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ちょっと知的な雑学&トリビア

脳の大きさ

2002年8月08日 【コラム
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 600万年から700万年前というトゥーマイ猿人化石発見のニュース。人類の祖先としては最古、しかも大地溝帯の形成で草原化したことが二足歩行を生んだという「イーストサイド物語」の舞台とはかけ離れたアフリカ中央部での出土。ヒトはアフリカ各地で誕生していたのだろか。胸躍らせつつ、350立方センチという、トゥーマイ猿人の頭蓋容積に目がとまる。
 旧ソ連のグルジア共和国で見つかったホモ・エレクトスの脳の大きさが注目を集めたばかりだ。アフリカから欧州に渡った原人とされるけれど、約600立方センチと従来の原人の3分の2しかない。砂漠をこえてアフリカを出たのは、脳が大きくなり知能が発達したことも要因というのがこれまでの説だったので、見直しが迫られる可能性がある。
 現代人の脳の平均的な大きさは1300立方センチあまり。体重に比べての大きさが際立っている。ヒトの赤ん坊が丸々太っているのもこれが理由のひとつで、エネルギー消費量が大きな脳のために、飢餓に備えて余剰エネルギーを脂肪として蓄えるしくみが働いているのだとか。出生時のヒトの脳は、身体が摂取したエネルギーの60%以上を消費する。大人でも、体重の2%くらいしかない脳が、約2割のエネルギーを消費している。
 これだけのエネルギーをまかなうには、豊富な栄養資源を摂取しなくてはならない。狩猟能力を持たない初期の人類が確実に資源を手に入れようと考えたなら、森林やサバンナよりも水辺ではないか、と主張するのはトロント大学のカナン教授。じつはトゥーマイ猿人もワニなど水辺に住む動物の化石と一緒に見つかっているのだが、いまのところ、化石になりやすいのが水辺だったからに過ぎないと無視されているようだ。
 1.2%の違いしかないヒトとチンパンジーの遺伝子。でも、脳での遺伝子の働き方には大差があるとドイツ・マックスプランク研究所などの研究グループが明らかにしている。トゥーマイ猿人の約350立方センチというのは今のチンパンジーとほぼ同じだが、遺伝子はやはり独特のはたらきをしていたのか。純粋な脳の大きさでいえばクジラの方が大きい事実もある。大きさだけが、すべてではないのだ。

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11 comments to...
“脳の大きさ”
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小橋昭彦

まず「脳の世界」へぜひどうぞ。体重と脳のサイズについては「霊長類の行動と進化」のグラフがわかりやすいかな。さて、Toumai猿人については「Toumai The Face of The Deep」がおすすめです。人間の脳の大きさと岸辺生活仮説については「Stephen Cunnane」教授による研究で「Seafood was Brain Food Says Researcher」という記事などご参照に。また、ヒトが水辺で進化したという仮説に関連しては昨年のコラム「水辺の進化」をご覧ください。脳の進化については「脳を進化させた コラム構造と階層性」という講演録もぜひ。ちなみに、ハエの脳については「Flybrain」へ。


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匿名

> ヒトの赤ん坊が丸々太っているのもこれが理由のひとつ
> で、エネルギー消費量が大きな脳のために、飢餓に備
> えて余剰エネルギーを脂肪として蓄えるしくみが働いて
> いるのだとか。

脳のエネルギーとして,脂肪は使えないよ(>_脳のエネルギーとして,脂肪は使えないよ(>_


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小橋昭彦

>脳のエネルギーとして,脂肪は使えないよ(>_
おっと、だとすると、資料の読み間違いです。ごめんなさい。脳のために消費エネルギーが膨大になるので、エネルギーを備蓄している、ということのようです。

ただ、すみません、調べてみると、それでもやはり「エネルギー」という言葉でくくるのは無理がありそうな気がしてきました。

脳のエネルギーはブドウ糖で、これは備蓄が効かない。神経細胞を活発に働かせるのに役立つのはたとえばDHAなどで、これは脂肪ですね。


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新藤

こんにちは。
トゥーマイはToumaiだったのですね
先日サイエンスのページを見たのですが、読解力なくて
スペルが謎のままでした。
ありがとうございます.


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松本秀人

>純粋な脳の大きさでいえばクジラの方が大きい事実も
>ある。大きさだけが、すべてではないのだ。
よく、「人類は、実際には脳の○%しか使用していない」なんて記事が出ますが、大きさに対する“実稼働率”(逆にいえば、使われていない潜在的キャパシティ)も重要なキーではないかと。


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てるまる

体重に占める脳の割合が重要である理由って何なのでしょう?
脳の大きさ(発達の仕方にもよるとは思いますが)が同じ場合、より体重の軽い方が発達度が高いなら。
鯨の脳が人間の脳になったら…うーん上手く言えませんが。
クジラが人間と同じ脳(重さも同じ)を持って、人間と同じように考え話すようになったとして、クジラ本来の脳よりは「小さい」わけですから、差異は何処から来るのでしょう?

まあ、クジラが人間より、より高度な思考を有してるとしたら問題は氷解してしまうのかもしれませんが。

検索などでどうも上手く引っかからないのです。
やはり、まだ研究段階なのでしょうか?


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たけお@沖縄

たけお@沖縄です。

楽しく読ませてもらいました。

記事本来の展開からは脱線しますが・・・・。

むかしあった人形劇で「プリンセス・プリン・プリン

物語」というのがありましたね。

あの登場人物にルチ将軍っていましたね。

彼は「知能指数1300」が売りのキャラクターでしたが

あの数字は、今回記事にあった「現代人の脳の平均的

な大きさは1300立方センチ」に由来していたのでしょ

うか。きっとそうですよね。

もしそうなら、長年疑問に思っていた謎がひとつ解け

ることになります(笑)。


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れいじ

「体重の2%の脳のために、20%のエネルギーが必要、このエネルギーをまかなうには豊富な栄養資源を摂取しなくてはならない」で疑問が解けました。痩せているのにさらにダイェットする最近の女子学生の勉強態度、15分も静かにしていられない体力不足。本を読まないから想像力不足、この理由は「脳」にダイェットで充分な栄養がいかないからだと納得。「脳」も「からだ」の一部ですからね。


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ららのなこら

初めまして。「ららのなこら」 です。
初歩的な質問ですが、脳の重量は
体重の2%と記事中にありましたが
本当でしょうか?勿論、「小錦関」や「曙関」とかの
比較では無く、・・・
普通体での問題ですが。宜しくお願いします。


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小橋昭彦

てるまるさん、ありがとうございます。とりあえずは、身体が大きいとそれだけ処理する情報も多いので脳も大きくなる、という考え方でよいようです。だから、恐竜は身体の大きさの割に脳が小さいので、反応が鈍かったのではとの推測もあります。

れいじさん、ありがとうございます。実際、最近の子が「キレる」のは、ダイエットで脳のエネルギーである糖分が足りないせいではないかという説さえあります。

ららのなこらさん、ありがとうございます。

>体重の2%と記事中にありましたが
>本当でしょうか?

脳の重量はほぼ1300グラムです。体重65キロだと2%ですね。

ちなみに、人間の比重は、水にちょうど浮かぶくらいだから、ほぼ1ですよね。骨か脂肪かによっても違いますが、脳の体積が1300立方センチなので、比重1で1300グラム。計算は合います。


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とことこ

私も主人も身長は170cm台後半、
二人とも近い身内にビックリするほど頭脳明晰な人間がいます。
まだ乳幼児の息子はやはり背が高く、頭のサイズが一般より大きいのですが、(脳自体が大きいといわれています)知能が高くなりそうですか?




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 しばらく前に熱でふせっていたとき、各界の著名人と病気の関係についての書籍を寝床に持ち込んだ。病に病をとのしゃれではあったが、アンデルセンは心気症から生き埋めを極端に恐れ、失神しそうなときは「死んだように見えますが生きています」と書いた紙を枕元に置いたなど、興味深いエピソードに出会えた。 そのアンデルセンに同性愛説もあったという指摘に目がとまる。『幸福の王子』などを残した英国文学のオスカー・ワイルドにも、同性愛で投獄された経験がある。英国では当時、同性愛は犯罪だったのだ。 一方、日本では長らく、美少年を伴にする習慣があった。足利義満と世阿弥の関係は有名だが、織田信長と森蘭丸の関係ははたしてどうだったか。男娼という職も成り立っていたし、男色(なんしょく)物という読み物のジャンルもあった。 もっとも、男色についてふみこんで調べると、ギリシア神話の神々はしばしば美少年を愛しているし、プラトンのいう肉欲を超えたプラトニックラブは男性同性愛の理想形だったという。ローマでは、カエサルは「ローマのすべての妻の夫であり、すべての夫の妻」との記述が残っている。その後のヨーロッパでは、レオナルド・ダ・ビンチやミケランジェロなどが男色で知られている。また、発見当時のアメリカ大陸では男色が慣習として組み込まれている部族が多かったという。 明治以降、西洋化の影響もあって日本で男色は廃れるが、1960年代以降、欧米の思潮を受け入れる形でふたたび同性愛が市民権を得るようになった。ぼく自身は萩尾望都の『トーマの心臓』など少女漫画の傑作群を思い出しもするが、歌舞伎の女形はじめ、男色が芸術に多くの影響を与えてきたのは事実。調べるほど、キリスト教の影響で極度に男色を禁じていた風潮こそ珍しいことのように思え、文化の多様性について思いめぐらせたのだった。

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 こういうのを詰めが甘いというのだろう。前回、赤ちゃんが太っている背景に脳のエネルギー消費量の大きさがあると書いた。そのため、飢餓に備えて余剰エネルギーを脂肪として蓄えていると続けた。読者の方から指摘をいただいたけれど、こう書くと誤りで、脂肪として蓄えたエネルギーは、脳のためには使えない。 というのも、脳はいわば偏食家で、エネルギー源とできるのはブドウ糖だけ。そしてブドウ糖は体内での備蓄が効かないのだ。脳が多くを消費するからエネルギーを蓄えるしくみが活発化したとはいえるものの、脂肪が脳のエネルギー源になるわけではない。創刊間もない98年1月のコラムで脳と糖分の関係をまとめていつつ、このていたらく。これからはコーヒーもブラックじゃなく砂糖を入れて脳を働かせるか。反省し訂正する次第です。 さて、これで終わってはもったいないので、砂糖について調べを進める。金平糖好きの織田信長の逸話は有名だが、砂糖は鑑真が日本に伝えたという説はどうだろう。彼の第1次渡航の積荷に「蔗糖」の名が見えるためだが、ご存知のように航海が成功したのはようやく6度目のこと。そのときの積荷にもあったかどうか。正倉院宝物に含まれているから、奈良時代に伝わっていたのは間違いない。 当時、砂糖は薬とされていた。それで、砂糖とは直接関係無いけれど、飛鳥京の庭園跡で発見された木簡のことを思い出す。処方箋を記したものとしては最古もの。西州続命湯という漢方の処方が書かれていたといい、遣唐使が最新の医療技術を持ち帰っていた様子がしのばれる。砂糖といい、処方箋といい、1200年以上前からわれわれは自らの健康を思っていたのだ。 ちなみに、西州続命湯というのは、脳出血などの漢方薬として知られる。ここで話題は再び脳に帰り、末尾が頭につながったところで、丸く、おさめさせてください。

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