身の回りにはらせんが多い。らせんを用いたもっとも広汎な発明品といえば、ネジだろう。身の回りの工業品のうちいくつがネジを使っていることか。工業品に限らない。この銀河系も渦状のらせん構造だし、太陽のコロナ磁場もらせん、台風や渦潮などもらせん。植物に目を転じればアサガオや豆などのつる、ヒマワリの種のつきかた、松ぼっくりなどもまたらせん。巻貝やクモの巣、人ではつむじや指紋。なにより、生命を記述するDNAが、二重らせん構造となっているのでもある。
平面状のらせんで代表的なのは、アルキメデスのらせんとベルヌーイのらせんだ。ベルヌーイのらせんは、渦の幅がだんだん広くなるもので、各周におけるらせんの接線と、回転の中心から外に向けて引いた線がなす角度が、常に一定になるものを言う。巻貝や渦状銀河などがそうだ。
これに対しアルキメデスのらせんは、一周ごとの幅が一定のもの。かとり線香やレコード盤の溝がそうだ。前述の太陽コロナ磁場もアルキメデスのらせん構造になっている。同じ名前のポンプがあるが、これはいわばホースを立体に巻いたもので、まわすだけで低いところから高いところに水が揚がっていく。アルキメデスが考案、後にガリレオ・ガリレイがこの原理を応用したポンプの特許を申請して独占権を得た。現在の電池式灯油ポンプにも応用されている。
アルキメデスのらせんを機械的に描くには、回転と直線運動を組み合わせるような複合工作機械が必要になる。ハーバード大の研究者によれば、中国の春秋時代のヒスイの溝は精密なアルキメデスのらせんになっているそうで、紀元前7世紀頃、すでに複合工作機械が使われていたことを強く示唆している。
同じところに戻るようで、違う地点に立つ。かつて人類は、らせん構造に宇宙や神の象徴を見た。それを描くために複合工作機械を作り、いま科学の最先端でらせんに出会う。ぼくたちはらせんとともに生きている。
松ぼっくりやひまわりの種のらせんについては過去のコラム「癒しの由来 [2002.10.28]」も参考に、さらに不思議な世界へ。
らせんについて、「かたち*あそび」のページが楽しいです。「らせん」の解説も参考にどうぞ。「創造力を掻き立てるらせん構造【PDF】」も有益。
アルキメデスのらせんポンプは「第201回サークル例会」に写真があります。また太陽コロナ磁場のらせん構造については「Ulysses Radio Tracking from High Solar Latitudes and the
Spiral Interplanetary Magnetic Field」に情報があります。中国のヒスイのらせんについてはハーバード大の「Peter Lu」のサイトを参考にしてください。
最後、かつて人類がらせんに宇宙や神を見たといったあたりは事例をひく余裕がありませんでした。たとえば平凡社世界大百科事典の「らせん」の項に秋山さと子氏による次のような解説があります。「らせんは、一般的にいって宇宙の誕生と進化にかかわる象徴的図形であり(中略)ギリシアでは右回りのらせんはアテナ神の属性で創造的、前進的であり、その反対の左回りのらせんはポセイドン神の属性とされ、竜巻や海の渦のように破壊的、退行的なものと考えられていた。」
いつも興味深く拝読しています。
今日、ちょうどテレビで観た「手作りおもちゃ」にも
らせんが色々に使われていました。
そこには、直線で進むのではなく
わざと遠回りすることで生まれる
動きの面白さと意外性がありました。
>同じところに戻るようで、違う地点に立つ。
という言葉に、はっとしました。
同じことの繰り返しのようでいて、
着実に進む(あるいは広がる)カタチなのですね。
少し前に観た映像を、じっくり反芻してしまいました。
伊藤潤二さんの「うずまき」というかなり面白い作品
があった事を思い出しました。
らせん、というとフィボナッチを思い出します。大学生の時、黄金律というのを知ってからしばらくとりこのようになっていました。
それと、全然関係ないのですが、思索する心とか、理解していく過程というのも「らせん系」なんですよね。同じ事をぐるぐる考えているようでも、そこに時間の軸があると、らせんになっていき、奥行きが広がるというイメージです。
らせんで思い出すのは、経済学でのケインズのクモの巣理論。今でも有効でっしゃろか??