小橋 昭彦 2005年10月13日

 南アフリカのブロンボス洞窟内、7万5000年前の地層から発見された小さな巻貝がある。いずれも口と反対側に小さな孔が開いており、ビーズ飾りだったとされる。人類がそうした象徴表現を身につけたのは、ヨーロッパに進出した4万年前頃のこととされてきただけに、驚きをもって受けとめられた。
 それまでにも刻み目のある骨や顔料など、象徴表現を思わせる遺物は見つかっていた。ブロンボスの貝殻は、それらが例外的な事例ではなく、人類が象徴表現という現代的な思考を、古くアフリカ時代から持っていた可能性を示す。従来の見方は、ヨーロッパでの発見に偏っていたかもしれない。
 象徴表現が多くの人類によって日常的に行われるようになった背景には、それを利用した方が生存に有利な状況があったと考えられている。たとえば、人口の増加が集団間の対立を生み技術革新に拍車をかけた、飛び道具の革新が集団として協力する動機になったなど。貨幣へと続く歴史を思えば、交易にも大きな役割を果たしてきたことだろう。
 科学誌に紹介されていた、貝殻の発見者ヘンシルウッド博士らの言葉にはっとする。いわく、象徴表現とは、情報を脳ではなく、宝飾品や芸術、言語、あるいは道具として外部に保存することなのだと。再現実験をしたところ、貝殻に孔をあけるのはたいへんな作業で、細心の注意をはらわないと割れてしまったという。ヘンシルウッド博士は、こうした芸術的な洗練性も、まわりの集団と上手につきあうための贈答用だったと考えれば説明がつくという。
 まだおしゃべりする前の子と「どーぞ」「あんと」ごっこができたときの喜びを思い出す。自分の脳の外に、相手への思いやりという象徴をこめ、やりとりするときのぬくもり。なるほど象徴表現は武器も生んだ。しかしその根本には、こうした他者への思いがあったと信じたい。協力する心を育んだからこそ、人類は生き延びてきたのだ。

5 thoughts on “ブロンボスの象徴表現

  1. 以前のコラム「5万年前の壁 [05.02.03]」もご参考にどうぞ。人類の文化にビックバンがあったのか、あるいは漸進的な進化だったのか。研究が続いているところといえそうです。今回のコラムについては、「Origins of Modern Human Behaviour The Debate」及び「人類の文化の夜明け 早かった象徴表現の起源」を参考にいたしました。
    前述した「Christopher Henshilwood」教授の「Blombos Cave Project」には注目。
    Sally McBrearty」による「The revolution that wasn’t: a new interpretation of the origin of modern human behavior.」は、5万年前の壁はなかったという立場の論文です。

  2. 先月の読者会に行けなくなり本当に残念でした。理由は子供の子供(孫たち)の運動会でした、会場まで行ってから孫がここには三人(合計六人ですが…)いることを思い出しました、それで「一競技」で帰り、春日へ行く計画でしたが娘から「お父さんまだ出るよ!」と言われて動けませんでした。子供たち=異母兄弟が「食事しようよ」というので付き合いましたがそれがさらに遅くなった理由でした。それで「今回はキャンセル」と決めました。てな訳でした、ごめんなさい。そして今回のメルマガの内容は実は植物学をやってい研究者間での話題に接近する一つのアイデアでした。即ち「脳の外部に記憶を保存する」というアイデアは「植物に神経回路(情報伝達系)が存在しない」とする既存の学会では受け入れてもらえないのに研究する何人かの仲間のテーマと見事に一致します、一人は植物の声を変換するアルゴリズムを使ったプラントロンというパソコンのソフトを作った東京学芸大の胴金祐司さんなどがそうです。さて「記憶の外部保存説」は高等動物の進化の過程で特異的に現れるたのでしょう。因みに下等生物(海生カタツムリエプリシア)では「記憶の学習訓練過程の構築に成功」した米のE・カンデルはノーベル生物学賞を受けましたね、
    記憶を外部保存するという説は楽し?喜ばしい知らせでした。わが意を得たりでした。

  3. 装身具というのは、孔雀やライオンなどが派手な身体的特徴で異性を惹きつける行動の延長に有るのではないかと思います。
    鳥や魚の一部で立派な巣を作って異性に求愛する行動も観察されていますが、装身具というのも、異性に対する求愛や同性に対する優位性の誇示などの用途から発展したと考えれば、人間特有の行動とは考えられないのではないでしょうか?
    勿論、技術のレベルは別ですが。

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