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カラスの帰宅

2003年1月27日 【コラム
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 夕焼け小焼けで日が暮れてとうたったのは中村雨紅。子どもの頃、夕方になるとしばしば思い出したものだった。烏と一緒に帰りましょうと歌うときには、ほんとうに夕空にカラスが飛んでもいて。カラスは日没30分前くらいの明るさに相当する、照度10000ルクスくらいになると家路につき始める。
 気になるのは、帰る先はどこかだ。山岸哲博士の『オシドリは浮気をしないのか』を読んでいて、答えに出会う。カラスは、繁殖期こそ自分の巣の傍で寝泊りすることが多いのだけれど、冬の期間は、集団で眠るねぐらに帰る。それこそ何千羽と集まってきて、眠る。たいていは竹やぶで、一羽が竹の先端にとまる、すると少し竹がしなる、しなってできたとまり場にもう一羽がとまる、またしなる、そこにまたとまる、そうして何羽もとまってやすむ。
 その集団ねぐら、山岸博士が調べた長野県の場合、わずか7箇所なのだという。長野県中の、正確にはカラスに県境は関係ないから隣県からもだけれど、カラスが夕方になるとわずか7箇所のねぐらに帰ってくる。季節の風向と重ね合わせると、疲れた体を追い風にのせて、ということらしい。そんなわけだから、7箇所に集まるカラスを数えれば長野県のカラス人口が出るわけで、1962年当時のそれは、およそ1万5000羽と推定されている。
 山岸教授がこの発見をしたのは、学生として信州大学に学んでいた頃。特別な手法があったわけではない。夕方になると長野県下のあちらこちらに出かけ、自転車やオートバイを使って、ねぐらに向かうカラスを追いかけ、行き先をつかむ。その後山岸教授は田舎の中学校の理科教師として赴任、鳥の生態の研究を続け、京都大学教授などを経て、山階鳥類研究所の所長として活躍。カラスとともに家路についた日々の情熱を持ち続けることは貴い。

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6 comments to...
“カラスの帰宅”
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小橋昭彦

まずは「山階鳥類研究所」と『オシドリは浮気をしないのか』をどうぞ。カラスは「自治体担当者のためのカラス対策マニュアル」など、各自治体にとって頭の痛い問題でもあり、「カラス対策プロジェクトホームページ」(東京都)「大阪府下のカラスの集団ねぐら」(大阪市立自然史博物館)「平成12年度鳥類生息状況調査について」(環境科学センター)など、いろいろ調査研究がなされています。「カラス類の集団ねぐらの現状と動向」(生物多様性センター)も参考に。


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SoLong

私の仕事をしている近くには広い公園があって、カラスとハトが住んでいて、縄張り争いをしています。と思っていたのですが、カラスは夜になるとどこかへ行ってしまうのですね。ねぐらの団地から仕事場の公園まで毎日通ってくるカラスたちに、なんだか親近感を持ってしまいました。


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匿名

カラスが家路に向かう照度は、10000ルックスで
なく1000ルックスでは?


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otyc

思いがけないことを追求される研究を興味深く拝読し
ました。
では、東京にカラスが増えていますが、彼らのねぐら
は何処なのか、東京で何カ所なのか、知りたくなりま
した。


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小橋昭彦

カラスが帰り始めるのは1万ルクスで間違いないようです。日没30分前くらいの明るさです。ただし、大半のカラスが帰り始めるのは、ご指摘どおり、千ルクス以下になってからとのことです。

東京のカラスのねぐらについては最初に紹介している東京都のページでも参考資料がありますので、探してみてください。


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none

現在信州大学に学ぶ学生としてこういった先輩がいたということを初めて聞きました。純粋なる探究心、現在の学生も大いに見習わなくてはならないと感じます。




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 宇宙天気予報が現実味を帯びてきたことを書いたのは、1998年、コラム執筆を始めて1年目の夏だった。いまではインターネット上で提供されているこの予報は、日々の太陽風と地球磁気圏の様子を知らせている。 太陽風というのは太陽から出る粒子の流れのこと。秒速300から800キロメートル、地球までおおむね3日前後かかる計算だ。地球の磁気圏と衝突した太陽風は、地磁気を乱してオーロラを見せたりするわけだが、激しいときは磁気嵐を起こす。 磁気嵐が発生するとなれば、宇宙飛行士は船外活動を控えて放射性物質を浴びる可能性を減らし、人工衛星も姿勢を変えて防御しなくてはならない。ふだんぼくたちは、地表からおよそ8万キロ上空までを覆う地球の磁場によって守られている。静止衛星の軌道は赤道上空約3万6000キロメートルだし、スペースシャトルはせいぜい高度400キロ。いくら宇宙といっても、そこはまだ宙空と呼ばれる地球磁場圏内なのだ。 さて、地球に磁場があるのは、地球が磁石になっているからだ。ただし地球内部は高温で磁力を帯びることはできないので、永久磁石をイメージするとちょっと違う。磁力発生の原因として有力視されているのが、流体ダイナモ説。地球の外殻部にある、高温になって液体のように流れている誘電性流体が、磁場を生んでいるというわけ。 地磁気は、1日のうちでも変動する。ぼくが生まれた日を調べてみると、地磁気的にはきわめて静穏な日だったらしい。寒い日で部屋を暖めたり産婆さんを呼んだりわが家ではたいへんだったろうが、それをとりまくこの地球の磁場はなべてこともなし、平穏に過ぎていたというわけだ。こういう巨視的な視点と小さな視点の出会うところが好きで、それを捜し求めつつこの4年間書き続けているのだったと、あらためて思う。本日、太陽風速毎秒569キロメートル、地磁気は平穏なり。

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 カラスが出てくる歌といえば「烏は山に 可愛い七つの子があるからよ」とうたう、野口雨情による童謡があった。ぼくはこれを七歳の幼子と理解していたが、鳥に親しい人にとっては予想外の解釈という。七年も生きて子どもでいるはずがない。 とすると童謡は7羽の子という意味になる。5つ卵が通常だから多産ではあるけれど、常識の範囲内だろう。ちなみに、カラスの卵といっても黒くはない。鳥の卵の色は、血液の赤と同じヘモグロビン色素か、青色や緑色をつける胆汁色素か、どちらかで決まる。 童謡は「可愛可愛と烏は啼くの」と続く。カラスの気持ちを察して歌詞に織り込んだのかと思いきや、埼玉大学の山口仲美教授の著書に、広島や兵庫ではカラスの声を「カワイカワイ」と聞きなしたとあった。鳴き声を模した掛詞であったか。歴史をたどれば、カラスの鳴き声を「カラ」と聞きなしていたこともあると思われ、それに鳥を示す接辞「ス」をつけてカラスに。鳥の名前は、ウグイスやカケス、チドリ、アホウドリと鳴き声に由来するものが多い。ウグイスもウークヒと鳴いていたのだ。 ノーベル賞を受賞した動物行動学者のローレンツは、魔法の指環をはめて動物たちと会話したという古代ソロモン王の話をひきつつ、自分はあらゆる動物と会話できない点でソロモン王に劣るが、指環がなくても話せる点で負けていないと述べている。著書には、コクマルガラスと家族同様に暮らした観察記が生き生きと描かれている。 いま、都市生活にとってカラスはむしろ敵で、自治体担当者の頭を悩ませている。鳥獣保護法では野鳥の巣や卵をとることを禁じているが、カラスについてはそうもいっていられない状況。ローレンツはその著書を『ソロモンの指環』と名づけた。ぼくたちは七つの子とどうつきあえばいいのか。失った指環を求める旅路は長い。

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