小橋 昭彦 2006年6月20日

 別のところで、サッカー日本代表のジーコ・スタイルにからめて、自発性が組織に及ぼす影響について書いた。その中では詳しく書かなかったけれど、個々の自発的な動きが、違うレベルで見ればある秩序を示して有効にはたらく事象を念頭においてのことだった。
 専門用語でそれを、創発と呼ぶ。数日前、子どもと見ていたテレビ番組で扱っていた「囚人魚」が、まさに創発といっていい様子を見せていて驚いた。小魚が群れとなって、大きな魚の姿を形作り、捕食者を驚かせるのだ。そんなこと絵本の世界だけ(レオ=レオニの『スイミー』がまさにそう)だと思っていた。ただし、絵本と現実では、おそらくは一点で大きく違うはずだ。
 絵本では、集まって大きな魚の形になろうと発案し統括する魚がいる。でも、現実の囚人魚では、リーダーはいないに違いない。小魚それぞれが自分の意思で動いていて、しかし結果として、全体の意思があるような動きになっている。これが、まさに創発。
 もう少し身近な例をあげれば、高速道路の渋滞もそれに近い。道路のどのあたりで、何時頃、どのくらいの渋滞があるか予測できるし、それが大きくはずれることはない。ところが、ドライバーそれぞれは自発的な意思で動いている。これは不思議な話で、誰だって「あなたの運転を予測しましょう」と言われると不気味だし、超常現象のようで信じない。でも、そんな自由意思が集まった「交通流」となると、予測できてしまう。
 この話を思い出すとき、ぼくはアイザック・アシモフの『銀河帝国興亡史』に登場する心理歴史学を思い出し、集団としての人の歴史は予測できるのかと、ちょっと遠い気持ちになる。さすがにそれは遠すぎる連想だけれど、少なくとも「創発」には、いま問題になっている「規律を守りなさい」と「おれの自由だろ」の葛藤をつなぐ、なにかのヒントがありそうで仕方がない。そしてそれは、さまざまな人がネットワークでつながるこれからの時代に、とても重要な鍵になっていくだろうと、そんな気がしている。(だからジーコ・ジャパン、ぼくは創発が生み出す美しいゴールをみたいと願っている。何度でも。)

7 thoughts on “創発

  1. 参考書としては『創発』が定番です。交通流については、過去のコラム「アリと渋滞と [04.04.29]」及びそのときの参考サイトを参照ください。
    ちなみに、コラム中で触れた絵本は『スイミー』、テレビ番組はNHKの「ダーウィンが来た!大発見!親孝行する魚」です。
    別のところで書いたというのは、日経ビジネスオンラインの「情報社会に挑戦するジーコ・スタイル」です。よろしければそちらもどうぞ。

  2. 今回の内容は、かつて勉強していた岩井克人氏の経済学『不均衡動学』を思い出させてくれました。岩井紙は『ヴェニスの商人の資本論』(筑摩書房)のなかで「蚊柱」を例にとって個人の合理性と社会の合理性についての動的な関係を説明していますが、小橋様のおっしゃる「囚人魚」に近い概念かと思いました。
    もう20年近く昔のことが鮮明に思い出され、なつかしくコメントしてしまいました。これからも興味深いメルマガ楽しみにしています。

  3. motoさん、ありがとうございます。
    岩井克人氏については最近の会社論しか知らず、不勉強でした。とても興味深い資本論を展開されているんですね。あらためて読んでみたいと思います。
    蚊柱の話も、囚人魚や蟻塚、粘菌などと同じく、創発のよい例かもしれません。

  4. こんばんは。「創発」というと、マトゥラーナ、ヴァレラらのオートポイエーシスを思い起こします。日本での紹介者である河本英夫氏は、その解説書で、ラグビーの試合での、チームと選手を例として、「作動を継続する側から」システムを捉える印象的な語り方で、説明していたように思います。単なる観戦者を意味しない観察、記述というパラメータが重要なポイントだったと思います。

  5. オートポイエーシスへの連想。なるほど、それは思いついていない視点でした。オートポイエーシスは、ちょっと概念が難しいこともあってコラムではまだとりあげていませんが、メディア論とのからみなど、ずっと気になっている言葉です。

  6. 「集団としての、人の歴史は・・・・」の件。
    予測が出来るならば、コントロール(支配)も出来るのですか?

  7. しゃあさん、いつもありがとうございます。
    ごめんなさい、「遠い気持ち」と書いた真意は、予測できない、ということを意味しているとお考えください。
    また、予測できるということとコントロールできるということはつながりませんので、いずれにせよ、コントロールは無理ですね。コントロールするには、何をどのように操作するかつかめないといけませんが、そういう「細部」を予測することはできませんので。
    下記、過去に書いたコラムも参照ください。
    ・北京の蝶 [03.11.13]
    http://www.zatsugaku.com/archives/2003/11/20031113.html
    直接的には書いていませんが、下記も関連分野。
    ・スケールフリー [04.11.04]http://www.zatsugaku.com/archives/2004/11/20041104.html

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