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ちょっと知的な雑学&トリビア

ヒカリのチカラ

2002年3月14日 【コラム

 よろしければお手もとの練り歯磨きの成分のご確認を。「酸化チタン」が利用されている商品も多いことと思う。この酸化チタン、このところ熱い注目を浴びている。というのも、太陽光や蛍光灯などの力を借りて、匂いや汚れを分解することができるのだ。
 光によって作用を起こす、光触媒と呼ばれる能力がそれ。植物の葉緑素は太陽光の力で二酸化炭素を酸素に変えるけれど、いわばそれと同様の能力といえる。もっとも、練り歯磨きに使われている二酸化チタン結晶は大きすぎて、光触媒としては働かない。実際に用いられるのは一桁以上小さいスケールの結晶。
 二酸化チタンを建設資材にコーティングすると、建物の壁は太陽光をあびるだけで、活性酸素が放出され、これが汚染物質の窒素酸化物を硝酸イオンに分解する。硝酸イオンはコンクリートによって中和されるので、雨が降れば流れていく。同じように窓ガラスに酸化チタンの薄膜をはっておけば、ガラス拭きが必要なくなる。
 トイレの消臭にも利用されている。匂いのもととなる、ぬめりを分解するのだ。さらには、繊維にして汚れを分解するフィルターを作ることもできる。
 光触媒研究をリードしているのは、日本の化学者たち。生みの親は東京大学の藤嶋昭教授だ。日本だけでも2000社が応用分野を手がけているというから、他国を圧倒している。大手メーカーもこぞって光触媒の応用商品を競う。脱臭機能を持ちホコリがつきにくい観葉植物など、身近なところにも製品はある。
 窓から外を見ると、青い空に山々が映えている。あれら緑と同じく、太陽の光を利用して化学反応を起こし、汚染を浄化していく光触媒。ぼくたちもほんの少し、自然の営みに近づいていくことができたのだろうか。そんなことを感じさせてくれる技術だった。


8 comments to...
“ヒカリのチカラ”
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小橋昭彦

まずは「藤嶋研究室」へどうぞ。「触媒化学研究センター」もいいですね。光触媒関連ページ、やはり多いです。「光触媒研究所」「光触媒製品技術協議会」「光触媒人工観葉樹」「光触媒アーキテクチャー 」などもどうぞ。で、最近の話題としては、「光触媒技術を応用した歯の漂白材を開発」「新規光触媒繊維の開発」などをどうぞ。


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小橋昭彦

ほうれん草の遺伝子を組み込んで豚の脂肪をヘルシーに(日経1月28日)。光の速度100分の1に(日経1月28日)。脳に機能回復の力(日経1月27日)。味覚の個人差を決めるのは遺伝子(朝日2月25日)?


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関 寛之

いつも楽しい雑学の知識を有難うございます。
私は個人的に「今日の遼太朗」コーナーを楽しみにしています。このコーナーは、子供の素晴らしさを気付かせてくれます。そして、翻って自分は小橋さんのように、じっくり子供と向き合っているかな、と反省もさせられます。これからも、遼太朗くんが健康にすごされることを祈念しております。是非これからも頑張ってください。


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光橋

いつも頭のおやつとして読ませて頂いています。ありがとうございます。
ひとつ質問させて下さい。
文章の中ほどに「活性酸素が放出され、これが汚染物質の窒素酸化物を称賛イオンに分解する」とありますが、私のテレビだけから得た知識では活性酸素というものは身体の老化現象の犯人のようなもので、生物にとっては良くない物との印象があるんですが、今回は汚染物質を分解する道具のようになってて人の役にたっているということでしょうか?(毒が薬にもなるような感じで)
でも外に放出されていると言うことは身体に悪くないんでしょうか?
活性酸素と言うものが良くわかってないんですが、何か不安に思ったのでメールさせて頂きます。


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小橋昭彦

光橋さん、いつもありがとうございます。

まず、活性酸素が老化の原因というのはその通りでしょう、たぶん。下記、98年12月22日のコラムを再掲します。いやあ、懐かしい。より具体的には、DNAのうちテロメアと呼ばれるところに関係しているようです。

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腹八分目

 マウスを2群用意する。一方は自由にエサを食べさせ、一方はカロリー摂取量を減らす。すると、節食群の方が飽食群よりも3割から6割寿命が長くなる。
 老化の原因をDNAの傷が蓄積することに求める学説がある。DNAを傷つける物質のひとつが活性酸素。細胞がエネルギーを消費するときに出るので、節食してエネルギー消費を小さくすれば老化を抑えられるかもしれない。そんな考え方に基づいた実験だ。
 マウスと人間では違いが大きすぎるから、人類に近い遺伝子を持つアカゲザルでも実験が進められている。飽食群と、それより3割摂取カロリーを抑えたグループ。
 実験を開始して10年強。現在のところマウス同様の結果が出ており、節食群の方が体調はよく、社交的で攻撃性も低いとか。サルの寿命は30年から40年なので最終的な結論はまだ先。
 待ちきれないって? 何も最新の研究を待つことはないんじゃないかな。江戸時代の大学者、貝原益軒の養生訓にもある。いわく、食は半飽に食ひて十分に満つべからず。けっきょく腹八分目ということだよね。

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ただ、活性酸素が「毒」というわけじゃありません。それをいい始めたら、たとえば「二酸化炭素」は「毒」だけど、空気中に多く存在している。つまりそういうものだとお考えください。「酸素についておさらいしよう」の説明がわかりやすいです。


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光橋

詳しい回答ありがとうございました。私は2001年1月からの読者なので、98年のコラムを読ませて頂き何か得した気分です。
お教え頂いた「酸素についておさらいしよう」を読みまして、活性酸素が「毒」ではないと言うこともわかりました。でも活性酸素はオゾン層を破壊するような大気汚染に一役かっているとも書かれてあり、やっぱり「活性酸素が放出される」ことは好ましくないのだな、とやっぱり思いました。
今回のコラムで紹介された光触媒の実用化による科学の発達と活性酸素の発生の影響がどんなもんなのか、そこまで突っ込んで考えられませんが、小橋さんがなんとなく将来に期待しておられるコラムの結びと比較して、私が少しだけ不安に感じてしまったのは少し心配し過ぎなのかもしれませんね。


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小橋昭彦

ごめんなさい、指摘されて気づいたのですが、「植物の葉緑素は太陽光の力で二酸化炭素を酸素に変えるけれど」という表現は、正確ではありませんでした。「植物の葉緑素は太陽光の力で、二酸化炭素と水から炭水化物と酸素をつくるけれど」と訂正いたします。申し訳ありません。


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めだま

光合成の訂正、勉強になりました。実はこれ読むまで漠然と人間が酸素を吸うように植物は二酸化炭素を吸うんだと思ってました。つまり呼吸なのかと。炭水化物ができるなんて知らなかった。理科の時間寝てたからな0。




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 日没後の西の空に、新しく発見された池谷・張彗星が輝いている。発見されたといっても、どうやらこれまで何度か地球を訪れていたらしい。軌道計算からは、この前訪れたのが1661年と推測されている。だとすれば、341年ぶりのこと。かつてこれほど長い周期で彗星の回帰が確認された例はない。 1661年。イギリスではニュートンがケンブリッジ大学に入学し、パリでオペラ座バレエ団が結成され、日本は江戸初期、はじめての藩札が発行されている。さらに軌道を計算すると、877年に見られた彗星と同一ではないかともされる。日本では「元慶元年正月25日(877年2月11日)、酉刻客星壁ニ見ハル」との記録が残っているとか。 ぼくたち生命は、彗星が運んできたのかもしれないという説がある。自然界のアミノ酸には右型も左型もあるけれど、生物のアミノ酸には左型しかない。これは宇宙で中性子星の出す円偏向という特殊な光を浴びて左型が多数派になった結果ではないかというのだ。提唱者は米国のウィリアム・ボナー博士ら。 約46億年前の太陽系誕生の頃できたといわれ、1969年にオーストラリアへ落ちたマーチソン隕石に含まれるアミノ酸の研究では、確かに左型が多いと報告されている。宇宙で左型優勢となったアミノ酸が、彗星などで地球に運ばれて生命の素となったのか。 池谷・張彗星は今後アンドロメダ座からカシオペア座の方向へ北上しつつ、4等級くらいの明るさになるそうだ。西空を眺め、877年の平安貴族を思う。後に大宰府に流された菅原道真が、頭角を現し始めた頃。そして、ぼくたちが左型の生命として銀河の片隅にいるのは、小さな偶然かと問う。宇宙のどこかに、右型の世界があるのだろうか。ぼくたちは、遠く流されてきただけだったのか。 東風(こち)吹かば匂ひおこせよ梅の花 あるじなしとて春な忘れそ。北野天満宮の梅は、もう散り始めているだろうか。

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