囚人のジレンマと呼ばれる有名なゲームがある。二人の容疑者が別々に囚われている。互いに黙秘すれば刑期は1年ですむ。自分だけが自白して協力すれば釈放、相手は10年の刑期となる。二人とも自白すればお互いに刑期は3年。こうした状況下で、どういう行動がもっとも適切か。そういう話だ。
相手が黙秘するなら、自分は自白して釈放されるのが得になる。相手が自白する場合はどうか。その場合も、自分は自白したほうが刑期が短い。いずれにせよ、自白するのが最善の手。これは相手にとっても同じで、戦略的に考えれば、互いに裏切りあうことになる。
もっとも、囚人のジレンマを聞いたうちの少なからぬ人が、相手を信頼して黙秘すべきと感じたのではないかとも思う。米国のグレゴリー・バーンズ博士は、「囚人のジレンマ」ゲームを被験者にしてもらいながら脳のはたらきを調べ、互いに協力で一致したとき、「報酬回路」と呼ばれる脳の部分が活性化することを発見した。報酬回路というのは、高額なお金をもらったときなどに活性化する部分。相手がコンピュータだった場合は、協力で一致しても報酬回路は活性化しなかったともいう。人は、人と協力しあえたことに快感を感じるものらしい。
ゲームが1回限りではなく繰り返される場合について研究したアクセルロッド博士によると、その場合に最適な戦略は、1回目は協調し、2回目以降は前回の相手を真似る「しっぺ返し」戦略だという。さまざまなコンピュータプログラム同士を戦わせて得た結果だ。次回以降もつきあいが続く可能性が高いほど、しっぺ返し戦略は有効だった。
アクセルロッドは、自分からは裏切らない「上品」なプログラムほど優秀な成績だったとも指摘している。個々のゲームで相手をやりこめて上回るわけではないけれど、うまく協調を引き出し、総合点では上位に立つのだ。人と人の付き合いは一度きりではない。裏切りを避けるのも、ゆえあってのことだろう。
本編は前々回のコラム「助けあう理由 [2004.09.30]」の続編とでもいった意味合いです。
まずは「Robert Axelrod」による『つきあい方の科学』を参考書としてお薦めします。コラム中でとりあげた脳の観察は「Gregory S. Berns」によるもので、サイトから論文の抜き刷りもダウンロードできます。解説記事「他者との協力は脳内の快楽が動機?」がわかりやすいかな。
ゲーム理論については「An Introduction to Game Theory」(日本語です)「計量社会科学ワークショップ」などをご参考に。なお、最近の書籍では『気前の良い人類』でも人間の協力行動について触れています。
そうだ、ちなみに本文中で触れた囚人のジレンマにおける最適な状況が「ナッシュ均衡」と呼ばれるものです。お互いに最善の手をつくした状況ですね。ナッシュについては、映画『ビューティフル・マインド』でご存知の方も多いのではないでしょうか。
ゲームという損得勘定 報酬回路という人としての部分 突き詰めればどちらもサイエンスってものでしょうけど・・・。 別室の共犯者が 自分の子や恋人の場合 自己犠牲の快楽なんてのが あるかも・・・?映画「半落ち」みたいに。
「助け合う理由」にありましたね。すみません。