小橋 昭彦 2001年11月7日

 木簡(もっかん)の利用法としておもしろいもののひとつに、奈良市の長屋王邸宅跡から見つかった例がある。中央に人名、横の端に三つの点。割れて文字が残ったというわけでもない。はじめは不明だったが、やがて画指(かくし)木簡だと判明する。
 指を画(か)く。木簡の端に人差し指のつけ根をあて、指の先とそれぞれの関節ごとに印をつけたわけだ。人によって長さや関節の位置が違うから、本人かどうか識別できる。つまり、署名ができない人向けのIDカードだったわけ。
 もっとも、当時出入りチェックに実用的に利用されていたかどうか、確かなところはわからない。子どもの奴婢(ぬひ)管理のためだったとも言われている。ま、少なくとも顔パスだけでは通じないほどの人数を抱えていたことは事実なのだろう。
 誰何(すいか)の方法としていまひとつ思い浮かぶのは、合言葉だ。日本書紀に、天武天皇の時代に用いられた様子が記されているから、これが記録に残るもっとも初期の例のひとつだろう。有名なのは赤穂義士が使った「山」「川」だが、もともと浄瑠璃では、討入りの装束を調えた商人天河屋義平の屋号をとって、「天」「川」となっている。タイムスリップしたとき、お間違いの無いように。
 ちなみに、小学館の日本大百科には、第二次大戦中に米国軍が「lollapaloosa(驚くべきこと)」を合言葉にした例が紹介されている。日本人はどうしたって「rorraparoosa」になっちゃうから、ばれてしまう。LとRの発音が苦手なのはいまの日本人もそうだけど、いやはや、運命をわけるとなれば、しっかり発音練習しなくちゃなあ。

5 thoughts on “きみは誰

  1. 没ネタ。時刻表が商業出版物として最初に売り出されたのは19世紀半ばのイギリス(日経9月19日)。クジラの祖先はウシなどに近い偶蹄目(朝日9月20日)。高さ約170センチ、最大級の家型埴輪出土(朝日9月21日)。紀元前1世紀から紀元1世紀ごろ、日本最古のすずり出土、文字使用の起源論争に一石(日経10月4日)。

  2. 歌の上手下手。そんなのは気にしなくてもダイジョブダイジョブ。思い切りほめてあげて「楽しかった?」って聞いてあげてくださいね。大人だってご愛嬌のカラオケってあるじゃないですか(笑)。ねえ?!
    音を楽しむんですから。専門職は、、、音を学ぶですかね。

  3. 今も昔も日本語には “L” の発音は存在しないため
    仕方のないことだと思いますよ。
    逆に英語に存在しない発音『りゃ、りゅ、りょ』なんてのもあり、
    “R” の発音はどの言葉でも難しいです。
    特にフランス語の “R” なんて至難の業です。

  4. 私は旧世代に属しているので、「発音」によるアイデンティティが「命に関わること」としては、「関東大震災」の際の「朝鮮人狩り」が先ず想起されます。もちろん祖父の時代の惨劇ですが、子供の頃「夜口笛を吹くな」と父から厳しく叱られたことがありますが、それも「虐殺」に関係があったようです。

    自己と他者を明確に区別するのは精神の成熟には不可欠ですが、区別しなければ安心して日常生活を送れなくなった現代とは何なんでしょう。

  5. いつも海外から興味深く読ませていただいています。

    発音が生死を分けた古い例としては、聖書の士師記(裁き人の書)12:4-6にギレアデ人がエフライム人と戦った際に生じたことが記録されています。
    ギレアデ人はエフライム人が川の渡り場から逃げないように、来た人に「シボレテ(シボレト)
    「合言葉」にまつわる話、洋の東西や時代の如何を問わずいろいろなエピソードがあるようですね。

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