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ちょっと知的な雑学&トリビア

羽はなぜ

2003年7月31日 【コラム
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 飛ぶために羽が進化したというのは、ピアノを弾くために指が進化したというようなもの。プラムとブラッシュが科学誌に発表した論文にそんな一節があって、心にとまった。確かに、進化を目的論でとらえると道を誤る。では、羽はどのようにして今の形態になったのか。
 進化発生生物学という考え方がある。1866年に動物学者ヘッケルが、著書で「個体発生は系統発生を繰り返す」と主張しているが、その後否定的にとらえられていたこの説の、いわば現代版とでもいうもの。鳥の個体発生を観察することで、羽の進化を推測する。それによると、羽の進化は、大きく5つのステージに分かれるという。はじめは中空のチューブのようだったのが、ふさのようになり、やがて現在の風切羽のようになる。
 実際に空を飛べるほどの羽の構造は、第5ステージになってから。初期段階の羽をもった恐竜が生き残ってきたということは、空を飛べないまでも、たとえばチューブのような羽を持った体表に、それなりの意味があったということでもあるだろう。プラムとブラッシュが描く系統樹では、現在の鳥類は恐竜の一グループとなり、始祖鳥などと同じくステージ5の羽を持つものの一部となる。系統樹をたどれば、なじみの深い恐竜、ティラノサウルスがステージ3の段階付近に顔を出す。ティラノサウルスも羽をもっていた可能性が高い。もちろん、飛んだわけではないけれど。
 ぼくたちはつい、できごとには目的があると考えてしまう。でも、進化とはそうしたものではない。淘汰と選択のなかで、羽は段階を追って獲得されてきた。ティラノサウルスが羽をもっていたとして、それが何のためであったかは現時点ではわからないし、これからもわからないかもしれない。ふと、それもまたいいかと思う。理由がどうであれ、獲得した羽を受け入れ利用したからこそ、鳥は鳥となり、大空を舞った。そういうことだ。

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9 comments to...
“羽はなぜ”
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小橋昭彦

とはいえもちろん、科学の醍醐味は「なぜ」「なぜ」と問うところにあるわけですが。「Richard O. Prum」博士らの説は、近年の羽を持った恐竜の発見によって裏づけが進んでいます。「Wings Aplenty: Dinosaur species had feathered hind limbs」「FIRST DINOSAUR FOUND WITH ITS BODY COVERING INTACT」「Overlooked fossil spread first feathers」などをご参照ください。また、「Evolutionary Transitionals From Dinosaurs to Feathered Birds」も参考になります。恐竜については「The Natural History Museum” s Dino Directory」など。鳥の羽については「鳥の羽の種類」なんてしっかり調べられています。


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秋山哲也

小橋さま
ご無沙汰しております。秋山製作所の秋山哲也です。
今日の鳥の羽のお話、目からウロコが落ちる思いで読みました。私もどうしても目的、理由から物事を見るようになっているのかもしれません。自然にあるものを、ただ受け入れて、その力を利用するという発想はすばらしいです。
小橋さんが故郷へ帰郷し、自然のなかで生活しているからこそ、気がつくことなのでしょうか。世俗にまみれていないと生きられない僕には、できない選択ですが、うらやましくもあります。今後も新たな気づきを与えてください。


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nakaji

小橋さま、鳥の羽が人類あこがれの飛行という行為に極めて適合したもののため、単なる進化という目で見られ難くなるのかもしれませんね。極地に住む生物にはもっと不可思議な進化が有りますものね。考えてみると、鳥の循環器系を見てみても飛行というのは凄い極地な環境といえるのかもしれませんね。


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Ree Fou

今日はタイトルに惹かれてすぐにメールあけました。
「理由がどうであれ、獲得した羽を受け入れ利用したからこそ、鳥は鳥となり、大空を舞った。そういうことだ」
うーん、深いですね。何かを目指すためには、余計なものは切り捨てる!、と思いがちですが、反対に受容することで、得られるものがあるのだなあ、としみじみしました。ちょっと元気でました。


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匿名

人生訓として、というとおおげさですが
「受け入れ利用したからこそ大空を舞った」
というのは、納得するものがありました。

もっとも、受け入れるのも、簡単でない
こともある、かとおもいますが。


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小橋昭彦

秋山さま、先だってはありがとうございました。nakajiさま、ReeFouさま、ありがとうございます。単なる雑学的事実を伝えるところで終わらないでおきたいと考えて書かせていただいているので、そういう部分で読み込んでいただいて、とても嬉しく思っています。


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宮内憲一

鳥の羽は後足の進化したものですかそれとも前足ですか?というのは鳥の足の曲がり方を見ているとヒトでは腕から手の曲がりのようですよね。前方を向いたとき、腕の関節は後方に曲がっています。鳥の足と同じですよね。人の足は関節が前に曲がってきて、鳥の足とは逆になっていますよね。それから推察すると、鳥の足はヒトで言う手(前足?)が進化していったように思えるのですが如何でしょうか?


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小橋昭彦

宮内さん、おもしろい着眼点ですね。

ただ、何を「前足」「後足」と定義するかによるのですが、骨盤に近いところを「後足」と考えるなら、鳥の足はやはり後足と考えるべきかと思います。


[…] This post was mentioned on Twitter by 小橋昭彦. 小橋昭彦 said: そういえば昔の拙作コラムでこの手の話をとりあげていました。 http://zatsugaku.com/?p=521 http://zatsugaku.com/?p=360 RT @sasazamani: 火の使用にも […]




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 畑でもいだトマトを袖口で拭いてかぶりつく。太陽の光を含んで、ほんのり甘い。量販店で買うと野菜にすぎないけれど、ここでは果物のよう。このトマト、日本へは観賞植物として入ってきたのが最初で、北欧や米国でも食用は敬遠されてきた。毒があるとされていたからで、安全性が信じられるようになったのは、1820年の出来事がきっかけという。アメリカ独立戦争の退役軍人ロバート・ジョンソン大佐が、ニュージャージー州セイレムの裁判所前でひとかごのトマトを食べた。気分が悪くなることもなく、高血圧や癌になることもなかったという言い伝え。 裁判所とトマトといえば、野菜か果物かで訴えられたことも有名。1883年米国、野菜になると税金が高くなることを嫌った輸入業者が、最高裁で争ったのだ。結論は、野菜。野菜畑で作られるし、デザートにもならないというのが理由だった。 現在の日本でも、トマトは野菜扱い。農林水産省では、多年生で木になるものを果物、毎年育てて草の葉や実などを食べるものを野菜としている。この定義では、メロンやイチゴ、スイカなども野菜に含まれる。これらは卸市場や店頭では果物扱いだから、生産的視点からは野菜、消費の視点では果物に分類されるというわけだ。 野菜という言葉は、本来は名前の通り野生のものを指した。畑などで作る園菜と区別されていたのだ。江戸時代半ばから、現在の意味での野菜として使われるようになり、野生のものは山菜など別の名称で呼ばれるようになった。 呼び名は、視点や時代に応じて変わる。トマトといえば、1994年に世界ではじめて売り出された遺伝子組み換え作物がトマトだった。テクノロジーが物自体を大きく変えてしまう現在、ぼくたちは呼称ではなく、その物自体とよりまっすぐ向きあうことが必要だろう。そんなことを思い、緑のつるにぶら下がる赤い実をまたひとつ、手のひらにした。

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