小橋 昭彦 2001年11月18日

 法政大学の原田悦子教授らのグループが行ったユニークな実験が新聞に紹介されていた。「中学生が学校のガラスをボールで割る」などのビデオを見せ、起きたことを証言してもらう実験だ。ただし「禁止されているボール遊びをしていた」など事実の一部は言わないように依頼しておく。
 対象は大学生24人と65歳以上の12人。事実の一部を言わないように依頼しているから、証言につじつまの合わないところが出てきたりもする。それを指摘したときの反応なども比較した。
 すると、大学生はガラスの割れた理由をすりかえるなど積極的なうそが92回あり、ほかにもあいまいにごまかすなど逃げの姿勢が目立った一方、高齢者は真実を明かした例が44回と多かったうえ、積極的にごまかす回数は少なかった。
 うそも方便、という言葉を思い出す。方便というのは仏教用語で、法便とも書く。衆生を真の教えに導くために用いる、便宜的な手段のことだ。考えてみれば、方便のない毎日なんてないわけで、ぼくたちは相手に喜んでもらうために当初の考えを曲げたり、よりよい結果を目指すために相手にわざと厳しくあたったり、さまざまな関係を周囲との間に築いている。
 実験の結果から、高齢者の方が正直だと分析するか、事実の一部を隠してほしいという依頼を守れなかったので不誠実と考えるか、とらえかたはいろいろあるだろう。起こった事実に創造を加える柔軟さの差なのかもしれないし、つきつめられたときに耐える体力の差かもしれない。
 ついでにと思って精神科医ペックによる『平気でうそをつく人たち』に目を通す。そこには一見正しそうな嘘をそれと気づかず口にし、他人を傷つける病んだ人たちの事例が並び、深く考えさせられた。
 ぼく自身、うそをつかないかというと、たぶん、ついている。子どもにサンタクロースを信じさせることだって、うそだし。ただ、うそはついても、人をだますことはない。ないと思うが、じつはそんなごく普通の人間が邪悪であったりするとペックは指摘する。真実と事実と誠実と。ぼくたちはいろいろな実(まこと)の間を生きている。

6 thoughts on “うそ

  1. 中国の笑話:笑府から
    「こも」
    貧乏な一家、「こも」をかぶって寝る。
    子供は正直なもので、平気でそれを人前でいうので、おやじが鞭でたたいて、
    「これから人にきかれたら、夜具だというんだぞ」
    ときつくいいふくめる。
    ある日、親父が来客に会うのに、こもの、藁くずをくっつけたまま出て行こうとするので、息子、うしろから呼び止めて、
    「ちょっと、顔の夜具を払いなさい」

  2.  仕事のうそ、男女のうそ、生活のうそ、考えたら色々なうそとつきあってる。せめて私生活の自分にはうそをつきたくないと思いがんばる、けどうそをつかないようにがんばらなければならないのが悲しい。やっぱり真実はつらくて厳しいからうそでもついて紛らわす。
     だからうそをつく人がみな邪悪であるなどとは考えたくない。だって人間の本質だと思うか。

    ps.
    歌にも多いですよね「うそ」を題材にしたもの。

  3. 小林さんのコラムにも指摘のとおり、研究論文の原文を見ないとなんともいえませんが、この実験結果の判定にはいささかの疑問があります。「依頼」に対して誠実だった若者を「平気で嘘をつく」と表現してしまわれているのではないか。「いまどきの若者を批判したい誰かが」欲しい結果になるように操作された実験だったのでないか。など。研究者に対しても不信を抱かざるを得ない表現ですよね。マスコミに対する信用度も、読む側の注意力も問われる生地だったと思います。

  4. うそかまことか真剣に悩んだことはありますか?

    子供の頃、親の言うことをきかないと「お前は橋の下に捨てられていたのを拾ってきた他所の子だ」とよく言われました。
    母方の祖父母は私をとても可愛がってくれましたから、母の実家に入り浸っていましたが、そこでも悪戯をしたり我儘放題をすると大人達から同じことを言われました。
    さあ大変です。橋といえば当時江戸川と呼ばれていた神田川の石切橋あたりの小さな橋しか思い当たりませんから、おそるおそる覗きに行きました。でも水がどんどん流れていて、とても幼い子供がしがみつけるような場所が見当たりません。でも、その真贋は未だに確認していません。祖父母も叔母も亡くなって、後は両親に尋ねるしかありませんが、還暦まじかになっても恐ろしくてとても確かめる勇気はありません。

    自分の子供には「この手」は使いませんでした。それほど恐ろしい「本当の話」です。

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