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ちょっと知的な雑学&トリビア

EBM

2005年10月27日 【コラム
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 EBMという言葉を知ったのは、いつのことだったろう。Evidence-Based Medicine、訳せば「根拠に基づく医療」である。根拠というのは、科学的な知見のこと。ここでいう科学とは、実験室で行う実験や化学的研究ではない。専門用語で疫学的というけれど、多くの患者における治療結果を統計的に分析して、効果や副作用を調べることをいう。従来の医療はえてして医師の経験や権威ある人の言葉をもとに、「根拠」なく行われてきたという反省に立っている。
 EBMの手法をとる医師は、患者を診るにあたって、まず問題点を明確にすることを求められる。どの治療法の、どんな点を検討するのか。次に、その問題意識に添って、論文などの文献を検索し、内容の信頼性を批判的に吟味する。その上で、吟味した結果を目の前の患者へ適用することの妥当性を検討する。いくら科学的知見であれ、統計的なものである以上は、目の前の患者にあてはまるかどうかはわからない。
 医療なんて、不確実なものだ。ひとりひとり個性を持ったいのちである以上、100%確実なことなんて、ない。その不確実性を少しでも減らそうとするのがEBMだと読んで、なんだかいいなあと共感したことを覚えている。ひとりの患者から発してふたたび患者にかえる、その姿勢。人間を機械のようにみて治療する手法とは対極にある気もして。
 この夏には、EBMの立場から健康診断には根拠がない検査項目があるとする調査結果も出ていた。わが父も数年前の大病ののち、定期的に検査を受けている。検査数値が悪かったといっては落ち込んで寝込む様子をみるにつけ、医療のもうひとつのキーワードである「生活の質(QOL)」という言葉も思い出しつつ、検査に接する難しさを感じている。大切なのはより良い数値ではなく、よりよく生きること。精密検査の結果を手に「きれいなもんやった」と、活力を取り戻している表情を喜びつつも、今はただシンプルによりよく生きることが難しい時代だとため息をつく。

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3 comments to...
“EBM”
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小橋昭彦

健康診断については気にされる方も多いと思うので、念のために書き添えますが、「根拠がない」から「意味がない」わけではありません。調査結果は、「生活習慣病健診・保健指導の在り方に関する検討会」の資料3、1?15ページをご参照に。
EBMについては、厚生省の調査を行った「厚生科研EBM福井班ホームページ」が参考になります。また、「Evidence-Based Medicine」「The SPELLホームページ」もどうぞ。
その他、「アトピー性皮膚炎 よりよい治療のためのEBMとデータ集」なんてのはいいですね。こういう風に、EBM情報が誰もにわかりやすく便利な形で提供されると嬉しいです。


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通りすがり

最近の社会科学では、evidence-based policy
なんて言う言葉も頻繁に使われてます。犯罪学では、evidence-based crime preventionの重要性がしばしばうたわれています。URLは参考情報です。


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トクツトミオ

11/8号の記事のEBMですが結論としての問題点提起(100%生命ある個人に適用されない)は正しい結論に思えました、しかし原因は日露?日清戦争による戦時の医療体制にありました、それまで医学者が一部ながら採用続けていた基本的な研究的態度「個別臨床研究」⇒「個別治療計画」を廃棄したキッカケとなりました。専門的にはそれらは「単一ケース研究法」と言いました、一方何度かの戦時を経て今日採用されている研究法及び治療法は個別ではなく大量に治療できて確率的に治癒させる「確率論的研究&治療」と言われています、唯一「単一ケース研究」やそれに基づく「個別治療」を行っているのが「認知神経心理学」と言う分野で、それを発見した事が今日私がこの分野に進む決意をした理由ですがそれでも問題はありました、その問題点は大学病院なとでは資格のある物はすべて大学や学閥による「医局の管理下&支配下」にあり、病院勤務を選択した時点で先に述べた理想は実現できない状況です。そこで資格を取らずに診断や判定可能な民間資格を調べたところ知ったのはEU諸国の心理士たちが歴史的に選んできた「職業紹介に際する心理判定」と言う手段でした、無論一般の治療からは全く離れますがこれは民間資格ながら最近公的資格として「失業率改善に無力だったハローワーク廃止」の動きの中で注目され始めました、無論私は最近「一日の講習」のみで得られるこの資格を取得しています、
法定料金は相談&判定&心理測定結果報告は一件650円と言う低価格でカルテを書いて提供出来ることになっています、無論無料相談も可能です。話もEMBからスタートし、「単一ケース研究法」に至り長くなりました。人に優しい医療は今日の日本ではご存知のように実現不可能です唯一と言ってよい分野はホスピス医療のみですホスピスとはガン末期エイズ末期のみの「予後六ケ月の患者」のみを射します、私たちは最後の最後まで生命ある個人を100%大切にしない国をつくりましたね、




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 仲間と同人誌を作ってSF作品を発表していた1980年代、ブラックホールといえば大きな質量を持った星が最後に超新星爆発を起こし、中心核が自重によって収縮した結果できたものというのが一般的な認識だった。さまざまなSF作品の舞台として登場したし、白鳥座の方向にそれらしいものが見つかったと話題になってもいた。
 題材にしたいと思ったこともある。しかし、物理学の門外漢にはリアリティを持って絵にできなかったし、それはこうしてコラムで扱おうとしている今でも同じ思いが残る。ただ、ブラックホールに対するイメージは当時から大きく変わったし、その変化にどこか時代性が感じられる気もしている。そのことを書きとめておきたいと思ったのだった。
 ブラックホール候補が白鳥座X-1以外に多く見つかっていることも変化だが、もっとも大きいのは、天文学の世界に量子力学があわさって、微小ブラックホールが存在する可能性が示されたことではないか。量子重力理論である「ひも理論」が正しくて余剰次元が存在したら、大型加速器で微小ブラックホールを作ることができるとさえいう。できたブラックホールが加速器をのみこみ研究所を崩壊させ、やがて地球もなんて心配はない。理論上、生まれたブラックホールは速やかに崩壊する。加速器で生み出せる規模の粒子衝突ならすでに大気中で起こっていて、研究者たちの試算によると、年間100個くらいは微小ブラックホールが大気中で生まれているとか。思わず、空を見上げる。
 ブラックホールが蒸発するというホーキングの理論も驚きだった。のみこむだけじゃなく放射もする。その前後で情報が失われないとすれば、入出力のある一種のコンピュータとしてブラックホールを利用できると研究を進めている研究者もいる。アインシュタインの一般相対性理論からはじまるブラックホールへの旅。はるか何千、何万光年の旅だと思っていたのが、一方で実験室や計算機の世界に向っていた。

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