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フィードフォワード

2004年11月18日 【コラム
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 ノーベル賞を受賞したリチャード・アクセル教授らによると、人間の鼻には約1000種類の嗅細胞があり、それぞれに1種類の匂い受容体が存在する。匂いはいくつかの分子で構成されており、複数の受容体を活性化する。その組み合わせにより、1万種類を超える匂いを感じることができる。
 一つの匂いセンサーが一つの受容体しか持たないのはなぜか。科学技術振興機構の研究によると、千種類の中の一つが匂い受容体の遺伝子を活性化させると、そのことにより残り約999個の匂い受容体遺伝子の活性化が抑制される、そういう「負のフィードバック」によって同じ匂いセンサーが生まれないようになっているのだという。
 負といってもマイナスでとらえてはいけない。生命体はホルモンの調節をはじめとして負のフィードバックに寄っているところが大きい。負のフィードバックは、システムを安定化する。匂い受容体の場合は、それぞれの受容体の独自性を生んでいるといえるだろう。
 一方で正のフィードバックといえば、わかりやすい例では「あの人も買っているから」と買ってしまうベストセラーのようなもの。現在はこうした正のフィードバックが目につくから、負のフィードバックという安定系の仕組みに、ついマイナスイメージを抱いてしまうのかもしれない。
 制御の仕組みはフィードバックだけではない。フィードバックは結果を受けて調節する、振り返り型の制御だが、目標を先に決めて外部要因を評価しつつ、達成に向けて修正を加えるフィードフォワード型の制御もある。人間の身体では、たとえば頭を振っても視線を固定しているときの小脳のはたらきがこのタイプとされる。
 ビジョン優先のフィードフォワード。雪だるま式に加速していく正のフィードバック。システムを安定させ、独自性を生む助けをする負のフィードバック。これらの組み合わせが大切であるのは、生命に限らない。

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12 comments to...
“フィードフォワード”
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小橋昭彦

匂いについては、過去のコラム「ニオイのチカラ [2002.03.18]」をご参照ください。科学技術振興機構の研究については「匂い知覚のメカニズム」をどうぞ。

フィードバックとフィードフォワードについては、たとえば「フィードバック制御とフィードフォワード制御」を。匂いのメカニズムから入って何気なく踏みこんだこのもんだい、「ニューラルネットワーク」や「脳の可塑性」あたりに踏み込み、「マンーマシン・インタフェース」などなど考えていくと、なんだかとても深いですね。

メディア研究にも応用できそうだと気づき、ちょっと思案中。


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たかき

モータの動きを高精度に制御する場合もフィードバック制御を使いますが、やはりフィードバック制御だけだと限界があり、用途によっては+αと言う感じでフィードフォワード制御を使います。

人の場合も、例えばテニスラケットのスウィングや、野球のバットのスウィングなど、はじめて素振りをするときなど、最初はフィードバック制御で、上達するとフィードフォワード制御が加わってくるのかなと思ったりします。
フィードバック制御のみだと、ボールを打ち返すという運動は、時間的に間に合いませんので。

きっと最近のロボットの制御なども、考え方としてはフィードフォワード制御が入っているのでしょうね。


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TSHI

まったく事前の想定なしに調査対象の統計的な特性を特定しようとしていく通常のアプローチのほかに、統計データ以外の知識(例えば対象となる市場や商品に関する洞察を持っている)に基づいて事前に調査対象の特性を想定した上で分析をするベイズ統計という分野が統計学には存在します。このベイズ統計に対しては調査対象の特性が分からないのに何故、事前に想定ができるのか等の批判が常に付きまといやや異端的な扱いをうけているのですが今日のコラムを読んで、これは異なるタイプのフィードバック・ルールに基づいた統計的分析手法と考えれば好いのではと思いました。この意味では通常の仮定を置かない統計分析は正または負のフィードバック・ルールに基づいていると言えるかもしれません。


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ななし

光(色)の原色が3つなのは、「網膜にある錐体細胞に3つのバリエーションがあるから」というのが理由ですが、鼻にある嗅細胞に約1000種類のバリエーションがあるなら、臭いは1000原臭なのでしょうか?


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ペイ

負のフィードバックが独自性を生む助けをする、という発想は、企業の経営企画部門などでCSやコンプライアンスの浸透に悩む人間(含む自分)には、大きなヒントになるような気がします。


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小橋昭彦

ななしさん、実はぼくもそのことが気になったのですが、センサーが千種あるということと、原臭が千ということとは別と考えたほうがよさそうです。人間の鼻は千種で匂いを嗅ぎ分けているというだけで、動物によってこれは違うので。

ベイさん、TSHIさん、ありがとうございます。そのようにしてこの考え方を拡張していくと、いろいろ役立ちそうです。

たかきさん、ありがとうございます。まさに、フィードフォワードをどう組み込むかがロボット研究のひとつの課題でもあります。難しい分野みたいですが。


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ちゅうそん

男には心地よいのに、女性には嫌悪感を与えるにおいが
発見されたと、昨日??新聞に載っていましたね。
妻から「汗くさい」と、よく言われます。
(あのにおいは男子校のにおい?)


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かずと

>小橋さん
光の3原色も、人間にとっての原色にすぎず、
生き物によってこれは変わると聞いた覚えがあります。

そうすれば、臭いの場合も1000原臭、でいいのではないでしょうか。


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しゃあ

フィードフォワードってスティンガーミサイルの「見越し会敵」ってヤツですか。ワイフに怒られる前に皿を洗う(フォワード)足りなければ掃除もする(バック)と考えれば良い?


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ななし

>かずと さん
>光の3原色も、人間にとっての原色にすぎず、
>生き物によってこれは変わると聞いた覚えがあります。

本題とズレてしまっていますが…

霊長目以外の哺乳綱の動物では、錐体細胞のバリエーションは2種類で、哺乳綱以外の多くの脊椎動物では4種類のバリエーションを持っているそうです。

昆虫だと視細胞のバリエーションの他に、分光透過率の違うフィルターを使用する事で、更に多くの特性の変化を持たせているそうです。


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かずと

>ななしさん

ありがとうございます。
勉強になりました。


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ななし

リチャード・アクセル教授を始めとする現在主流の形状説(分子の形状が匂いを決める)という説の他に、振動説(分子の振動数が匂いを決める)という説もあるそうで、本当の意味で形状説が確かめられた訳ではなく、形状説では説明がつかない事例がいくつも見つかっているそうです。

もしかすると近い将来、「リチャード・アクセル教授のノーベル賞受賞は間違いだった」なんで事になるかも…
って内容の本があります。(読み物として、かなり面白いです。^ ^)

匂いの帝王
チャンドラー バール (著) 金子 浩 (翻訳)
単行本: 420 p ; サイズ(cm): 19 x 13
出版社: 早川書房 ISBN: 4152085363

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152085363/qid%3D1107748974/249-7204548-5397908




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 身の回りにはらせんが多い。らせんを用いたもっとも広汎な発明品といえば、ネジだろう。身の回りの工業品のうちいくつがネジを使っていることか。工業品に限らない。この銀河系も渦状のらせん構造だし、太陽のコロナ磁場もらせん、台風や渦潮などもらせん。植物に目を転じればアサガオや豆などのつる、ヒマワリの種のつきかた、松ぼっくりなどもまたらせん。巻貝やクモの巣、人ではつむじや指紋。なにより、生命を記述するDNAが、二重らせん構造となっているのでもある。 平面状のらせんで代表的なのは、アルキメデスのらせんとベルヌーイのらせんだ。ベルヌーイのらせんは、渦の幅がだんだん広くなるもので、各周におけるらせんの接線と、回転の中心から外に向けて引いた線がなす角度が、常に一定になるものを言う。巻貝や渦状銀河などがそうだ。 これに対しアルキメデスのらせんは、一周ごとの幅が一定のもの。かとり線香やレコード盤の溝がそうだ。前述の太陽コロナ磁場もアルキメデスのらせん構造になっている。同じ名前のポンプがあるが、これはいわばホースを立体に巻いたもので、まわすだけで低いところから高いところに水が揚がっていく。アルキメデスが考案、後にガリレオ・ガリレイがこの原理を応用したポンプの特許を申請して独占権を得た。現在の電池式灯油ポンプにも応用されている。 アルキメデスのらせんを機械的に描くには、回転と直線運動を組み合わせるような複合工作機械が必要になる。ハーバード大の研究者によれば、中国の春秋時代のヒスイの溝は精密なアルキメデスのらせんになっているそうで、紀元前7世紀頃、すでに複合工作機械が使われていたことを強く示唆している。 同じところに戻るようで、違う地点に立つ。かつて人類は、らせん構造に宇宙や神の象徴を見た。それを描くために複合工作機械を作り、いま科学の最先端でらせんに出会う。ぼくたちはらせんとともに生きている。

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