小橋 昭彦 2001年12月6日

 いまでいえば重量挙げだろうか。オリンピック種目としてウェイトリフティングが登場したのは1896年の近代オリンピックの第1回アテネ大会以降だが、神に供物を捧げるという意味もあって、古代から力自慢は行われていた。階級により差があるものの、300キロ、400キロを持ち上げる人たちの力は、やはり超人というほかない。
 日本では力石の伝統が知られる。弁慶の力石のように伝説として伝わるものもあるけれど、より身近には実際に各地で集落の人たちが力くらべをした石が残る。四日市大学の高島愼助教授によると、北海道から沖縄まで、各地から2万個をこえる報告が寄せられているということで、実際にはその3倍の力石があると推測されるとか。
 力石の重さは、20から30貫前後のものが多い。ということは、少なくとも米俵一俵の重さである16貫(約60キロ)以上は持てなくてはいけないということ。力があることが仕事ができることにつながっていたから、力くらべには実用的な意味があったわけだ。力石を持てることが一人前の大人への通過儀礼だったり、力くらべの優勝者が村いちばんの美人を嫁にできたなんて話もあるらしい。
 消費者宅に米を届ける父を手伝って、玄関先まで米袋を運ぶことをときにする。夏はそれだけで一汗。といっても一袋の重さはわずか10キロ。なんだかひ弱になったものだ。米袋の重さをちょっと超えた子どもを抱きつつ、力石の前で顔を赤らめるほかない。

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