小橋 昭彦 2004年7月29日

 プラシーボ、偽薬とも呼ばれる。臨床試験などで利用する、外見は本物そっくりだけれど有効成分を除いた薬。その投与結果と比較することで薬の有効性を調べるわけだ。プラセボには薬効が無いにも関わらず症状が改善する例が続出し、プラセボ効果として知られるようになった。
 1955年、米国のビーチャーが「強力なプラセボ」という論文で、3人に1人がプラセボだけで軽快したと報告したのを契機に、プラセボ効果は一般に認められるようになった。一方で、最近では2001年にコペンハーゲン大学のゲッチェとロビャルトソンが114件の臨床試験データを分析、プラセボを投与した患者と何も治療を受けていない患者の間に有意な差は無いと発表して論議を呼んでいる。
 おもしろいところでは、2001年にニュージーランドの研究者が偽アルコールを飲ませて記憶力や判断力の変化を調べたところ、実際に酔ったときのように低下したという。これはマイナスの効果だから、プラセボの逆で「ノセボ効果」というべきかもしれない。ノセボ効果については米国のスピーゲルが発表した劇的な事例がある。米国陸軍の伍長を催眠状態にした上でアイロンをあてるといいつつ鉛筆の先で額に触れたところ、みるみるうちに火ぶくれができたという実験。
 医師が「まもなく治ります」と言っただけで軽快した「プラセボなきプラセボ効果」の報告も多い。笑うことで免疫力が活性化するという研究もある。米国中西部の町の住民の死亡率を調査したジェームス・ハウスらは、毎週のように教会に行く女性の死亡率は、一度も行かない女性の3分の1だったと報告している。奇跡を起こしたのは神か、それとも信じる心か。
 プラセボ効果の本質は、モノにこだわっていては見えない。カリフォルニア大学医学部教授を務めたノーマン・カズンズは「人体そのものこそ最良の薬屋」という。自身の内にある治癒力を、ぼくたちはもっと信じよう。

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6 thoughts on “プラセボ

  1. 書籍『心の潜在力 プラシーボ効果』が参考になります。ええとまず最初に、教会へ行く回数と死亡率という研究は「The association of social relationships and activities with mortality: prospective evidence from the Tecumseh Community Health Study」です。心理的な効果や、毎週人と会うことの効果などあるでしょうけれど、長生きできるほど健康だから毎週教会に行けた、という統計のマジックってことはないのかな。さてさて。コラムで紹介したビーチャーについては「Henry K. Beecher」を参考に。それに対する反論「Is the placebo powerless?」は、日本語要約が「プラセボには効果がないのか?」で読めます。アルコールのプラセボ効果については「Study Finds that Alcohol Placebo Impairs Memory」をどうぞ。ノセボについてのSpiegelによる研究は「Nocebo: The Power of Suggestibility」を。その他プラセボについての概説は「Placebo Research at the UCLA Neuropsychiatric Institute」「意外に大きな偽薬の効能」「プラセボ(偽薬)って?」「プラセボとは」「プラセボとは何か?」「漢方薬のプラシーボ効果」などで手に入ります。最後に、最近の動きや研究として「プラシーボ(偽薬)効果はなぜ起こるのか??専門家が究明に動く」「進化研究と社会のリンク」が有益です。

  2. 小橋昭彦 さま
    誕生日の7月22日にメールを頂いた 小川圭一です。
    今日の「プラセボ」情報も、表面的には知っているのですが、このように纏めていただくと、改めてよくわかり、面白さが感じられます。素晴らしいお仕事です。
    これからも、メルマガを読ませてください。
    暑さもこれからが本番のようです。ご自愛ください。
    小川圭一

  3. いつも興味深く拝見しております。
    19年医療機関に勤務しておりました。
    どのようにプラセボを使うかですね。正に『医は仁術なり』であります。
    政治には、使われたくはないものです。
    これからも、楽しみにしております。

  4. いつも興味深く読ませて頂き、ありがとうございます。
    感想もつい忙しく、いれられませんが、本日は小橋さんに
    調べて欲しいことをお願いしたく、この欄をお借りしました。最近「命を救えるクリック」を見つけ毎日クリックしているのですが、企業の宣伝を兼ねた寄付行為ではありますが、たかが1日、1クリック、1円×6企業〓6円です。
    しかしインターネット利用者はそうとうあるはずです。
    100万人が毎日クリックすれば、1企業毎日100万円の
    負担となります。この実態と運営について調べて欲しいと
    思いましたので、よろしくお願いします。

  5. 前略。小生もメルマガを発行していて、貴「プラセボ
    効果」の記事を参照させて戴きました。小生のマガも
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