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ちょっと知的な雑学&トリビア

認知的評価理論

2005年11月10日 【コラム
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 前回「ご褒美を前提に食べさせても意味がない」と書いて、これっていわゆる認知的評価理論だと、あとになって気づいた。ある生理的反応に「嬉しい」とか「悲しい」というラベルをつけるのが感情だという理論。
 これはけっこう便利な理論で、たとえばロボットに「心」を持たせようとすれば、心とは何と哲学的に考えなくてすむ。強い衝撃を受けたときに目から水を流すようにすればいい。するとそれを見た人が「痛がって泣いている、このロボットは心を持っている」と誤解してくれる。
 誤解と書いたけれど、これはごく普通に行われていること。心理学実験に、被験者に興奮作用のあるアドレナリンを注射して、周囲のサクラに怒らせたり喜ばせたりしたものがある。すると、周囲が怒っていると「自分も怒ってどきどきしている」と考え、逆に喜んでいると「嬉しくてどきどきしている」と考える傾向があると報告されている。自分はどきどきしているという認知を、周囲の環境と結びつけて理由づけるのだ。
 さて、人が何かに対して動機づけられる要因は、主として外発的なものと内発的なものに分類される。「ご褒美をあげるから」というのは典型的な外発的要因。一方、それそのものが楽しいというのが内発的要因だ。さいきんでは、外発的要因を高めると、内発的要因が低下するといった報告がなされている。ここに、認知的評価理論が関係する。つまり、ご褒美があることで、味覚の喜びをご褒美のためとラベリングしてしまう。それが食事の楽しみという内発性を下げるのだと。
 こうした知見は企業でもそのまま、成果報酬と仕事のやりがいの関係にあてはまるから、やっかいだ。まだ議論の続くところだけれど、少なくとも子どもを前には、ご褒美を前提としない努力をしている。そして気づいたのは、ご褒美を前提としないためには、対象自体の魅力を伝えなくてはならないということ。それはすなわち、自分の感性を磨くことにほかならなかった。

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8 comments to...
“認知的評価理論”
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小橋昭彦

認知的評価理論は、ジェームズ=ランゲ説と似ています(「なぜに悲しい [03.05.12]」を参照)。違うのは、ジェームズ=ランゲ説は、涙が悲しみを直接ひきおこすと考えているけれど、その間に、涙が出ていることを「認知する」という過程をおいているところですね。認知して、その原因を何かに帰属しようとして、感情が芽生えるってところ。
コラムで紹介した感情のラベリング実験は、感情の認知的評価理論の基礎となったもので、Schachter, S. and Singer, J. E. (1962)「Cognitive, social and physiological determinants of emotional states(Psychological Review, 69, 379-399)」。「感情の二要因(認知的ラベリング)」説といわれます。生理的反応の認知と、環境の二要因ということですね。また、内発的動機づけと認知的評価を結びつけたのはDeciらの研究。議論も続いていると書きましたが、そのあたりのやりとりは、村山航氏によるまとめ文書「外的報酬の効果論争(「ミニ・レビュー」からダウンロード可)」がよくまとまっていて便利。
認知的評価理論の産業への適応については「産業場面における認知的評価理論の有効性の検討」そして「働きがい研究」をご参照ください。「従業員のエンパワーメントとその効果」でも意思決定への参画の重要性が指摘されていますが、経営者が目標を社員と共有することもまた重要だということで。コラムでは触れられませんでしたが、モチベーションについては、確かに達成目標との関係も重要でしょうね。そのあたり、「学習者の動機づけのプロセス」などをどうぞ。
動機づけ理論の全体像については「動機づけ理論」が詳しいですね。
認知的評価理論のペットロボットへの適用事例として「感情を持ったペットロボット」「ネコロ開発秘話」などを読むと分かりやすいです。


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みうらん

教育や育児の分野で、誉めることがもてはやされ、「無理をしてでも誉める所を見つけて誉める」という手法が広がっています。伊藤進著「ほめるな」(講談社現代新書)ではこの点を批判的に捉え、やはり「無理に誉める行為」=「褒美」が内発的動機を低下させることが論じられています。私も本当に「わぁ、すごい」と思ったときにだけ誉めるようにしています。
動機付けの理論は面白そうですけど、こういう研究が結局は生産性向上に結びつけられてしまうのはちょっと悲しいですね。


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トクツトミオ

今回も心理系の話題ですが刺激と反応(SR連合論)の関係は近年は「LTP(嫌悪条件付け)」を主流にしています使う物質は塩酸リチュウムで実験動物等(被検者)は嘔吐します「嘔吐(反応)と刺激(音)を関係付ける(古典的条件付け)」と音を聞くだけで嫌悪反応を起こしますし、しかも演歌リチウムは副作用の少ない物質ですから良く使われています、一方アドレナリンやドーパミンなどの脳内ホルモン物質は危険(物質との関係で「習慣化」と「減感作」の関係等で…)が多く使わないと思いますが、その原典ではいまどき広く知られている例として使用したのだと思いますよ、


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αファン

ご褒美(外発的動機)を、象徴として扱うと、コラムでいう内発的動機が低下する限りでないということもあるはずです。外発的動機にばかり頼ると、ご褒美がないとやらなくなるのは当然なのですが、外発的動機を親が内発的動機に結びつけ、象徴としてあげることにより、自尊心は育つようです。
たとえば金メダルや賞状などがそれで、金メダルを見るたびに、がんばった自分を思い出すことができる。というものです。
なんにせよ、親(にあたる存在)の声かけは大事なようです。


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いうっちん

「ロボットに「心」を持たせよう」というところに反応しますネ。
実は、小学4年生0中学3年生を対象とした、ロボット工作教室をボランティアでやっています。午前中に組立て、午後からプログラムをやって簡単なレースをして終わります。そのプログラムを教えるときに「ロボットに「心」を入れるよ。心が大切だからね。」と言い方をしているんです。やっている子どもたちとロボットを繋ぐ意味もあると思っています。
それから、一般的に、玩具のロボットとして売られているものは、操作ボタン一つでスムーズに動くようになっているものが多いようなのですが、私たちがやってるロボットは個体ごとの癖がかなりあって、スムーズに動くロボットもあれば、そうじゃないのもあります。本来なら、こういったものをプログラムなどで制御して、誰が操縦してもスムーズに動くようにするそうですが。
で、子どもたちや、いっしょに来ていらっしゃる保護者の方々は、組立てたりプログラムをしているうちに、「なんだか人間臭いロボット」と思われるようです。これって、「周囲の環境と結びつけて理由づける」ってことの結果だなぁ‥‥と思いました。どんどん進化して行くロボットの世界、そういうところにも伸びていくのでしょうか。


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tom

親が美味しそうに食べているのを見て、子供が食べたいと思うのは
「外発的要因」なのでしょうか? もしそうなら、それは意味の無いものなのでしょうか?


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小橋昭彦

tomさん、ありがとうございます。
おっしゃっている状況は外発的にあたらないでしょうね。子どもに食べることを外からはたらきかけて関係づけていませんので。


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tom

小橋さん
ご返事ありがとうございました。
自分なりにもう少し調べてみます^^。




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