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ちょっと知的な雑学&トリビア

虫の居どころ

2001年12月05日 【コラム
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 虫めづる姫君という『堤中納言物語』所収の話。蝶よりも毛虫が好きで、かたつむりを集めたり童(わらわ)に虫にちなむ名前をつけたり。読んだことはなくても、虫愛ずるというフレーズを覚えている人は多いかもしれない。日本人は、虫を愛する性質を持っているようだから。
 腹の虫、かんの虫、虫の知らせに虫の居どころ。虫を用いた言葉も多い。それで、そもそもそれはどんな虫なのか、という疑問が生じる。確かではないが、かつては回虫も多かったわけで、ときどきお尻から顔を出しても、そんなものくらいに受けとっていたらしい。腹の虫がいるっていうのは、リアルな実感を伴っていたようだ。
 中国の道教に由来する虫もあって、これを三尸(さんし)の虫という。60日に1度の庚申(こうしん)の夜、寝ている間に体から抜け出して、天帝にその人の悪行を告げるとされていた。罪が500条に達すると死が決まるといわれ、だから庚申の夜は虫が出ないよう、みんな寝ずに過ごす「庚申待ち」の風習が広まった。三尸の虫は江戸時代になって、体中に九つの虫がいて病気を起こしたり感情を呼び起こすとされるようになる。とすると、これが腹の虫の正体か。
 現代の衛生志向は虫を徹底的に排除するようになった。虫の居どころが悪くなって人びとがすぐ腹を立てるようになった、というと言葉遊びだが、ふと、虫愛ずる姫君の主張を思い出す。蝶や花を愛すなんて、うわべだけのはかなさ。毛虫は醜く見えてもその内に蝶になる可能性を秘めている。その本地(ほんじ)、つまり本性を愛することこそ貴いと。
 姫君、あなたの言葉を、心に刻みます。

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8 comments to...
“虫の居どころ”
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小橋昭彦

『堤中納言物語』を読んでみたいという方、古典はけっこうオンラインでテキスト化されているので、google.comなどでタイトルで検索すれば、手に入れることができます。


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小橋昭彦

今日の没ネタ。日本に現存する幹回り3メートル以上の巨木は6万4479本(日経10月5日)。


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ばっしー君

創刊800号おめでとうございます。これからも、楽しいコラムを心待ちにしております。
ところで
宮崎駿さん原作の「風の谷のナウシカ」の主人公であるナウシカという姫君は、この「虫めづる姫君」がモデルなんだそうですね。ナウシカ姫も蟲や黴を非常に大切にし、”本地”こそを愛する女性として描かれていると思います。確かご本人があとがきに、そのような物語の背景を書いておられたように記憶してます。


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こま

800号おめでとうございます!!
続けることは大変なことです。

ところで、近頃の若い人の虫嫌悪には
見ている私の方が寒気がします。
最後の一段落、ほんとうにそう!と思います。
虫と仲良く生きることができないと人類は滅びると
本気で思っています。

この前の日曜日、小春日和の日中に
カネタタキの弱々しい声がして
何だか嬉しくなりました。
家族で耳を澄ましてしまいました。
「虫絶ゆる」の季語は寂しいです。


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まみこりんご

創刊800号おめでとうございます!!

ばっしーさんのお話、知りませんでした!風の谷のナウシカにそんな話しがあったとは。。。
この前オーストラリアのエアーズロックに行ってきたのですが、
エアーズロックから数十キロ離れたマウント・オルガ(カタジュタ)を見てきました。
そこは風の谷と言われていて、ナウシカのモデルとなった場所だということを聞きました。
そのマウント・オルガの大きな岩の一つが
王蟲のモデルになった岩だよとガイドさんに教えてもらって、
角度によっては、なるほど王蟲に見えて
宮崎さんは、なんて想像力のある人なんだろうと、改めて感心して
しまいました。
私はというと、今日のコラムを読みながら「もののけ姫」に出てくる虫を思い浮かべてました。


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KIMURA

「虫愛ずる姫君」・・・この作品で大学の卒論を書いたので、とても懐かしく思いました。

それから、800号、おめでとうございます。


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小橋昭彦

ばっしーさん、そういえばそんな話を聞いた気がします。そう、まさにナウシカはそうでした。まみこりんごさんの話は知りませんでした。風の谷。行ってみたいなあ。

KIMURAさん、どんな卒論だったのでしょう。気になるところです。


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栗原悦子

通刊800号、おめでとうございます。何にしても続けるということは根気ばかりでなく、責任も伴ってくるでしょうから、大変なことだと思います。敬服します。虫と聞いてマリア・カラスさんがさなだ虫を飲み込み(体内に入れ)105キロあった体重を短期間で55キロまで減らしたというニュースを思い出しました。このニュースを聞いた時はとてもショックを受け、と同時に、なかなか減量できない私にとっては「短期間で50キロ痩せた」という言葉が頭から離れず、一瞬だがやってみようかと思ったことがありました。でもやはり大の苦手の虫を飲み込むなど到底出来ることではありません。ましてや体内で飼うなんて、想像するとゾッとします。彼女はたしかこの時恋をしていたのですよね。大恋愛でもすれば私(当時独身)も出来るかなぁ、なんて思ったりもしましたが(笑)。東京医科歯科大学の藤田紘一郎先生(カイチュウ博士)がそれぞれのさなだ虫に名前(女性)をつけて体内で飼っている(共生)ニュースも思い出しました。同博士はまた、最近色んなアレルギー症状を起こす日本人が増えているのは、中には人間にとって必要な虫もいるのに全て排除してきたせいだとも述べていました。人間にとって共生できる(必要な)虫もいるのだということは私にも理解できますが、やはりさなだ虫と共生するのは勇気がいります。




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 居酒屋のメニューにハマチと書かれたあとにカッコしてカンパチとあり、あれ、同じ魚だっけ、とその場で一同混乱する。出世魚は名前が覚えられなくっていけない。関西ではワカナからハマチ、メジロ、ブリと成長するのが一般的呼称。関東ではワカナゴ、イナダ、ワラサ、ブリだそうだけれど、全国で100通りを超える呼び方があるというから異称も多い。とまれ、カンパチはブリ属ではあれ、違う種である。 途中はいろいろあるが、出世のあがりはどこもブリらしい。漢字で書くと鰤(ぶり)。日本で作られた漢字だが、寒ブリといわれるように、これからが旬。師走の字が入っているのはそのためか。 ちなみに、中国で「師魚」と書くと老魚の意味なので、そこから連想された漢字だという説もある。年経(ふ)りたる魚からブリという呼び名が出てきたとも。もっとも、ブリの語源にはあぶって食べるからブリだ、という説や、あぶらの多い魚だからブリという説もある。 その脂(あぶら)。12月から1月にかけて、日本海でとれる天然のブリの脂質含量は最高値となり、10%前後だという。これが、寒ブリのとろけるようなおいしさの秘密。もっとも、多ければいいというのでもなく、養殖ものは25から30%にもなるそうで、そうなると味が落ちる。 とまれ、刺身もいいが、この時期、大根と一緒に煮るブリ大根は絶品。カモがネギしょって来るなら、ブリが大根くわえてきてもいい。わが家の子どもも、親の皿からかすめとって食べている。東京出張のおり、同僚と居酒屋でブリ大根をつつきつつ、日々成長するきみを思い出している父親であった。

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