小橋 昭彦 2003年6月26日

 宇宙船が大気圏に再突入する際に進入角度が重要と知って以来、水切り遊びをするたびそのことを思い出す。平らな石を拾って川岸からサイドスローで投げる、石は水面をぽーんぽーんとはね、向こう岸に向かっていく。波紋を残す水面に、写真で見た青い地球を重ねる。その瞬間、ぼくは宇宙人になって地球の上に浮かんでいる。
 もっともこれが宇宙船なら大事故で、大気圏への進入角度が浅く跳ねてしまったらもう手立てはない。かといって角度を深くしすぎると、減速が激しすぎる上、摩擦熱で燃える。現在のシャトルでは、機体表面の最高温度は摂氏1400度くらいが見込まれている。それ以上高い温度に耐える軽くて強い素材は技術上難しい。減速面では、重力の2倍(2G)程度。ジェットコースターには3Gや4Gなんてものも登場しているから、その点では宇宙飛行士も楽になった。
 さて、水切り遊び。ミニシアター発でヒットした映画『アメリ』の主人公も好きだったようだし、英語でskipping stoneという表現もあるから、世界で親しまれているのだろう。この遊びに、科学で切り込んだ学者がいる。フランスの物理学者リデリック・ボッケ。水切りを繰り返す条件を連立方程式を立てて計算したもので、石の初速だけではなく、回転率が成功の鍵になるという。いい回転を与えることで、水面にぶつかっても傾きにくくなり、縦になって沈まない。水切りの世界記録は38回。ボッケは、このとき石は時速50キロ以上で投げられ、毎秒14回転しつつ12メートルの距離を飛んだと推測している。
 宇宙船から物理学まで。単なる遊びとはいえ、奥が深い。ボッケが研究を行ったきっかけは7歳の息子の質問だとか。わが家でも明日の幼稚園の帰り道、水切り遊びをしてみるか。そんなことを思い、それからふと、自分が幼い頃水切りをした岸辺は、護岸されてもうないことを思い出す。自然の風景を失うとは、ただ自然を失うだけではないのだなあ。

3 thoughts on “水切り遊び

  1. 小橋さん、おはようございます。
    川に石を投げるあの遊び、水切りというのですね。初耳でした。
    今勤めている高校には映画ライターの方がいて、
    いろいろ映画の話も聞きたいのですが、
    とにかく仕事が多く、それどころではないのです。
    『アメリ』いいらしいですね。見たいです。
    落ちがなく、すみません。

  2. いつも楽しく読ませていただいています。

    『自然の風景を失うとは、ただ自然を失うだけではないのだなあ。 』

    この言葉に非常に感銘を受けました。
    名言ですね。

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