小橋 昭彦 2002年3月24日

 地学の授業でプレートテクトニクスを習ったときは驚きだった。大地が動く、しかも何億年も前から大陸は離合集散を繰り返してきたというのだから。
 もっともプレートテクトニクスが説明するのは地殻から上部マントルまでの700キロメートルの世界。地球の半径6400キロからするとわずかだ。700キロから下、2900キロまでの下部マントルの世界を描くのが、プルームテクトニクス。東京工業大学の丸山茂樹教授らが提唱者だ。
 プルームテクトニクスは、マントルの中にスーパープルームと呼ばれる巨大な上昇流があり、それが地球を動かすエンジンとなっていると説明する。プレートが沈み込むときに大量の水がマントルに入り、これが燃料の役目をしてマントルの動きを活発化、スーパープルームを生み出すというシナリオだ。東京工業大学の広瀬敬助教授らが実験したところ、地球の下部マントルには、地表にある海水の5倍の水を蓄える能力があることがわかっている。
 火星への植民を描いたキム・スタンリー・ロビンスンの小説を読んでいる。失われた水を取り戻し、火星緑化を進める人々。火星に水が無い原因については、水素になって惑星間空間に吹き飛ばされたなどいくつかの説があるが、丸山教授は、過去に存在したプレート運動によって大量の海水がマントル深部に運び込まれ、いまもそこに閉じ込められていると推測している。赤い惑星の奥深く、多くの水が眠っているのだろうか。
 地球と火星の大きさの差からすると、火星の海水がマントルに移動したのは約41億年前。丸山教授は、地球も10億年後には火星と同じ運命をたどり、すべての水が地表から失われてしまうという。
 最近の火星の地形の研究から、1000万年前に火星の赤道付近で洪水が起こったともされている。表層にはつい最近まで一定量の水が残っていた可能性もある。もっともそれとて、ヒトが誕生するはるか前のこと。人類がいつの日か、火星の海を見る日は来るだろうか。

3 thoughts on “10億年後の大渇水

  1. キム・スタンリー・ロビンスンの著作は『グリーンマーズ(上)』『グリーンマーズ(下)』です。前作『レッドマーズ(上)』『レッドマーズ(下)』そして次の『ブルーマーズ(未訳)』とあわせ、90年代火星SFの代表作ですね。
    火星の洪水跡については「Floods at Mars” Equator Are Recent UA Scientists Say」をどうぞ。火星については「日本惑星協会」の説明などがわかりやすいです。広瀬助教授らの論文は「Science Magazine 8 March 20021885-1887」に掲載されています。プルームテクトニクスについては、岩波新書の『生命と地球の歴史』を読み、著者の「丸山茂徳研究室」へどうぞ。インタビュー記事として、「NetScience Interview Mail」が充実。そして「サイエンスフロンティア」や未来高額研究所の「未来人インタビュー1」「未来人インタビュー2」をどうぞ。その他、「スーパープルームが地球を変える」「全地球ダイナミクス」「地球のからくり」もご参照ください。ついでに「火星の地溝と洪水」もどうぞ。

  2. 壮大な話、ありがとう。
    10億年後の人類についての研究、見つけたら、教えてください。

  3. >10億年後の人類についての研究、見つけたら、教えてください。

    あはは、そうですね、はい。10億年後には人類は絶滅しているでしょうね。どんな生物がいるんでしょうね、地球上に。そんな画集があった記憶もありますが、また調べておきます。

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