ざつがく・どっと・こむ
ちょっと知的な雑学&トリビア

創発

2006年6月20日 【コラム
Share...Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

 別のところで、サッカー日本代表のジーコ・スタイルにからめて、自発性が組織に及ぼす影響について書いた。その中では詳しく書かなかったけれど、個々の自発的な動きが、違うレベルで見ればある秩序を示して有効にはたらく事象を念頭においてのことだった。
 専門用語でそれを、創発と呼ぶ。数日前、子どもと見ていたテレビ番組で扱っていた「囚人魚」が、まさに創発といっていい様子を見せていて驚いた。小魚が群れとなって、大きな魚の姿を形作り、捕食者を驚かせるのだ。そんなこと絵本の世界だけ(レオ=レオニの『スイミー』がまさにそう)だと思っていた。ただし、絵本と現実では、おそらくは一点で大きく違うはずだ。
 絵本では、集まって大きな魚の形になろうと発案し統括する魚がいる。でも、現実の囚人魚では、リーダーはいないに違いない。小魚それぞれが自分の意思で動いていて、しかし結果として、全体の意思があるような動きになっている。これが、まさに創発。
 もう少し身近な例をあげれば、高速道路の渋滞もそれに近い。道路のどのあたりで、何時頃、どのくらいの渋滞があるか予測できるし、それが大きくはずれることはない。ところが、ドライバーそれぞれは自発的な意思で動いている。これは不思議な話で、誰だって「あなたの運転を予測しましょう」と言われると不気味だし、超常現象のようで信じない。でも、そんな自由意思が集まった「交通流」となると、予測できてしまう。
 この話を思い出すとき、ぼくはアイザック・アシモフの『銀河帝国興亡史』に登場する心理歴史学を思い出し、集団としての人の歴史は予測できるのかと、ちょっと遠い気持ちになる。さすがにそれは遠すぎる連想だけれど、少なくとも「創発」には、いま問題になっている「規律を守りなさい」と「おれの自由だろ」の葛藤をつなぐ、なにかのヒントがありそうで仕方がない。そしてそれは、さまざまな人がネットワークでつながるこれからの時代に、とても重要な鍵になっていくだろうと、そんな気がしている。(だからジーコ・ジャパン、ぼくは創発が生み出す美しいゴールをみたいと願っている。何度でも。)

Share...Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterShare on LinkedIn

7 comments to...
“創発”
Avatar
小橋昭彦

参考書としては『創発』が定番です。交通流については、過去のコラム「アリと渋滞と [04.04.29]」及びそのときの参考サイトを参照ください。
ちなみに、コラム中で触れた絵本は『スイミー』、テレビ番組はNHKの「ダーウィンが来た!大発見!親孝行する魚」です。
別のところで書いたというのは、日経ビジネスオンラインの「情報社会に挑戦するジーコ・スタイル」です。よろしければそちらもどうぞ。


Avatar
moto

今回の内容は、かつて勉強していた岩井克人氏の経済学『不均衡動学』を思い出させてくれました。岩井紙は『ヴェニスの商人の資本論』(筑摩書房)のなかで「蚊柱」を例にとって個人の合理性と社会の合理性についての動的な関係を説明していますが、小橋様のおっしゃる「囚人魚」に近い概念かと思いました。
もう20年近く昔のことが鮮明に思い出され、なつかしくコメントしてしまいました。これからも興味深いメルマガ楽しみにしています。


Avatar
小橋昭彦

motoさん、ありがとうございます。
岩井克人氏については最近の会社論しか知らず、不勉強でした。とても興味深い資本論を展開されているんですね。あらためて読んでみたいと思います。
蚊柱の話も、囚人魚や蟻塚、粘菌などと同じく、創発のよい例かもしれません。


Avatar
s

こんばんは。「創発」というと、マトゥラーナ、ヴァレラらのオートポイエーシスを思い起こします。日本での紹介者である河本英夫氏は、その解説書で、ラグビーの試合での、チームと選手を例として、「作動を継続する側から」システムを捉える印象的な語り方で、説明していたように思います。単なる観戦者を意味しない観察、記述というパラメータが重要なポイントだったと思います。


Avatar
小橋昭彦

オートポイエーシスへの連想。なるほど、それは思いついていない視点でした。オートポイエーシスは、ちょっと概念が難しいこともあってコラムではまだとりあげていませんが、メディア論とのからみなど、ずっと気になっている言葉です。


Avatar
しゃあ

「集団としての、人の歴史は・・・・」の件。
予測が出来るならば、コントロール(支配)も出来るのですか?


Avatar
小橋昭彦

しゃあさん、いつもありがとうございます。
ごめんなさい、「遠い気持ち」と書いた真意は、予測できない、ということを意味しているとお考えください。
また、予測できるということとコントロールできるということはつながりませんので、いずれにせよ、コントロールは無理ですね。コントロールするには、何をどのように操作するかつかめないといけませんが、そういう「細部」を予測することはできませんので。
下記、過去に書いたコラムも参照ください。
・北京の蝶 [03.11.13]
http://www.zatsugaku.com/archives/2003/11/20031113.html
直接的には書いていませんが、下記も関連分野。
・スケールフリー [04.11.04]http://www.zatsugaku.com/archives/2004/11/20041104.html




required



required - won't be displayed


Your Comment:

“不眠症”年3兆5000億損失…日大教授が試算 : ニュース : ジョブサーチ : YOMIURI ONLINE(読売新聞) その結果、睡眠に問題のある人は、ない人に比べ、耐え難き眠気が襲う頻度が男性で平均月2・3回、女性で2・1回多かった。眠気を原因とする作業効率の低下から生じる経済損失は全国で3兆665億円と算定した。また睡眠の問題があると「欠勤、遅刻、早退」の頻度も高くなり、これによる経済損失は、それぞれ全国で731億円、810億円、75億円となった。
 交通事故の経験は、睡眠に問題がある人の方が、ない人に比べ年間2・9%も高く、この損失は約2413億円とはじき出した。経済損失の合計は3兆4693億8756万円に達した。
日大医学部内山真教授の調べ。痛みの経済損失など、経済的な規模に置き換える調査はそこそこいろいろある。そんななかのひとつ。
ちなみに、

・花粉量予測 [01.03.06]
http://www.zatsugaku.com/archives/2001/03/20010306.html
花粉症で2860億円。
・仕返し [03.10.20]
http://www.zatsugaku.com/archives/2003/10/20031020.html
米国では痛みによる経済的損失が年間10兆円を超える
・鼻炎と気管支炎で年間3000万日の損失 [04.10.26]
http://www.zatsugaku.com/archives/2004/10/3000.html

など。

前の記事

TV exposure associated with sleep disturbances in 5- to 6-year-old children (Full Text)The results suggest that health-care professionals should be aware of the association between TV exposure and sleep disturbances.
テレビ視聴の影響はいろんな視点から研究されているけど、これは睡眠との関係を調査。子どもに漫然とテレビ視聴をさせず、親が見る番組を決めた方がいいとも。
HDDレコーダーの子育てへの効用ってあまり言われないけど、たとえばわが家では、子どもはHDDレコーダーに録画した番組からしか見てはいけないルールにしています。最初に子どもと話し合って、録画予約する番組を決めておくんですね。番組放送時間にしばられることもなくなりますし、けっこう便利です。

次の記事