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ちょっと知的な雑学&トリビア

ニオイのチカラ

2002年3月17日 【コラム
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 光の三原色といえば赤緑青。ヒトは視覚情報をこの三原色に分解して、さまざまな色を区別している。では、ニオイの「原臭」とはなんだろう。
 じつはこれがよくわからない。視覚、触覚、聴覚、味覚、嗅覚のなかでもっともわからないのが嗅覚だ。40年ほど前、米国の化学者アムーアが7種類と唱えたけれど確かめられておらず、現在では原臭の存在はむしろ否定的だ。ちなみに日本耳鼻咽喉科学会が嗅覚検査用に決めている10種類の基準臭というのがある。花香、果実臭、汗臭、焦臭、糞臭、樟脳臭、じゃ香、石炭酸、酢酸、にんにく臭がそれだ。
 ミントの香りをかぐと涼しく感じる。カリフォルニア大サンフランシスコ校のグループの研究によると、これはミントの成分メントールの受容体が冷感センサーでもあるからだとか。脳が、ミントによるものか涼しさによるものか区別できないのだ。
 資生堂が開発している「やせるローション」は、女性20人が1カ月テストしたところ、平均でウェストが1.5センチ引き締まり、体重が1.1キロ減ったそうだけれど、これに利用されているのがグレープフルーツやこしょうの香り。中性脂肪の分解を促すカフェイン成分との相乗効果で、中性脂肪を燃焼させるのだという。
 発情期の象はさまざまな花の香りをミックスしたような甘いニオイを発するそうだけれど、人間の女性もまた、ニオイによって恋人を決めているのかもしれない。これはシカゴ大学の研究グループの発表で、女性は父親と同じようなニオイの男性を好むというのだ。自分と同じ遺伝子を見分けるために、ニオイを利用しているとも考えられる。もっとも、だからといって彼女のお父さんのシャツを着ていったからといってアプローチが成功するものでもないだろうけれど。
 花香る季節。匂いを持つ物質は世の中に約40万種と言われる。その、奥深い世界について思いをはせるいい季節だ。

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2 comments to...
“ニオイのチカラ”
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小橋昭彦

ミントについての研究は、UCSFの「David Julius」教授らによります。また、ニオイについては「SCAS NEWS」がよくまとまっています。また、「嗅覚のニオイ識別の基本原理」もどうぞ。その他、本文中で触れた研究の原典は、「Chemical communication: Mellifluous matures to malodorous in musth(Nature 415 975 – 976 )」「Paternally inherited HLA alleles are associated with women” s choice of male odor(ng830 volume 30 no. 2 pp 175 – 179 )」(大学からのより詳しい発表は「Researchers discover first scientific evidence for inherited preferences」で)「資生堂、香りの効果で中性脂肪を「燃焼」させる新スリミング理論を確立」からどうぞ。


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小橋昭彦

今回の没ネタ。ブラックホールからガスを噴出す仕組み明らかに(朝日1月30日)。ドイツで捨て子ポスト(朝日1月30日)。サルの万能細胞からドーパミン作る細胞(朝日1月29日)。古代の革ポシェット出土(朝日1月24日)。日興ソロモンの逆説的予想、半分当たる(朝日1月29日)。


 よろしければお手もとの練り歯磨きの成分のご確認を。「酸化チタン」が利用されている商品も多いことと思う。この酸化チタン、このところ熱い注目を浴びている。というのも、太陽光や蛍光灯などの力を借りて、匂いや汚れを分解することができるのだ。 光によって作用を起こす、光触媒と呼ばれる能力がそれ。植物の葉緑素は太陽光の力で二酸化炭素を酸素に変えるけれど、いわばそれと同様の能力といえる。もっとも、練り歯磨きに使われている二酸化チタン結晶は大きすぎて、光触媒としては働かない。実際に用いられるのは一桁以上小さいスケールの結晶。 二酸化チタンを建設資材にコーティングすると、建物の壁は太陽光をあびるだけで、活性酸素が放出され、これが汚染物質の窒素酸化物を硝酸イオンに分解する。硝酸イオンはコンクリートによって中和されるので、雨が降れば流れていく。同じように窓ガラスに酸化チタンの薄膜をはっておけば、ガラス拭きが必要なくなる。 トイレの消臭にも利用されている。匂いのもととなる、ぬめりを分解するのだ。さらには、繊維にして汚れを分解するフィルターを作ることもできる。 光触媒研究をリードしているのは、日本の化学者たち。生みの親は東京大学の藤嶋昭教授だ。日本だけでも2000社が応用分野を手がけているというから、他国を圧倒している。大手メーカーもこぞって光触媒の応用商品を競う。脱臭機能を持ちホコリがつきにくい観葉植物など、身近なところにも製品はある。 窓から外を見ると、青い空に山々が映えている。あれら緑と同じく、太陽の光を利用して化学反応を起こし、汚染を浄化していく光触媒。ぼくたちもほんの少し、自然の営みに近づいていくことができたのだろうか。そんなことを感じさせてくれる技術だった。

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 健康に関する記事はよく見かけるもののひとつ。最近研究が進んでいるのは「フレンチ・パラドックス」。脂肪の多い料理をとるフランス人が心臓病にかかりにくいのはなぜか。適量の赤ワインが心臓病を防ぐ機構が、遺伝子レベルで解明されたりしている。 悪役になることの多いタバコは、厚生労働省の研究班がたばこを吸わなければ男性死亡の5人に1人は防げたと発表したり、化粧品会社がたばこの煙に触れているとシミができやすくなると研究結果を発表したりして、ますます肩身が狭い。 睡眠に関しては、8時間睡眠が理想という従来の考え方が揺らぎ始めている。米国で約110万人を対象に調査したところ、死亡率がもっとも低いのは1日に6時間から7時間眠る人だったそうだ。食習慣や運動なども考慮したうえの数字。 こうした、いわば病気の至近的な要因を探る研究に対して、進化医学という視点を提供しておもしろかったのが『病気はなぜ、あるのか』という書籍だった。たとえば虫垂炎の至近要因は細菌感染だけれど、進化医学的には、退化していいはずの虫垂が無くならないのは、小さくなると感染で虫垂が破裂する可能性が高まり、これ以上の退化が阻止されているためと説明される。 あるいは、ヒトが高カロリーの食べ物を好むのは、アフリカのサバンナではめったに手に入らない貴重な栄養源だったからで、その名残だとも。進化医学的に見ると、ヒトはアフリカでのサバンナ時代にとどまっているのだそうで。 そもそも、ヒトは生まれたと同時に避けられない「病」にかかる。老化だ。老いると生存競争上不利になるのに、なぜ淘汰されなかったのか。答えとして、老化に関係する遺伝子が、若いうちは生体に有利に働くと提示される。若さの活力ゆえに、老いる。 もし老化がなく、18歳レベルの死亡率が続いたなら、人口の半分が700歳近くまで生き、1割以上が2000歳まで生きるという。さて、そこまで生きて何しよう。そう考えて、かえってこの瞬間の生のありがたさを思う。老いることゆえの、いのちの輝き。

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