小橋 昭彦 2002年4月4日

 100万円あったとする。別人とそれを分けなくてはいけない。分配率を決めるのはあなた。ただし、相手が拒絶すれば100万円は没収、二人とも一銭も受け取れない。相手との相談は不可。さて、あなたは分配率をどう提案する?
 ウィーン大学のシグムント教授らによると、こうしたゲームをした場合、おおむね3人に2人までが相手に40%から50%を与える提案をする。これならフェアだ。しかし、考えてほしい。相手にとっては、提示された金額がどうあれ、拒否すれば何も手に入らない。仮に相手に1%、自分が99%でも、相手にとっては受け入れるのが得になるはず。
 このような人間関係を分析する学問を、ゲーム理論という。人間が利己的で合理的に行動することを前提にするが、実際には、そうはいかない。前述の例の場合だと、自分の取り分が20%未満になる提案の場合、およそ半数の人が拒絶する。
 相手があると人間は完全に自己中心的になることは無い。たとえ自分が損をしてでも、相手の自己中心主義を通すまいとする。人間関係のバランスを保ち、社会全体を進展させていく知恵なのかもしれない。
 名前から遊びの学問のように勘違いされがちなゲーム理論だけど、実際はノーベル賞受賞者も複数生んでいる大きな学問。いまでは数学だけではなく、経済や政治、あるいは生物学などでも取り入れられている。
 新聞一面に相手の拠点を威圧する強国の戦車の写真。なぜ家を壊しているのと尋ねる3歳の子に、怖い車なんだと答える。そんな車つぶしたらいいのにという言葉に、そうすれば平和になるねと言いかけて、「でも車を壊すということは、自分もいじわるしているよね、それじゃあいっしょじゃないかな」と続ける。じゃあ、どうすれば怖くなくなるの、と彼。
 ぼくには答えられない。しかし、3歳の子を納得させられる理論と行動を、人類はきっと見出せるはず。それを考えようね、と息子に伝える。彼には重い宿題と知りつつも。

9 thoughts on “ゲーム理論

  1. えーと、念のために付け加えておくと、「相手があると人間は完全に自己中心的になることは無い。」に続く段落は、人間は自己の利益ばかりを考えるわけじゃない、という結論ではありません。

    確かにそう見えるけど、実際には人間関係を保つことで自己の利益を守っているということなのだと。社会が進展する中でそうした姿勢が伝わったのだと。進化ゲーム理論という分野の話になります。

    なんだか難しいですね。日経サイエンス4月号、78ページをご参照ください。

  2. もうすこし補足します。

    人類の進化の上で、交渉が1回だけということはまずなかったわけで、仮に今回1%の取り分をのんでしまえば、その後ずっと少ない取り分が定着する可能性がある。でも、今回は損をしても拒絶すれば、次回からは高い取り分を提案される可能性が芽生える。自然淘汰の上では、拒絶したほうが有利になるはずだと。

    こんな風に考えれば、説明がつくということですね。「人は自己の利益を追求する」という前提をはずしてしまうと、ゲームにならないので、そこの部分は疑いをはさみません。ゲーム理論では。(O先生、つっこみありがとうございます!)

  3. 「日本語になぜ謙譲語あるんだろう?」と素朴な疑問
    をもっていました。譲るんですからね。でも、よく考
    えると、譲った変わりに平穏とかストレスの回避など
    の利益を手に入れているとも言えるのでしょうね。

  4. また、欧米(どこが発祥か忘れましたが)のモノポリ
    というゲーム、一人が勝ち占めるまで終わらないで
    しょう?性格なのでしょうか?

    まあ、二人の交渉の場合、それぞれが何を利得と考え
    るかで、またお互いの関係上、ずいぶん交渉模様が変
    わるはず。商売敵、師弟、夫婦、、、などなど。
    先読み型ゲーム理論を勉強して交渉にあたろうかな。

  5. 人間は完全に自己中心的であると仮定しても説明できるのではないでしょうか?
    「自分が得られるお金」と、「相手が交渉不成立で受けるダメージの大きさ(それを見る楽しさ)」の天秤ということでも説明つきませんか?
    本当にお金に困っている人は取り分1%でも受け入れる可能性は高いし、大金持ちは99%でも受け入れないこともあるでしょう。ゲームとして考えるならこちらの方が理屈にあっているようにも思います。

  6. 果たして車(戦車)を壊すことは意地悪なのだろうか
    家を破壊する行為と同列に扱う話とも思えないです
    (戦車ごと中の人間も殺すというなら別ですが)
    戦車を潰しても平和になるとも思えません・・・

  7. 幸福論さん、その通りです。一見矛盾する結果が出ても、「人間は完全に自己中心的である」という前提で説明するのがゲーム理論です。コラムでは触れきれなかったので補足説明していますが、ここでは「進化」という視点が用いられています。

    僕は青い鳥さん、そうですね、いろいろ難しいですね。どうすればいいんでしょうねえ。

  8. 「人間は完全に自己中心的である」という前提で説明
    するのであれば、日本では、ゲーム理論ってのは、成
    立しないかもしれませんね。

    以前、子供が産まれたばかりの先輩と話していたと
    き、「戦争が始まって招集かかった時どうする?」の
    問いに、その先輩は、「子供の為にも国が無くなる事
    は、避けなければならない。家族の為にも戦争に行
    く。」っと、しかし、独身の僕は、「難民になっても
    死にたくない。生き延びたい。国なんか関係な
    い。」っと。
    特に今の日本人は、僕の様な考え方が多い様な気がす
    るのですが、どうでしょうか?

    「国を譲る変わりに命だけでも助けてくれ」っての
    が、また、自己中心的なのかな(^^)

Leave a comment.

Your email address will not be published. Required fields are marked*