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ちょっと知的な雑学&トリビア

グレイ・グー

2004年11月25日 【コラム
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 日本語にすれば、灰色のベタベタとでもいったところ。自己複製できるナノテクロボットが登場し、暴走を始めるとどうなるか。ありとあらゆる有機物を食いつくし、やがて地上は生物のいない灰色の軟塊に覆われてしまう。そんなおそれを表した仮説だ。分子や原子で機械を組み立てるという概念は、半世紀近く前に物理学者のファインマンが学会講演で述べている。その後エリック・ドレクスラーがナノロボットを提唱し、想定されるおそれをこの造語で表現した。
 可能性としては高くない。無機物からエネルギーを取り出すのは効率的ではなく、あり得ないという見方もある。太陽光からエネルギーを取り出す植物など、有機生命体は数十億年をかけて、自然から効率的にエネルギーを取り出す術を身に着けてきた。ナノロボットも、エネルギー供給源として有機体と共存を図るしかないといった見方だ。
 ドレクスラー自身、今年になって、原理的にはありえても、現在のナノテクの開発方向からすれば起こりえないと表明している。人間はこれまで、道具を作る道具という方向にテクノロジーを進化させている。自己複製するという概念は特異で、ナノロボットも、自己を複製するより、目的にそってナノスケールの道具を組み合わせる方向に向うのが自然な姿ではないかともいう。
 グレイ・グーには、いくつかの亜種がある。テロリストによるブラック・グーや軍隊が利用するカーキ・グー、グレイ・グーを駆除するために繁殖するブルー・グー、金や金目のものだけを食べるゴールド・グー。想像力次第でバリエーションが広がる。
 そしてふと思うのは、この想像力こそ、地球がグレイ・グーとなることを防ぐ一番の力なのではないかということ。グレイ・グー仮説は、ほかならぬナノロボットの提唱者から出されたのでもある。同じ想像力は、自分たち人類こそ地球にとっての「グー」なのかもしれないという思いも生むのだけれども。

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4 comments to...
“グレイ・グー”
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小橋昭彦

wikipediaの「Grey Goo」の解説がていねいです。また、ナノテクノロジー全般については「ナノテクノロジーについて」がよくまとまっています。

コラム中で紹介したマイクル・クライトンの小説は、『獲物()()』です。

物理学会でのファインマンの講演は「There’ s Plenty of Room at the Bottom」に採録されています。また、グレイ・グー仮説を提唱したドレクスラーの文章には、「Ecophagy and Gray Goo」からたどることができます。1986年の著作です。さらに今年になってのドレクスラーの見解は「Drexler dubs “grey goo” fears obsolete」に詳しいです。


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猪花栄治

小橋様

 個体の大きさに対して異常な捕食量を持つ「うみうし」を思い浮かべました。かつて恐竜が木を食べつくして温暖化を招いていて、巨大隕石が海洋に落ちなくても温暖化の末期を迎えていただろう。それは、奇しくも巨大隕石が海洋に落ちたと同じ結果になった。今、人類はそれを迎えようとしているかな。
 テロリストと言われてますが、こういう問題がテロリストの標的になりうるんだろうか、と興味を持ちました。
 個人的趣味の余談ですいません。鉄道趣味で列車の運用順序解析(終着駅で次どの列車で出発するかそのその何十何百とある列車群を繋ぎあわす作業ですね)をダイヤ改正のたびに行っていますが、スペインの同時列車爆破テロでこの運用情報がテロリストに、ある中心駅で集まる列車群の、どの手前閑散駅で爆弾をしかけたらいいかの重要な資料となってしまうため、趣味とはいえわが国でいち早く列車の運用情報の公開を止め、他の列車運用情報を公開している人にの公開中止を呼びかけたいきさつがあり、テロ対策にはちょっと神経質になっていました。


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スタンドアップクララ

初めまして。
ここで質問してしまうのがおかど違いでしたら無視して下さい。すみません。
唐突な質問なのですが、グレイ・グーとは
「自己複製できるナノテクロボットが暴走し、ありとあらゆる有機物を食いつくし、灰色の軟塊となること」
と受け取らせて頂きましたが、
この「灰色の軟塊」とは自己複製したナノテクロボット自身である、という事なのでしょうか?
有機物の分子?を組み替えて自己を複製するということなのでしたら、組み替えて出来たもの=複製されたナノテクロボットで、そのナノテクロボットで地上が覆われる、という捕らえ方で間違いないのでしょうか?
また、文章の後半に「亜種がある」と書かれておりますが、これは組み換え前のあらゆる物質の中で、ナノテクロボットの「何から自己を複製するか」(炭素やケイ素、あらゆる細胞等)という設定によるもの、と解釈してよろしいのでしょうか?
教えていただけましたら嬉しいです。


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小橋昭彦

スタンドアップクララさん、ありがとうございます。
はい、灰色の軟塊とはナノテクロボット自身です。
亜種というのは、あまり厳密な定義ではなく、むしろナノテクロボットをどのように利用するかという想像力によって生まれているものと考えたほうが良さそうです。
ゴールド・グーといえば金目のもの(ゴールドとは限らない?)を食べると定義することもできますが、カーキ・グーとなると「軍事用グー」とでもいった意味になりますね。




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