小橋 昭彦 2020年4月29日

この機会にと、かつて読んだ健康関連の書籍を読み返している。以前書いたことと一部重なるけれど、あらためて振り返る。

健康という言葉は江戸時代末期から明治初期に翻訳語として日本に入ってきた。それ以前の似た言葉でいうなら、養生だ。

 

ただ養生と健康では言葉のニュアンスが異なっている。いま健康というと、ウォーキングしたり食事に気を遣ったりと、能動的に手に入れるイメージが強い。

一方の養生はどうか。貝原益軒『養生訓』は「人の身は父母を本とし天地を初とす」と始まる。健康は授かりものだから大切に扱えということだ。

大切な個所を保護するために使う「養生テープ」の語感はもとの意味に近い。これが「健康テープ」だと、貼った部分を健全にする作用を期待するだろう。

 

なぜこの時期に健康という言葉を導入したのか。富国強兵に伴う人材の強化という目的もあったろう。一方でコレラが流行し、伝染病予防に力が注がれたという背景もある。

明治13年に伝染病予防規則が制定され、その後全国で「衛生展覧会」が開かれて衛生という概念が広がる。マスクが普及するのもこの頃。当時は防塵対策という側面もあって、黒いマスクが主流だった。

おそらくは令和の今、あらためて「健康」観を見直すことを迫られている。明治期が健康な個人の創出に主眼を置いたとするなら、今は社会の健康が問われているのではないか。

本来、健康は手段だったはずだ。何かを行うために、健康でありたいと。それがいつの頃からか健康そのものが目的となった時代に、ぼくたちは生きていた。健康であろう、長生きしようということが、ゴールになっていた。

 

新型コロナの流行で日常生活を奪われた今。

その日常は、なんのためにあったのだろう。日常の先に、何を得ようとしていたのだろう。健康であることの先に目指すものを問われているように感じている。

アフターコレラは国家による統制とその先の暗い時代につながっていった。

アフターコロナはどうだろう。われわれは、どのような社会を築くのか。あなたは何を為すのか。ステイホーム。キープシンキング。

7 thoughts on “アフターコロナ

  1. 健康観の変遷を調べていた当時に書いたコラムはこちら。「健康ということ(2005.06.23)」「衛生展覧会(2003.11.02)」をご参照ください。15年以上前。その頃はまさか明治初期の再現のような状況が訪れるとは思ってもいませんでした。

    黒マスクの歴史はNHKの「黒マスク 調べると意外な事実が(2005.06.23)」に分かりやすく紹介されています。

    参考書籍は、上記コラムのコメント欄で紹介していますが、再掲しておきます。

    田中聡『衛生展覧会の欲望』、小野芳朗『「清潔」の近代』、『健康不安の社会学』、『健康観にみる近代』、『「健康」の日本史』などです。

  2. こんにちは。考えさせられる内容でした。いつまで続くのかわかりませんが、コロナ禍の後の対応は社会変革につながる重要なことですね。私の職場の大学も混乱しております。特に新入生は友人も無く、淡々とネット授業を受けており、モチベーションの継続が気がかりです。息子さんは確かうちの娘と同級だったと思いますがいかがお過ごしでしょうか。うちの娘は今のところ、大学にはいれず、時間が余った分、料理にはまっているようで、まあいいのかなとも思っています。

  3. ありがとうございます。長男は就活で、すべてオンライン面接で完了しました。次男は今年から大学ですが、前期はオンラインということで、連休明けの開始です。都会生活が先送りになりましたので、生活費的には助かったのがちょっとした救いですが、サークルを始めとした学生生活の醍醐味も先送りです。

  4. アイデアマラソン研究所の樋口健夫です。東日本の大災害の後、私は、国際防災防疫機構を組織することを提案してきました。防災で言えば、毎年世界中で森林火災、洪水、大旱魃、大地震、火山、台風、ハリケーン、サイクロンの被害、飢饉が起こっています。森林火災も規模の大きさから、単なる一つの国の国内のことではありません。隕石の落下も起こり得ます。それに今回のパンデミックのこと、常設の対策軍を用意する時が来ていると思います。世界に5か所から10か所の対策軍の基地を建設し、これらの災害やパンデミックが発生すると、直ちに出動することができるように用意すべきと考えます。食料貯蔵、医薬品貯蔵、病院船、輸送機、防災研究所、感染医学研究所なども備えたいものです。今回のコロナですべての国家は、財政力無視の政策を取らざるを得なくなりました。備えあればを思い知ったと思います。、

  5. ありがとうご。まさに、ですね。そして、なんとか普段使いできる対策軍を創案できないかと思います。

  6. 小橋さん、こんにちは。
    私もつい先日「アフターコロナ」について書いたところでした。
    すると、示し合わせたわけでもないのに、あちこちでいろんな人がアフターコロナについて書いてるのが目につくようになりました。もちろんカラーバス効果もあるのでしょうが、そろそろ、そういう気分になる人が出てきてるんだろうなと思います。
    健康第一でお過ごし下さい。

  7. 収束にはまだまだかかると思いますが、収束したらもとに戻るという認識ではいけないという思いが共有されてきたのかもですね。

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