間社会で、米国の物理学者のロバート・L・パークはそれを「ブードゥー・サイエンス」と名づけて目を光らせている。昔から多いのは永久機関を発明したといった種類のホラだけれど、近年でいちばんのブードゥー・サイエンスは常温核融合だったと指摘する。
 ぼくたちは、Aという出来事のあとにBという出来事が起こると、ふたつに関連性があるように思う。なにかを食べて気分が悪くなったなら、次回からはそれを食べないほうが無難だ。こうして人類は「信じたがる脳」を持つようになった。もっとも、パークにかかれば、宇宙ステーション計画だってブードゥーの範疇で、ロボットで充分な研究のために人間を宇宙に送り込む必要性はないと主張する。このあたりの判断基準は、ぼくたちと少し違うのかもしれない。
 正しい道なのか迷い道なのかの判断は難しい。近畿大の先端技術総合研究所で生まれたホウレンソウブタだって、遺伝子組み換えでほうれん草の遺伝子を組み込んだ「ヘルシー」なブタだそうだけど、普通に聞けば冗談に聞こえてしまう。先端と冗談は紙一重なのか。
 ちなみに冒頭の悪臭爆弾、実験の結果、一度は効いてみんなその付近から逃げ出すんだけれど、2度目からは慣れてしまって逃げないのだとか。くさい話にも免疫ができればいいが、こちらはそうもいかないらしい。

2 thoughts on “ブードゥー・サイエンス

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