1973年の12月8日。卒業を間近に控えた女子高生3人が自分たちの就職先についておしゃべりをしていた。そのうちひとりの就職先を、別のひとりが「信用金庫なんてあぶないよ」とからかう。朝の通学途中の、たあいもないおしゃべり。しかしこれが、その後13日から17日にかけて、健全な信用金庫から20億円もの預金が引き出されるという取り付け騒ぎに発展する。うわさ研究史上有名な豊川信用金庫の流言。
この流言は発生源が特定されたことで有名だが、通常、風説なんて言葉もあるように、流言の発生源や広がりは風のように定かでない。流言の広まりは状況のあいまいさと内容の重要度に比例するという公式がある。もっとも、各種の研究では重要度についてはあまり実証されていない。むしろ、あいまいさと不安感のかけあわせではないかという説もある。豊川信用金庫の場合も、オイルショックでトイレットペーパー買占め騒動が起こった直後という不安な世情があった。
流言はしゃべらないと広がらない。確かに人は、あいまいな状況、不安な状況にあるとしゃべりたくなる。確認したいし、安心したいから。そんなわけで、相手の様子を見つつ、確認できそうならちょっと話を脚色して、相手の同意をうながしたりもするわけだ。こうしてうわさに尾ひれがついていく。
うわさには流言のほかゴシップや都市伝説なども含まれる。ぼくたちがコミュニケーションを求める人である以上、それらがなくなることはきっと、無いのだろうな。
うわさについては、「うわさとニュースの研究会」が抜群。作者川上教授による著書『情報行動の社会心理学』『うわさが走る』もいいです。海外の書籍としては『噂の研究』なども。分野としては社会心理学になるのですが、『日本社会心理学会』もどうぞ。また、『松田美佐のホームページ』『横浜市立大学かわうら研究室』『バーチャルメディアラボ』などに有益な論考が含まれています。また、ネット上のインタラクション研究では、『國領研究室のホームページ』が有名ですね。