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ことばの同心円

2001年8月07日 【コラム
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 高校生の頃、友人に「東京人みたいなしゃべりかたするなあ」とよく言われた。兵庫県の片田舎で生まれ、育っている。東京には住んだこともないし、当時は訪れたことさえなかった。母が若い頃数年間東京で暮らしていた影響じゃないかと答えておいた。
 松本修著『全国アホ・バカ分布考』を読んでいて、そんな若い日の記憶がよみがえり、ふと手が止まった。テレビ番組がきっかけで学術的にも意味深い調査が生まれたとして話題になった書籍だ。その中に、「京都府の丹後半島などは東京式アクセントである」と書かれていたのだ。母は丹後の出身。とすると、東京暮らしなど関係なく、母はふるさとのアクセントでしゃべっていただけなのだ。それをぼくが受け継ぎ、「東京人みたい」と言われることになる。
 といっても、東京のアクセントを丹後の人が真似しているわけではない。それは昔、京都でしゃべられていたアクセント。それが時代とともに周辺部に広がり、関東の人も使うようになる。しかし京都ではより新しい、今でいう関西風のアクセントが生まれ、それが広まっていく。しかし広まりきらないうちに、時代は現代へ。こうして、丹後と東京に似たようなアクセントが残る。丹後と東京では距離が違うが、半島部などでは言葉が残りやすいとされている。
 中心地から同心円を描くように徐々に言葉が広がっていく。かつて柳田國男がとなえたこの考え方を「方言周圏論」という。「アホ・バカ」や「かわいそう」「みにくい」など感情表現について、大規模調査をふまえて方言周圏論を裏付けたのが「アホ・バカ分布調査」だった。大阪大学の徳川宗賢教授によると、言葉の伝達速度は年間930メートルともいう。東北地方には、かつて京都で話されていた言葉が残る、というのもおもしろい。ふと、はるか遠く、宇宙の果てを見ればこの宇宙のはじまりを見られる、という事実を連想する。
 ルーツを知るには、周辺を知る。中央がすべてじゃ、ない。

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12 comments to...
“ことばの同心円”
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小橋昭彦

ことばについては、つい最近も「縄文語」としてとりあげました。『全国アホ・バカ分布図考』はたいへんおもしろいです。ウェブサイトとしては、これまで紹介したサイトのほか、「社会言語科学会」「日本語の起源」「サブカルチャー言語学」などもどうぞ。


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奥山薫

私も東北の山形県の酒田市の出身ですが、言葉、文化が京都、大阪と非常に似ています。挨拶に「まいどさん」とかこれは関西弁の「まいど」と同じです。
これは、江戸時代北前船の影響で関西から言葉が東北の一部に直接伝わったのではないでしょうか?
同心円上で広がるだけではないのではと思います。


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夫は北海道→東京育ち。私は京都。
北海道の言葉はとても聞き易いけれど
東京言葉にムッする関西魂は、なんなんでしょうね。


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奥津 薫

私は東京生まれで現在山形在住。同じ言葉を違う意味で使っている当地の方言を、大変興味深く観察しています。

言語学の方で気になる面白い話に、「ローマ字の発音が東欧語に似ている」ということがあります。
humburgerはローマ字で読むとハンブルグですよね。英語ではハンバーガーですが。ルーツは同じなのかもしれません。


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斉野

方言で古い言葉が残っているという話は面白いですよね。
Let” s Tryクマモト弁!の例文集・雑文集にもいくつか例があります。


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同心円上に言葉が広がる根拠のひとつとして、
九州地方と東北地方で共通の方言がある、
と聞いたことがあります。
例えば、何でしょう?


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小橋昭彦

奥山薫さん、ご明察どおり、北前船で運ばれたと考えられる言葉も『アホ・バカ分布考』で指摘されています。「ハンカクサイ」などです。

☆さん、九州と東北地方で共通の方言、数多く指摘されています。やはり『アホ・バカ分布考』によれば、「0だけど」を意味する東北の「0ども」は鹿児島の「0どん」と共通だとか、東北の「ホンジナシ」は九州南部の「ホガネー」とルーツが同じだとか、「かわいそう」は東北でも九州でも「むぞい」とか。


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屋形 彰男

社内の掲示板で関西からのカキコミに東京の某役員が「バカみたい!」と私見を述べたあと付け加えたひとことが、東西で大騒ぎをひき起こしたことがありました。
これが「アホみたい!」であれば何でもなかったようです。
双方のニュアンスが分かる私が仲裁を買って出ましたが、関東で「バカ」はまるで相槌のように頻繁に使われますが、これは関西の「あほか!」に近い感じです。
関西人が「バカ」と言われると人格まで傷つけられた感じがするもののようです。


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なお

今回の話題は丹後半島中央部分の町出身である僕に
とって身近でちょっとニヤッとする話題でした。
この「方言周圏論」は学生の時代に聞いていて
なるほどそう言うことかと頷いたものでした。
小橋さんが経験されたようなこともありましたし。

地元の話題だったのでうれしくなって
書きこみましたが、情報のない書込みで
申し訳ありません。


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相良無意味

私も中学時代、「訛ってないけど東京から来た?」とか聞かれたことがあります。
私の場合は小学時代、河内のほうに住んでいたのですが、新興住宅地でした。
いろんな所から集まった人々がいて、訛りが一定していなかったので、標準語で話していたようです。
特異な例だとは思いますが、こういう人も居るという事で、参考までに。


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先天性都民

ルーツを知るには、周辺を知る。アンチ中央がすべてじゃ、ない。


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羽渕敏伸

最近の田舎では、地域の交流が薄れて
それに反比例してテレビの影響力が
増していると思います。

年配の方は豊かな方言でしゃべるのに
子供達に標準語が多いのはそのせいかも
しれません。

最近は再び(?)中央が
ルーツになるのではないかとも
思いますね。




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 実家に帰った折に、高校生のころ読んだオールディスの『地球の長い午後』を読み返す。はるかな未来、地球は太陽に同じ面を向けて静止し、植物が支配する世界になっている。昼の側の半球をおおう一本のベンガルボダイジュ、月まで旅するツナワタリ。人間は植物と戦いながら暮らしている。めくるめく想像力。いまもぼくにとってのベストSFに入る長編だ。 統合バイオサイエンスセンターの塚谷裕一助教授による『植物のこころ』に、花見といえばすぐに思い浮かべるソメイヨシノはほとんどがクローンである、とあり、はっとする。ヒガンバナや竹だって、あるいはキンモクセイも、クローン。だからみんな同じような表情をし、ほとんどいっせいに花を咲かせる。似ているのも当然だったのだ。竹は地下でつながっている場合がほとんどだから、山を覆う竹やぶ全体がひとつの個体とも考えられる。巨大な生物。 オールディスの奇想も、けっして突飛ではなかったのだと納得する。単にホラ話を書いたというのではなく、身の回りの植物の声を聞き、姿を観察する中で、はるか未来の地球を夢想したのではなかったか。 植物を擬人化してかわいがったり、保護するといって強者の立場にたつのではなく、純粋にこの星を生きる仲間としてとらえること。草木が眠ったり、なびいたり、ゆるがなかったり。草木の動きを表現することで状況をうつしとる言葉の数々に、かつてはそれらが生きていることを実感していた時代があったことを思う。 いくら時代がスピードアップしたからって、草木のいのちを感じる感性は、100年やそこらで失われたりはしないと信じたい。ぼくたちは、多くのいのちにかこまれて、この星を生きている。

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